◆ 白球つれづれ2020〜第40回・沢村賞

 ペナントレースは各チームともに90試合近くを消化して、残りは30試合程度、いよいよラストスパートの時期に差し掛かる。

 この時期になると個人タイトル争いもし烈を極め、優勝争いから脱落したチームのファンには、むしろこちらの楽しみの方が大きいかもしれない。

 セ・リーグの本塁打王争いは24本でトップを行く巨人の岡本和真選手に、5日の試合で阪神・大山悠輔選手が並ぶ展開に。同じく新人王レースでは、巨人・戸郷翔征と広島・森下暢仁の両投手がデッドヒートを繰り広げている。

 パ・リーグでは本塁打、打点部門で楽天の浅村栄斗、日本ハムの中田翔選手がしのぎを削り、最多勝はトップを行く楽天・涌井秀章投手をロッテの美馬学投手が1差に接近。日本ハム・西川遥輝やソフトバンク・周東佑京選手らによる盗塁王争いも最後までもつれそうだ。

 メジャーリーグではダルビッシュ有投手(カブス)のサイヤング賞獲得に注目が集まっている。同賞はそのシーズンに最も活躍した投手に贈られるビッグタイトル。すでに8勝でナ・リーグの最多勝に輝き、防御率2.01も2位と抜群の数字を残したダルビッシュだが、現地ではレッズのT・バウアー投手との一騎打ちという見方が多い。

 勝ち星こそ5勝に終わったバウアーだが、防御率(1.73)奪三振100は共にリーグトップで、完投数や被打率でもダルビッシュを上回っている。サイヤング賞は30人の記者投票、どちらが強いインパクトを残したかが勝負となる。

 そのサイヤング賞の日本版とも言うべきタイトルが「沢村賞」である。

 1947年創設と歴史は古く、同賞の規定第1条には「その年の先発・完投型の本格派投手のうち、最も優れた投手を表彰する」とある。歴代受賞者の顔ぶれを見ても金田正一、村山実、野茂英雄、松坂大輔から前田健太、田中将大に菅野智之ら時代を代表するエースの名が並ぶ。


◆ ミスター完投の逆襲

 さて、今季のここまでの成績を見ると、巨人の菅野智之投手が図抜けている。開幕から無傷の12連勝で防御率(1.76)も12球団トップ。だが、対抗馬がいないわけではない。中日の大野雄大投手だ。勝ち星こそ7勝(5敗)と大きく水をあけられているが、投球内容では引けをとらない。

 防御率は菅野を射程圏に捕える「2.18」。完投数では菅野より5試合も多い「8」で、4完封もライバルを上回っている。奪三振も大野の「115」に対して菅野は「104」。サイヤング賞で言えば菅野がダルビッシュで大野がバウアーか。何よりも先発完投と奪三振を重要視する沢村賞の趣旨に照らし合わせると、互角と見ていい内容かも知れない。

 大野が今季初勝利を上げたのは7月31日ヤクルト戦のこと。開幕から実に40日以上を要している。本来の出来に程遠い内容のKOから、好投しても打線の巡り合わせが悪いなどの要因も手伝って3連敗スタート。それが一つの白星からからりと変わる。初勝利のヤクルト戦から9月1日の広島戦まで5試合連続完投に2完封。この広島戦から30日の阪神戦まで9月は3完封と打たれる気すらしない圧巻投球だ。

 ちなみに月間3完封はセ・リーグでは93年ヤクルトの伊藤智仁以来27年ぶり。大野はこの3完封をいずれも2安打以下に抑えている。こちらは2リーグ分裂後では初の快挙となる。まさに出遅れたモンスターの逆襲を見るようだ。

 すべての球種の精度が高く、打者をきりきり舞いさせる菅野に対して大野の強みは「ストライクゾーンで勝負できる」こと。150キロ近いストレートと同じ投球フォームからフォーク、チェンジアップを落としていく。直近の阪神戦(9月30日)を見ても9回を投げて投球数は「107」、いかに無駄球を投げずに料理しているのかがわかる。これこそが「ミスター完投」の秘訣である。

 「先発完投型の本格派」を表彰基準とする沢村賞だが、時代の曲がり角にある。現代野球は先発、中継ぎ、抑えの分業型。昨年は巨人の山口俊(現ブルージェイズ)と日本ハム・有原航平両投手が候補に挙がったが、完投数の少なさ(山口は0回、有原は1回)を理由に結局該当者なしの異例事態となった。今季はそこへコロナ禍である。

 試合数は例年より23試合少ないうえに、投手も野手も過密スケジュールの影響か故障者が続出している。そんな中で菅野、大野の両エースの内容は突出している。残り試合を考えると、共に残る登板数は4試合程度か。このペースで快投を続けたらダブル受賞も考えられる。近年稀に見るハイレベルなエースの争いである。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)