「ビジョントレーニング」という言葉を野球界でもよく聞かれるようになりました。目の見るチカラ、「視覚機能」を高めるためのトレーニングですが、正しく理解して子ども達にトレーニングが行えているでしょうか? 前回に続いて一般社団法人 日本スポーツビジョン協会理事・事務局長の石橋秀幸さんにお話を伺いました。



スマートフォン(スマホ)はその扱い方によってもさまざまな弊害が懸念されます。その一つはスマホを使うときは必ず手を使うということです。野球をするとどうしても手は汚れてしまいます。表面がつるつるしたもの(スマホの画面やコンタクトレンズなど)は、埃や菌などが付着しやすいため、運動後の手ですぐにスマホの画面を触ってしまうとそこから菌が手に付着して周辺に広がります。就寝前にベッドにスマホを持ち込んで操作することは、ユニフォームを着替えていても、部室で寝てしまうようなもの。小学生の内にそういう習慣がついてしまうと目への悪影響はますます増えるばかりです。

寝る前にうつ伏せでスマホを見ている場面を考えてみましょう。人間は「右目で見たもの」と「左目で見たもの」を合わせて調節して両目でものを見るのですが、両目で見てはじめて立体感とか距離感などを認識することができます。スマホと目の距離が30〜50cm程度であれば何とかうまく見ることができますが、この距離が20cmよりも近くなると右目と左目の調節機能がうまくいかなくなって、固視点(目を動かさずに見られる点)にズレが生じるようになります。このズレが生じると、私たちは左右どちらかの固視点をゆがませて、むりやり調節して見ようとします。うつ伏せでスマホを見るときの距離は20cmよりも短いのではないでしょうか。これは自分で固視点をずらして視覚系の負担を大きくするばかりか、画面の明るさによって脳は覚醒して入眠をさまたげることにもつながります。また目はほぼ左右への動きのみを繰り返すため、目の動きを司る筋肉がうまく動かせなくなり、視機能に影響をもたらすようになります。

20cmという距離は電車の中でよく見かける皆さんがスマホを持っている距離ですが、これより近い人も多くいますし、目の高さで持つ人は少ないと思います。首が下を向くことによって、頭の重さを支える首や肩、背中などに大きな負担がかかり、姿勢が崩れやすくなることはすでに指摘されているところです。

野球選手であれば背中が丸くなって肩が前方に移動し、腕が上がりにくくなったり、常に背中が張って体がガチガチの状態でプレーをしなければならなくなったりします。またスマホを触る手(右利きであれば右手)は常に手の甲が上になるポジションです。これは実際にあった話なのですが、ある野球部の子がこのような姿勢でゴロ捕球を行いボールを手の甲に当ててしまうといったことがありました。背中が丸まった状態から手のひらを返す動作が自然にできなくなっているのです。
「ちゃんと捕球しなさい」といってもそもそもの姿勢を改善することから始めないとプレーそのものができない。スマホによって起こる姿勢への弊害はこうしたところにも現れます。

パフォーマンスに影響を与えないようにスマホを使うのであれば、肘をしっかりと伸ばした状態(距離が50cm程度になる)で、かつ目の高さにも気をつける必要がありますが、この姿勢は長く続けられないでしょう。スマホに翻弄されるのではなく、使い方をスマートにすることが大切です。究極のアドバイスとしては「スマホを見ないことがビジョントレーニング」なのです。
(聞き手・取材:西村典子)



石橋秀幸さんプロフィール
一般社団法人 日本スポーツビジョン協会理事・事務局長。
日本体育大学卒。慶應義塾大学大学院卒。プロ野球、広島東洋カープに15年間在籍(1997年はメジャーリーグ ボストン・レッドソックスへコーチ留学)、トレーニングコーチとしてプロ野球選手を指導してきた。現在は、慶應義塾大学スポーツ医学研究センターでの研究、神奈川大学人間科学部における教育、そして現場においてプロアスリートから小学生まで幅広い世代にトレーニング指導をおこなっている。