◆ 大物大リーガーの帰還

 バリバリのメジャーリーガー、田中将大投手の楽天復帰からまもなく1週間が経つ。先月30日に行われた入団会見には、報道45社が集まるなど注目度は高く、本年度の球界を揺るがすビッグニュースとなった。

 コロナ禍にあるMLBの緊縮財政という特殊な事情があったにせよ、名門ヤンキースで7年間、先発ローテーションを守ってきた男の古巣復帰は、日本球界の勢力地図さえ塗りかねないほどの衝撃だ。田中復帰後の楽天とパ・リーグはどう変わっていくのか? 1年後のメジャー復帰は成るのか? 当連載では4回にわたり様々な角度から検証してみたい。


◆ 第1回:新たなステージへ

 ポスティングでのメジャー挑戦を明らかにしていた巨人の菅野智之投手が、条件面で折り合わずに残留を決意したのが1月上旬のこと。それから3週間ほど経つと、今度は田中が8年ぶりの国内復帰を決断した。

 入団発表の席で「本当のところはヤンキースに残ってプレーしたかった」と、田中は当初の青写真を明らかにしている。2014年に7年契約でヤンキースに移籍。この間の年俸は2200万ドル(推定22億9000万円、日本円換算は当時のレート)とされてきた。厳しい環境の中でも入団以来6年連続2ケタ勝利を上げるなど通算78勝46敗、防御率3.74の数字は十分期待に応えるものだった。

 現地でのFAを前にして、契約のボーダーラインは1500万ドル(約15億7500万円)と見られていた。例年なら障害にならない額だが、コロナ禍で多くの球団経営が悪化。ヤンキースも田中争奪戦から撤退していく中で一部の球団からは希望額に近い提示もあったようだが、田中の決断は楽天への復帰だった。

 東北大震災から節目の10年。かねてから「晩年ではなくて、いいタイミングで日本でバリバリ投げたいと言う気持ちはあった」と言い、「決して腰掛ではなく、本気で日本一をとりに行きたい」と率直な気持ちを語っている。

 田中の復帰はもう一つ、新たな衝撃も球界に与えた。年俸は9億円プラス出来高の2年契約。その直前に発表された菅野の新年俸は8億円プラス出来高。仮に田中の今季成績が15勝5敗とする。出来高契約は球団や個人によって違いはあるが、投手の場合、概ね『登板数』、『投球回数』、『勝利数』、『防御率』、『タイトル』などの規定をクリアするごとに出来高払いが支払われる。これにチームが優勝すれば田中の年俸は10億円を軽くクリアするはずだ。

 田中と菅野は別格として、今季の年俸を見ると2人に次ぐのは柳田悠岐(ソフトバンク)の6億1000万円。さらに坂本勇人(巨人)、山田哲人(ヤクルト)、浅村栄斗(楽天)各選手の5億円と続く。つまり、田中の新年俸が明らかになる前までは10億のサラリーは夢のまた夢だった。しかし、現実に10億円プレーヤーが生まれれば、選手の目標が上がり、球界相場も変わっていく。

 今から34年前、球界に1億円選手が誕生した。落合博満(当時ロッテ)と東尾修氏(当時西武)だ。東尾の契約更改では当時の球団代表が「1億円より9500万円の方が税法上の実入りはいいよ」とアドバイスしたが、東尾は名誉をとったという逸話が残っている。その後、1億円プレーヤーは当たり前となり、3億、5億と跳ね上がっていく。そして、10億円も手に届く時代に突入した。

 ちなみに2020年度時点でのメジャー最高年俸はエンゼルスのM・トラウト選手で3770万ドル(40億5000万円)。投手ではヤンキースのG・コールの3600万ドル(約38億6000万円)。2人とも複数年の長期契約を結んでおり、トータルでは300億から450億円の巨額が約束されている。こうしてみると田中の9億円でもトラウトの4分の1以下の年俸だから、メジャーのスケールの大きさがわかる。

 楽天の総帥・三木谷浩史オーナーは田中の復帰話が起こると、即刻獲得指令を出したという。同じ楽天がスポンサーであるサッカーの神戸に所属するイニエスタ選手の年俸は約32億円だから、9億円も朝飯前か。これまでの日本球界はマネーゲームと言えば巨人がリードしてFAにも積極投資してきた。だが、楽天やソフトバンクと言った新興企業が潤沢な資金力でチーム改革を進めている。

 田中の入団でソフトバンク一強のパ・リーグ戦線に異変も予想される。強さでも、話題でも、マネーゲームでも、パ・リーグの独走とならぬようセの奮起が求められる時代になった。これもまた、田中余波の衝撃である。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)