援護に恵まれず、プレッシャーのかかる投球

 私が見た試合は4−11で敗れた本拠地・アーリントンのレッドソックスとのゲームだった。被安打数、失点とも自己ワーストという試合だったが、ピッチング自体は悪くはなかった。初めての対戦ということで、スカウティングレポートのミスもあったのだろう。
 
 今季のダルビッシュの特徴だが、制球はイメージしている通り完ぺきではないが、そう悪くなることがない。分かりやすく言うと、ボールが真ん中に集まることが少なくなった。低めや内角への投げ分けが可能になり、QSをコンスタントに続けられている。ひじの不安が解消されていいコンディションで投げられているのではないか。
 
 ピッチング内容ほどの結果が出ていないのは、味方の援護に恵まれず、余分なプレッシャーが掛かっているからだろう。ピッチャーは目の前のバッターをどう打ち取るかだけを考えて投げるものだが、ダルビッシュはさらに味方打線のことも考えてしまっている。
 
「ここで失点すると勝てる可能性が低くなる」という場面で、0点に抑えにかかって、逆に落とし穴にはまるというケースが今季いくどか見られた。
 
 ヤンキース打線をバックに投げるのと、ヤンキース打線を相手に投げるのとでは大きく違う。今のダルビッシュは、我慢のピッチングを強いられている。
 
 ドジャースにいたころの野茂英雄が「もっと強いチームで投げていれば、もっと勝てる」などと言われたように、ダルビッシュもまた同様に言われている。そう言われることが、ピッチャーにとっては最高の誉め言葉だ。

スライダーはMLBでも一級品

 ダルビッシュのスライダーはメジャーでもピカイチのレベルと評価されている。バッター寄りで曲がり始めて、曲がり幅が大きい。あれほどのスライダーを投げられる投手はそういない。
 
 マックス・シャーザーのスライダーも優れているが、ダルビッシュの場合は回転数が多く、斜めに曲がるようなイメージなので、落差に違いがある。バッターからすれば、振る直前までは真っすぐにしかみえないのではないか。左バッターのひざ元に決まったら、まず打たれることはない。それぐらい曲がり方が鋭い。
 
 そんなダルビッシュには、やはりポストシーズンのある10月にどういうピッチングをするか、見てみたいところだ。日本人選手はどうしてもシーズン後半にガス欠になることが多いが、今季はどうなるのか。

MLBはポストシーズンにトップギア

 春先の滑り出しで「すごいな」と感じた選手が、シーズン終盤には「ものすごいな」となるのがメジャーリーグだ。選手には「10月に働かなきゃダメなんだ」という考えが刷り込まれていて、パフォーマンスはポストシーズンの方が高い。
 
 一方、日本人選手は開幕で「すごいな」から始まるものの、中盤から後半にかけて「大丈夫かな?」と思うようなピッチングになる。日本は、レギュラーシーズン開幕から終了まで全力で頑張って、そこから日本シリーズに出ていく流れでやっている。7月まで普通にやってエンジンをかけて、10月にトップギアでいくメジャーリーガーとは少し異なっているのだ。
 
 10月に活躍するメジャーリーガーは開幕から全力ではない。しかし、アベレージ以上のピッチングはする。だからスーパースターと言われるのだろう。クレイトン・カーショウ、マックス・シャーザーはずばぬけている。
 
 ダルビッシュはトレードされるか否か、騒動の渦中にいる。その結果次第でも大きく変わるだろう。メジャーの中でも、能力の高さは認められている。多くの人が彼の名前を上げてコメントを出すくらいだ。私は本人には「100マイル(160.9キロ)を投げる変化球投手を目指せ」という話をよくしているのだが、その域に早く到達してもらいたい。
 
 
小宮山悟(こみやま・さとる)
 
1965年、千葉県生まれ。早稲田大学を経て、89年ドラフト1位でロッテ・オリオンズ(現千葉ロッテマリーンズ)へ入団。精度の高い制球力を武器に1年目から先発ローテーション入りを果たすと、以降、千葉ロッテのエースとして活躍した。00年、横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)へ移籍。02年はボビー・バレンタイン監督率いるニューヨーク・メッツでプレーした。04年に古巣・千葉ロッテへ復帰、09年に現役を引退した。現在は、野球解説者、野球評論家、Jリーグの理事も務める。