「人生何があるかわからない」の象徴

 池田隆英のファイターズ初勝利に感じるところがあった。敵地メットライフドームでのヒーローインタビュー。「やっと勝ててよかった」「諦めずによかった」と飾ることなく、落ち着いた口調で語る池田の姿が忘れられない。その晩は考え事をして眠れなくなったのだ。池田隆英のこの勝利はベースボールドリームではないか?
 
 記録をひもとくと2018年以来、3シーズンぶりのプロ2勝目だそうだ。ご承知のように池田は今年2月末、オープン戦を控えた時期におにぎり君、横尾俊建との電撃トレードで楽天からやってきた。横尾はキャンプを通じ、(昨シーズン試みた)率を上げるバッティングを捨て、もういっぺん豪快なスイングに戻す取り組みをしていた。僕は楽しみにしていたのだ。だから突然のトレードに面食らった。
 
 が、そこにはコロナ禍のシーズンならではの事情があった。外国人選手の入国が遅れていた。ファイターズは先発要員を、イーグルスは右の強打者を補強する必要があった。お互い「雨漏り補修」的な緊急補強だ。必要なところを手当てするやつだ。
 
 池田隆英の名前はドラフト時の印象があった。創価高→創価大。160キロ右腕、田中正義(ソフトバンク)とチームメイトだったはずだ。田中が5球団競合の1位指名で話題になるなか、大学の「2番手」だった池田もイーグルスの2位指名を受ける。2位指名っていったら大したものだ。TBSのドラフト特番でも取り上げられていた。確か沖原佳典スカウトが惚れ込んだ逸材だった。他球団が田中を追いかけるなか、沖原さんだけが池田を見ていた。
 
 つまり、ポテンシャルは「ドラフト上位級」なのだ。そこはドラフト下位指名(2015年6位指名)の横尾俊建とはそもそもの期待値が違う。但し、横尾は曲がりなりにも1軍経験を積み、三塁手のバックアップや代打で戦力になっていた。一方、池田は入団2年目の2018年シーズン、7試合に先発し、1勝5敗(4ホールド)、防御率5.91が楽天1軍で残した全記録だった。直近の昨シーズンは1軍登板なし、戦力外通告を受け、育成選手として再契約していた。プロ入り後の実績は横尾に分がある。トレード発表後、両チームのファンはそれがつり合うかどうかしきりに語ったものだ。
 
 そしてオープン戦で調整を重ね、ついに池田隆英は開幕シリーズ・楽天戦第3戦のマウンドに立つ。読者よ、こんなことってあるんだなぁ。賭けてもいいが、お正月、餅を食ってる頃は当の池田本人は自分が開幕カード3戦目、楽天生命パークのマウンドに、しかも対戦相手のファイターズのユニホームで立ってるなんてまったく想像しなかったはずだ。もしかしたらファイターズ栗山監督、イーグルス石井監督も同様だ。2021年シーズンの池田隆英こそ「人生何があるかわからない」の象徴みたいな存在だ。
 
 池田はトレードがなかったらどうしていただろう。支配下登録が叶って、背番号は以前の「30」に戻っていたけれど、今年のイーグルスの豪華先発陣を見ると簡単には割り込めないと思う。とすると中継ぎで仕事をするしかないが、タイプ的にバンバン三振を取る投手じゃない。先発かロングリリーフでじわじわ味が出るタイプだろう。1軍で働きどころを見つけるのはそこそこハードルが高い。

「外国人投手が来るまで」の見方をひっくり返せ

 
 それを考えると、ファイターズへのトレードは人生を変えるチャンスだ。いかに外国人投手の来日が遅れているからといって、そんなことで先発ローテ入りの機会をもらえたのだ。ファイターズは池田のイースタンリーグやアジアウィンターリーグの投球をチェックしていただろう。その潜在力に目をつけていた。
 
 背番号52、ファイターズの池田隆英は古巣楽天戦(3年ぶり1軍登板)を5回4失点、次のソフトバンク戦を5回2/3で5失点と二度敗戦投手になった。マウンド姿は威圧感がなく、とても「期待の新戦力」という感じではなかった。が、なるほど投球は使えそうなものがあった。ストレートで丹念に低めを突ける。スライダーで簡単にストライクが取れる。ボールを動かして打ち損じを誘える。登板は二度ともエラーがらみの失点があった。打たせて取るタイプは今のファイターズ内野陣では割りを食う。そこは情状酌量の余地(?)がある。
 
 派手さはないけれど、自信がついてくれば化けるかもしれないなぁと思った。今の状態は移籍してきた頃の大田泰示に似ている。結果が出なければすぐ引っ込められていたのだ。泰示は「結果にかかわらず、お前は4打席立つんだよ」というファイターズの起用法に感激していた。池田も先発の責任回数は投げさせてもらえた。求められていることは泰示と同じだ。落ち着いて自分の力を発揮してくれ。
 
 そして今季三度目の先発、4月13日の西武戦がやって来た。西武は栗山、山川、外崎、木村と主力選手のケガが相次ぎ、愛斗ら若手の奮起でチームを切り盛りしている。池田からするとイースタンで知ってる顔が並んでいたとも言える。
 
 2回裏だ。先頭の呉ヒット、次の愛斗ツーベースで無死2、3塁になった。あぁ、これはビッグイニングを作られるかなと不安に駆られる。ここで崩れて池田はやっぱり5失点くらいするのか。が、このイニングの池田は見応えがあった。西川犠牲フライで1失点。これは織り込み済。そこから山田、金子と連続三振だ。気持ちが強かった。攻めの投球。これができるんなら面白いよ。
 
 結局、この日は6回94球投げて、3被安打1失点。見事、1094日ぶりのプロ入り2勝目を飾った。ていねいに投げること。ピンチを背負っても闘志で負けないこと。自分の持ってるものを信じること。この日の池田のピッチングには大事なことが詰まっていた。ただの移籍初勝利ではないよ。ケガに泣き、体調管理に苦心し、一度は育成に落とされた選手の復活劇だ。僕は世間が「外国人投手が来るまで」と思ってるのをひっくり返してほしい。花を咲かそうよ。池田隆英の野球人生の花を!