◆ 野球人生の岐路に立つ33歳

 灼熱のジャイアンツ球場の三塁側ベンチ前で、背番号2がバットを振っていた。

 2020年8月末、まだ暑さの厳しい16時試合開始のイースタン・リーグ、「1番・中堅」で先発出場していたのが、巨人の陽岱鋼である。日本ハムからFA移籍してきて、早いもので4年目のシーズンを迎えている。

 例年とは違い上限1000人で全席指定の観客席から、プレイボール前に選手名鑑のページをめくっていたら、陽の推定年俸3億円は、相手チームのロッテ二軍スタメン全員の年俸合計額よりも倍以上高い。気が付けば、年俸も年齢も周りの若手たちを大きく上回る。客観的に見て、プロ野球選手として「もう若くはない」ってことだ。

 今年33歳になった台湾の英雄は野球人生の岐路を迎えている。2020年の陽は開幕を一軍で迎え、6月は月間打率.348と好スタート。左翼や右翼、さらに一塁を守り、5番や6番での先発出場も多かったが、7月は7番に打順が下がり、月間打率.143と不振に陥るとベンチを温めることも増えた。

 今季の成績は30試合、打率.229、1本塁打、5打点、OPS.663。話題になったのは自身のインスタで披露したゴーグル・マスク・手袋の3拍子揃った万全すぎるコロナ対策姿……じゃ寂しすぎる。期待するときはこれでもかと集中的にチャンスを与える反面、結果が出ないと途端にシビアな起用法になるのがリアリスト原監督の采配だ。

 陽は8月10日に出場選手登録を抹消され、巨人移籍後初の故障以外での二軍降格となった。


◆ アクシデントと競争の連続

 振り返ると、陽の巨人でのキャリアはアクシデントの連続でもあった。16年オフに日本ハムから5年推定15億円とも報じられる大型契約でFA移籍。北海道では盗塁王1度、外野手としてゴールデングラブ賞に4度輝いたスター選手だったが、巨人1年目の17年は下半身のコンディション不良で出遅れ(初出場はシーズン54試合目)、18年は開幕直後の中日戦で左手甲に死球を受け骨折で長期離脱を余儀なくされる。規定打席到達は遠く、打率も2割台中盤となかなか結果も残せず、19年にはFA移籍してきた丸佳浩の加入でセンターのポジションを失った。

 背水の陣で迎えた今季だったが、キャンプから挑戦していた一塁では中島宏之がオープン戦から絶好調。開幕後の電撃トレードで楽天から加入したウィーラーは、外野に加え一塁も守れ、同じ右打者で役割も被る背番号2は働き場所を失った感がある。さらに陽と入れ替わるように台頭してきた育成出身で25歳の松原聖弥が、2試合連続の猛打賞やライトゴロで強肩をアピールするなど、最近は「2番・右翼」として先発出場を続けている。

 強力なライバルの加入に年下からの突き上げ。ボヤボヤしていると椅子はすぐ誰かに奪われてしまう。プロ野球界の時の流れは早い。チームだって毎年大きく顔触れが変わる。

 例えば約1年前の19年8月22日中日戦の巨人スタメンは、「5番・一塁」阿部、「6番・左翼」ゲレーロ、先発投手はなんとヤングマンである。東京ドームで登場曲に西城秀樹の「YOUNG MAN」を流すという今思えばなんだかよく分からない盛り上がりや、ゲレーロの状態イイネLINEスタンプを見ると懐かしすぎてノスタルジーすら感じてしまう。

 正直、陽が当たり前のように「1番・中堅」でスタメン出場していた頃もすでに懐かしい。13年は47盗塁でパ・リーグ盗塁王に輝いた陽も、昨季は盗塁0と守備面を含めた脚力の衰えは隠せない。由伸巨人が終わり、第三次原政権は猛スピードで世代交代を押し進め、「育てながら勝つ」という難易度の高いペナントレースを見事に戦い抜いているのも事実だ。

 ただ、もちろんこれで背番号2が終わるわけじゃない。


◆ 巨人を支える「オッサンズ・リターン」現象

 今の巨人には、18年わずか1勝の崖っぷちから復活して、勝ちパターンの中継ぎとしてブルペンを支える37歳の大竹寛や、昨季は打率.148に終わり、契約更改では1億3000万円減の屈辱を味わいながら、今季は開幕スタメンを勝ち取り通算200号を達成した38歳の中島宏之のような移籍組のベテラン選手がいる。彼らも幾度となく、ときに自チームのファンからさえも「もう終わった」なんて言われたものである。

 俺たちもう終わっちゃったのかなあ……ってまだベテランとしては始まっちゃいねえよ的な最近のジャイアンツの「オッサンズ・リターン」現象。来季34歳、5年契約の最終年を迎える台湾のスーパースターは、これからどう巨人軍で生き延びようとしているのか?

 今のジャイアンツ打線には坂本勇人、丸佳浩、岡本和真ら堂々たる“主役”が君臨する。陽も移籍直後は坂本や長野久義(現・広島)らとこのポジションを期待されるも、いわば主役争いに敗れたわけだ。

 どの世界も30代の転職は、新天地ですぐ結果を出さなければ上司には待ってもらえない。となると、今の陽が生きる道は日本ハム時代のようなチームの中心ではなく、“主役”を支える“脇役”の役割ではないだろうか。

 19年に36回起用された代打ではリーグトップの打率.394、出塁率.444と控え野手として結果を残したが、「左の亀井善行、右の陽岱鋼」という酸いも甘いも噛み分けた左右の代打の切り札が揃えば、連覇を狙うチームにとって大きな武器となるだろう。


 このまま変わらず静かにキャリアを終えていくのか、それとも外野に一塁のバックアッパー兼代打の切り札でなりふり構わず活路を見出すか? スマートなイメージがある陽の今後の野球人生に注目だ。

 いつの時代もプロ野球の魅力は“敗者復活戦”でもある。その日限りのトーナメント戦ではなく、果てしなく長いペナントレースを戦う中で、一度落ちた者が、再び這い上がる様にファンは感情移入するわけだ。子供の頃はプロ野球選手に憧れて、大人になると共感する。

 もう33歳、まだ33歳。若くはないが、なにかを諦めるにはまだ早い。東京ドームで、灼熱のジャイアンツ球場から這い上がってくる、生まれ変わった陽岱鋼と会えるのが今から楽しみでならない。

 See you baseball freak……


文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)