◆ 強豪・トヨタで1年目からエースに

 新型コロナウイルス感染拡大の影響は、高校野球や大学野球だけでなく、社会人野球にも大きな影響を及ぼしている。

 7月に行われる予定だった日本選手権は中止となり、プロ入りを目指す選手にとっては都市対抗野球の“予選”が最後のアピール場となるが、プロアマ野球研究所(PABBlab)では、こんな情勢の中でも活躍が光った選手について積極的に紹介していきたい。

 今回は、“社会人No.1”の呼び声高い本格派投手の「今シーズン公式戦初登板」をレポートする。


◆ 「去年のドラ1」投手と比べても遜色なし

 今年の社会人選手の中で、頭一つ抜けた存在と言われているのが栗林良吏(トヨタ自動車)だ。

 名城大ではリーグ戦通算32勝をマーク。大学卒業時点でもプロ志望届を提出したが、3位以下であれば社会人入りするという、いわゆる“順位縛り”と呼ばれる条件をつけていたため、指名は見送られてトヨタ自動車に進んだ。


 トヨタ自動車と言えば、社会人の中でも屈指の強豪チームであり、毎年有望な選手が入社してくるが、そんな中でも栗林は1年目からエースの座を獲得。昨年の公式戦の成績は以下の通りとなっている。


▼ 栗林良吏・昨季成績
・13試合(70回2/3)
・被安打:51
・四死球:23
・奪三振:74
・失 点:10(自責点8)
・被安打率:6.50
・四死球率:2.93
・奪三振率:9.42
・防御率:1.02
・WHIP:1.05


 この数字が、一体どれほどのものなのか…。ここでは、「昨年のドラフトで1位指名を受けてプロ入りした社会人投手」の数字もあわせて見ていただこう。


▼ 河野竜生・昨季成績(JFE西日本→日本ハム)
・10試合(67回2/3)
・被安打:43
・四死球:18
・奪三振:57
・失点:14(自責点13)
・被安打率:5.72
・四死球率:2.39
・奪三振率:7.58
・防御率:1.73
・WHIP:0.90


▼ 宮川哲・昨季成績(東芝→西武)
・19試合(83回)
・被安打:55
・四死球:29
・奪三振:97
・失点:21(自責点18)
・被安打率:5.96
・四死球率:3.14
・奪三振率:10.52
・防御率:1.95
・WHIP:1.01


 この2人と比べても栗林の数字は全く劣っておらず、“ドラフト1位候補”と言われるのもよく分かる。

 栗林の今季公式戦初登板は都市対抗予選までずれ込むこととなったが、9月16日に行われた東邦ガスとの初戦には全12球団・35人のスカウトが集結。

 そして、その高い注目の中で、栗林は7回を被安打2、四球1の10奪三振で無失点という圧巻のパフォーマンスを見せつけた。


◆ 弱点らしい弱点が見当たらない

 大学時代も150キロを超えるスピードを誇っていたが、社会人での1年半でスピード以外の面が格段にレベルアップしたように見える。


 まず素晴らしかったのが、打者を追い込むまでの球種のバリエーションが豊富なところだ。

 変化球は130キロ近いスライダーと135キロを超えるカットボールが中心となるが、それだけでなく、120キロ程度のカーブやチェンジアップといった緩いボールも操り、全ての精度が高い。

 相手打者がストレートを狙っていると判断すれば、変化球2球で簡単にストライクをとり、また打者にボールを見てくるような気配があれば、速いストレートでどんどん追い込む。

 また、立ち上がりに速いボールを意識させつつ、それ以降は回によってはほとんどストレートを投げないということもあった。長いイニングを投げ切るためのゲームプランも見事である。


 177センチ、投手としては決して上背がある方ではないが、スムーズに肘が高く上がり、高い位置から縦に腕を振り下ろすことができるため、ボールの角度も申し分ない。大学時代は速くても高めに浮いて痛打されることもあったが、この日はほぼ完璧に低めに抑え込むことができていた。

 そして、3回には素早いバント処理で併殺を完成させるなど、投げる以外のプレーのレベルも高い。簡単に言うと、弱点らしい弱点は見当たらなかった。


 今年は大学生に好投手が多いが、完成度という意味では栗林が頭一つ抜けた存在である。

 この日も各球団の部長クラスが足を運んでいたが、その前で強烈なインパクトを残したことは間違いない。

 また、トヨタ自動車はこの後も勝ち進み、9月26日の代表決定戦でも栗林は1失点完投勝利を収めた。この都市対抗予選での投球で、ドラフト1位に“当確ランプ”が灯ったと言えるだろう。


☆記事提供:プロアマ野球研究所