11月29日(日)、奈良県橿原市の橿原運動公園、屋根付き運動場で第10回奈良スポーツ検診が開催された。
この検診は当初、今年2月23日(日)に予定されていたが、新型コロナウイルスの感染拡大によって延期となっていた。



厳重な感染症対策を施して実施
11月に入って、新型コロナウイルスは第3波が到来したといわれる中、今回のスポーツ検診も開催が危ぶまれていた。
「2月の検診は体育館で実施する予定でした。密閉された建物で開催するのであれば、今回も厳しかったと思いますが、今回の会場は人工芝の広場に屋根を付けただけの施設で柱が立っているだけで壁は一切ありません。会場内には常に新鮮な空気が通っています。この会場ならば、感染対策に気を付ければ実施が可能だと判断しました」
主催者のNPO法人「奈良スポーツ育成選手を守る会」事務局長として、この取り組みを推進してきた理学療法士の和田哲宏さんは語る。



確かにこの会場は屋根こそついているが屋外とほとんど変わらない環境だ。屋内ではどんなに気を付けても「三密」になる危険性があるが、ここではその危険性は非常に低いだろう。

受付では一人一人検温と手指の消毒が行われた。昨年まで野球以外のスポーツチームの選手も参加したが、今年は参加者を絞り奈良軟式野球連盟所属の少年野球チームやボーイズ、ヤングリーグなどの小中学生の選手が集まった。会場への入場も、人数を区切っている。また保護者は会場に入らず、外で待つことになっている。



「君の関節はきれいなものだ!」
「約400人が参加を申し込みましたが、募集中に感染拡大の報道が出てからはキャンセルなどが相次ぎ、来場したのは約200人です。密にならないように間隔をあけて入場してもらいました。
例年は、肘の検診に加えて下肢の検診の実施とともに、指導者に対する講演なども盛り込んでいましたが、今年は肘の検診、超音波エコー、指導者へのスポーツ障害に関する啓発、一昨年から続けている奈良教育大学大学院の下肢のバランステストだけに絞り込みました

ユニフォーム姿の子どもたちが神妙な顔をして医師の前に座り、ひじの超音波エコー診断を受けている。
医師は「利き腕は?」「ポジションは?」と尋ねたうえで診断装置を肘に当てていく。
選手に関節を曲げ伸ばし関節内部の状況を見る。
「君の関節は大丈夫です、きれいなもんだ」
医師の声に、ほっと胸をなでおろす選手もいる。


「野球肘検診」の重要性


肘の超音波エコー診断は、主として小中学校の野球少年に特有の「肘関節の障害=野球肘」を発見するために実施される。

野球肘には、「内側型」と「外側型」がある。「内側型」は、内側靱帯・筋腱付着部の傷害や尺骨神経の麻痺などだ。ほとんどの場合、経過は良好で十分に注意をしていればプレーしながらの治療も可能だ。これに対して小中学校ではOCD(離断性骨軟骨炎)が中心となる「外側型」は、投球によって肘の外側の骨軟骨が損傷したり剥がれたりする障害だ。初期であればノースロー期間を設ければ治癒できるが、手術をしたうえで長期的なリハビリが必要になる。中にはこのまま野球を断念せざるを得ない場合もある。
「野球肘検診」をすると「内側型」の障害のほうが多く見つかる。「外側型」のOCDの方が少ないが、OCDは放置すれば深刻な事態につながりかねない。端的に言えば「野球肘検診」は「OCDを見つけるため」に実施しているという側面がある。

OCDの初期の段階では、本人に自覚症状がない場合も多い。エコー検査を受けて初めて初期のOCDが見つかることも多い。初期であれば一定期間の投球動作の禁止と適切なリハビリテーションで野球に復帰することができる。しかし、本人が患部の痛みを訴えるような中期以降になれば、治療はさらに長期化し、手術などの可能性も高まる。整形外科には、こうした段階になって来院するケースが多い。OCDは早期発見が一番重要なのだ。



開催できた意義は大きい
「例年、100人ほどの医師、理学療法士が検診にあたっていますが、今年は40人にご協力いただきました。はじめのころは完全にボランティアでしたが、今は奈良県スポーツ協会の委託事業になったのでささやかながら謝礼が出せるようになりました。
また企業のスポンサードもお願いしているのですが、今年2月に協賛してくださった企業がすべて11月にスライドしてもそのままついていただいたので、助かりました。
新型コロナ禍でも、こういう形でスポーツを愛する少年たちの健康を守る活動が維持できた意義は大きいと思います」(取材・文/写真:濱岡章文)