◆ 白球つれづれ2020〜第41回・川島慶三

 日頃は地味な控え選手だが、ここ一番の場面では欠かせない仕事師。指揮官にとってはこれほど頼もしい存在もない。ソフトバンクの川島慶三選手が優勝争いの中で輝きを放っている。

 1ゲーム差で迎えた9日からの対ロッテ首位攻防福岡決戦。結果はソフトバンクが2勝1敗と勝ち越した。ロッテにとっては直前にコロナのチーム内感染が発覚、多くの主力選手を欠いての大一番は気の毒だったが、ソフトバンクの戦力層の厚さを再認識する天王山でもあった。

 この3連戦を振り返ってみる。

 初戦はロッテが接戦を制してゲーム差なしに詰め寄る。ソフトバンクキラーの二木康太投手が7回1失点の好投で同カード7連勝。不安視された打線も二軍から急遽昇格した藤原恭大選手が3安打と気を吐くなど全員野球で白星を掴み取った。

 2戦目はソフトバンクがエース・東浜巨投手の快投と序盤の速攻で再び1差に押し戻す。攻撃の“肝”は左殺し、川島の5番起用だった。2回、ロッテの先発左腕・中村稔弥投手攻略の口火を切る左前打を放つと下位打線が爆発。松田宣浩選手の左翼線二塁打で川島が生還し、栗原陵矢選手の右本塁打であっという間に3得点だ。

 そして3戦目はソフトバンクの強力投手陣が威力を発揮して完封リレー。中でも6回の工藤公康監督の用兵は鬼気迫るものがあった。5回までロッテ打線を1安打零封の和田毅投手をスパッとあきらめると、1イニングの間に泉圭輔、嘉弥真新也、高橋礼3投手を1アウトごとに投入して必勝パターンに持ち込む。最後は守護神の森唯斗投手が通算100セーブで飾りロッテとの差を2差に広げた。


◆ プロ15年生のオールラウンダー

 ここで改めて注目したいのが川島の存在だ。天王山の3連戦で川島が登場したのは第2戦だけ。その試合でも先制の口火となる左前打以外は2三振で途中交代している。スポーツ紙の見出しになることはない。だが、そんな脇役が大事な試合の5番打者として起用されているところに、この男の価値がある。

 第1戦を負けた時点でチームは対ロッテに4勝11敗1分け。大の苦手にしているだけでなく本拠地のペイペイドームでも6連敗と今後の優勝争いの中でも不安材料となっていた。言ってみれば剣が峰に追い詰められた大一番で左腕キラーとして期待され、それに一撃で答えを出すのだから、首脳陣にとってこれほど頼もしく、使いやすい選手もいない。まさに一撃必殺の「ジョーカー」である。

 困った時の川島頼み。それを象徴する試合があった。今月2日の日本ハム戦ではプロ人生初の4番を任されている。この時も相手先発は左腕の上原健太投手。過去の対戦成績は16打数8安打2本塁打と抜群の相性の良さに目を付けた平石洋介打撃兼総合コーチの進言があったという。

 大仕事はいきなりやってきた。初回二死二塁の場面で先制の左前適時打を放つ。一度は逆転を許した3回には好機に四球を選んで中村晃選手の犠飛につなげる。6回にも安打を放ちチーム14安打7得点の中心に新4番がいた。「期待通りというか期待以上の働きを見せてくれた」とは、試合後の工藤監督の川島評だ。

 プロ15年生。日本ハムを振り出しにヤクルト、ソフトバンクと渡り歩いた苦労人である。過去のキャリアを紐解くと、守っては一塁、二塁、三塁、遊撃に外野と、どこでも守るオールラウンダー。打順も最多出場は「1番」の135試合で、「2番」、「8番」、「7番」と続く。これまで未経験は「3番」と「4番」だったが、ついに残すは3番打者だけとなった。


◆ 常勝軍団を支える潤滑油

 ソフトバンクと言えば三軍にまで有能な人材がひしめくタレント集団。今季だけでも周東佑京選手や栗原らがレギュラーをつかみ、川瀬晃選手や大黒柱の千賀滉大投手も驚く怪腕・杉山一樹投手ら、ファームで腕を磨いた逸材が一軍にやって来る。37歳の川島だって、いつ働き場所を奪われてもおかしくない。

 だが、この「ジョーカー」は打つだけでなく、守ってもいぶし銀の味を発揮し、さらにベンチでも全軍を鼓舞するムードメーカーの役割までこなす。首脳陣にとっては、これほど使い勝手のいい選手はいないのだ。

 常勝軍団と呼ばれるソフトバンクだが、今季の内実は苦しい。打線の中心格にいたA・デスパイネ、Y・グラシアル両助っ人がコロナ禍で来日が大幅に遅れ、内川聖一選手は打撃の調子を落としてから二軍暮らし、松田にも衰えが目立つ。

 投手陣でも千賀が本来の投球を取り戻すのに苦労して、かつてのセーブ王、D・サファテは右股関節痛の再発のため帰米しており、今季の復活は絶望的で、昨年大活躍した甲斐野央投手も故障で離脱中。こんな非常事態の時こそ川島のような存在は必要になる。

 チームが順風満帆の時には目立たない。しかし、ひとたび歯車が狂いだした時に必要なのが潤滑油であり、仕事師である。接戦になるほど強みを発揮するのが工藤流。もちろん強力投手陣があってのことだが、川島のような「ジョーカー」を持っていることも強さの一因だろう。このチーム、そう簡単には沈まない。 


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)


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※お詫びと訂正(2020年10月12日23時23分)
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初出時、D・サファテ選手の状況について誤りがありましたので、該当部分を訂正しました。
大変失礼致しました。