◆ 白球つれづれ〜第23回・炎獅子台風、まだまだ発達中〜 

 8万9757人――。この数字は8月4日から6日にかけてメットライフドームで行われた西武−ソフトバンクの3連戦に詰めかけた野球ファンの数である。

 1試合平均3万人にはわずかに達しなかったものの、熱気はそれ以上。強い西武が帰ってきた。


 7月21日の日本ハム戦からよもやの大型連勝は始まった。4カード連続の3連勝、さらに8月4日のソフトバンク戦にも快勝し、ついに13連勝。チームとしては59年ぶりの快挙を記録した。翌5日の同カードこそ惜敗して快進撃は止まったものの、この試合も4点差を追う9回に一度は追いつく驚異の粘りを見せている。


◆ メヒアの穴を埋める若獅子

 これほどの試合を見せられたら、ファンのボルテージも落ちるわけがない。

 日曜のナイターは再び炎獅子ユニフォームを身にまとう男たちが躍動して再発進。首位を行くソフトバンクに勝ち越しただけでなく、2位の楽天とは再びの4ゲーム差。2強のデッドヒートから三つ巴の様相に「やっと、背中が見えてきたかな」と監督・辻発彦の目の色も変わってきた。

 このビッグウェーブの中でひと際輝いた打のヒーローが“おかわり2世”こと山川穂高だ。

 先月26日のオリックス戦から先発起用され始めると、持ち前のパワフルな打撃でチームに貢献。特に8月に入ると22打数11安打で打率は5割。中身もここぞの勝負所で価値ある劇弾を含む4本塁打・14打点と文句なしの活躍を見せている。

 本来であれば3年前の本塁打王・メヒアが不調で登録抹消となったというピンチであるが、代わった山川が定位置を奪うような勢い。実はここにも辻によるチーム改革の一端が垣間見える。

 昨年までの西武なら、中村剛也とメヒアの主砲2人がクリーンナップに名を連ねるのが当然だった。しかし、新指揮官はこれを嫌う。共に稀代の長距離砲に違いはないが、2人揃って打率が低い“一発屋”では打線は繋がらない。そこで、今季は「5番・指名打者」の位置に栗山巧を起用。打線全体の意識変革を促した。

 犠牲フライでも内野ゴロでも、とにかく走者を還して得点を挙げる「つなぎの野球」を実践。推定年俸1600万円の25歳は、5億円×3年とも言われる大型契約を結んだ助っ人の穴を見事に埋めている。


◆ 新指揮官がもたらした変革

 また派手な山川らの打棒に目を奪われがちだが、攻撃面で特筆すべきは走塁に対する意識の高さ、チームとしての挑戦ではないか。

 このソフトバンク戦でも顕著な例があった。4日の初戦、5回一死一・二塁というチャンスで中村の打球は三塁方向へのボテボテのゴロ。併殺でチェンジかと思われたが、弱い当たりも奏功して全力疾走の中村がわずかに早く一塁を駆け抜ける。すると、残ったチャンスで山川がセンターオーバーの適時二塁打を放ち、勝負を決めた。

 第3戦も5回。一死一・三塁のチャンスで浅村は投ゴロ。併殺で攻撃終了もよぎったが、投手が打球を弾いたことと浅村の執念の激走&ヘッドスライディングが実り、残ったチャンスで山川が今度は3ランを放って勝負あり。主軸の執念に若獅子が応えるいい流れが見られた。

 やはり中村や浅村といった主軸が熱のこもったプレーを見せれば、チームの士気は高まる。監督就任時に辻が語った「1点でも多く獲り、1点でも失点を防ぐ」という変革は実りつつある。


 チーム盗塁数85は12球団トップ。機動力は新たな武器となっているが、それ以上に記録に表れない“足攻”はチームとしての意思統一の証でもある。

 「これまでも中村やメヒアの破壊力は強みだったが、今年は足でかき回す、守りで勝つ、といった勝ちパターンが増えている。もちろん投手陣でも菊池(雄星)の成長や勝ちパターンの確立などで勝てる確率が上がっていると思う。この勢いは一過性ではないし、これからが楽しみ」と語るのは西武黄金期のチームリーダーだった石毛宏典。

 大型台風の襲来は困りものだが、埼玉地方に発生した“炎獅子台風”の勢いはまだまだ収まりそうにない。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)