「ベストコーチングアワード2019」でTriple Stars(三ツ星)を受賞した八幡イーグルス。子どもに過度な練習を課せることはなく、土日の練習は半日が基本。ときには1時間もストレッチをするなど身体のケアに重点を置いた練習も特徴の一つ。そんな八幡イーグルスの取材当日に行われていた練習を紹介します。



メニューを細かく分け、切り替えをスムーズに
取材当日は土曜日の午前練習。時折強風で砂が舞い、じっとしていると震えるほど寒い。身体を温める意味合いもあってか、練習開始から走塁練習に時間を割いていた。

走塁は足が速い遅い関係なく全力疾走が基本。隙があれば次の塁を狙うことも徹底している。学童野球では打つことや、守ることばかり練習をしてしまい、こと走塁に関しては軽視しているチームも多い。地味に思える練習かもしれないが、走塁を意識することは中学、高校と次のステップで必ず役に立つため杉山監督の中でも優先順位は一番高い。実戦的な走塁練習では、ランナーに出た際に「点差」「アウトカウント」「次のバッター」「守備位置」の4つのポイントを確認することを忘れず、子どもたちはグラウンドを駆け回っていた。



キャッチボールではあえて手袋をつけてボールを送球するシーンもあった。「恩師でもある上田誠監督(元慶應義塾高校野球部監督、現在は慶應大学コーチ)が先日オススメしていた練習です。手袋をつけて投げることで普段投げている感覚とは違うものを体験できます。どうやったら上手く投げられるか。そう考えるきっかけになります。今日は寒いですし、良い機会なのでやってみようと思いました」と笑顔で杉山監督が教えてくれた。

この日は月に1度のスイングスピード計測日。「5年生は110キロ、6年生は120キロ。ボールの芯の0.6センチ下を19度のアッパースイングで振りぬく」など具体的な目標を子どもたちに提示して行われていた。




ラダーを使ったトレーニングでもただ走るではなく、俊敏性を高めるためのさまざまなステップをトライ。守備での足の運びをイメージして手にはグローブをつけたままステップを行なっていた。
人数が多いながらも、これらの練習をローテーションで回し、一つの練習を短くすることで、子どもたちは中だるみせず集中して取り組んでいた。
指導者が不安になると練習時間が長くなる


学童野球のチームは早朝から日が暮れるまで練習をするケースも珍しくない。八幡イーグルスはなぜ半日練習にこだわっているのかと杉山監督に聞いてみた。

「野球以外にも勉強、他のスポーツ、遊びなど大切なことは沢山あると思いますし、練習は物足りないと思うくらいが丁度いいと私は思います。今日も初めて練習に参加した子どもが『もう終わりですか?』と驚いた表情で話してきました(笑)。『そうだよ。でもこれくらいが丁度いいだろ?』と聞くと『うん』と素直に答えました。なぜ学童野球の練習が長いかというと、指導者が不安に陥っているからではないでしょうか? 大会に勝ちたいがために、あれもこれも子どもたちに求めてしまう。そうすると子どもたちはハードな練習が嫌になり、野球を続けたいという思いがなくなっていく悪循環になる。うちは午前で練習が終わるので、午後は遊びで野球をする子どもも多いです」

他チームから移籍を決めた保護者の方に話を聞くと「以前のチームは三連休があれば、三日連続朝から夜まで練習をするチームでした。そのせいもあってかケガをする子も多く、うちの息子も『身体が痛い』と悩んでいました。八幡イーグルスの体験会では1時間近くストレッチを行っていたので驚きました。子どもの身体のことを真剣に考えてくれているので安心して預けられます」と答えてくれた。


「子どもたちにとって何が大事か?」に立ち返る
活躍する場は今ではなく、中学や高校など未来にあると思うからこそ選手の可能性を潰してはいけない。身体のケアについて杉山監督は熱心に勉強し、さまざまな研修や講習会に参加し情報をアップデートしている。

「大人になって肘を痛める原因の大半は、子どもの頃に投げすぎているという話も聞きます。ケガをしてからでは遅いので違和感があればすぐ言って欲しいと伝えていますし、スポーツを続ける上でストレッチの重要性を子どもの頃から理解することは大切です」

さらに、技術に関してはなるべく教え過ぎないよう気をつけていると言う。

「どうしても指導者は技術(テクニック)を教えたがってしまいます。でも、野球にはこれといった正解はありません。本田俊介総監督に『悩んだときは、子どもたちにとって何が大事か? に立ち返るのが重要』と教えていただきました。大人から指示をされたまま行動する子どもにはなって欲しくないので、なるべく自分で考えるよう促しています」

主役はあくまでも子ども。子どもの成長や目標をサポートするために指導者がいるという考えのようだ。野球を通し、自立心が芽生えればそれは将来多くのことに役立つに違いない。(取材・文/写真:細川良介)