新型コロナウイルスの影響により、多くの試合の機会を奪われた6年生達。そんな彼等に小学生最後の試合の機会を作ってあげたいと、小金原ビクトリーが松戸市内のチームに声をかけて『渋谷旗』という大会が開催されることになりました。ある特別ルールで行われるこの大会、一体どんな大会なのでしょうか? 松飛台メジャーズ 対 小金原ビクトリーの試合会場に足を運びました。



『渋谷旗』は例年に比べて公式戦が少なかった6年生のための大会。そのためベンチ入りは6年生のみ(6年生が9人揃わないチームは連合チームでエントリー)。打順、ポジションを決めるのはもちろん、試合中のサインも子どもが出します。監督やコーチはコーチャーは務めますが試合中の指示は原則禁止。中学入学を控えたこの時期、単に勝ち負けを競うことを目的にするのではなく「子どもたちが自分で考える」ことを目的にした大会になっているのです。



先制したのはメジャーズでした。1回表、二死満塁のチャンスからレフト前に落ちるヒットで2点を先制。この場面ではレフトを守る我妻昇馬君のポジションが少し深いように見えました。普段の試合であればベンチから守備位置の指示が出ていたかもしれません。
1回の攻撃が終わると、ビクトリーの高橋雄太監督は「レフトの昇馬は9月からチームに入ったばかり。(経験がないからこそ)周りの子達が指示してあげないといけない場面でしたね」と振り返ってくれました。

3回裏、今度はビクトリーの反撃。9番バッターがセーフティーバントを試みアウトになると、続く1番バッターも初球をセーフティーバント。今度は見事に成功して塁上でしてやったりの表情。2人続けてセーフティーバントという意表を突く作戦も、もちろん子どもの判断で行われたもの。その後、チャンスを広げると4番のタイムリーで1点を返し、スコアは2−1に。

4回表、メジャーズの攻撃。二死走者なしから5番打者が見事なフルスイング。打球はぐんぐん伸びて初回に続いてレフトの我妻君の元へ。



しかしボールは必死に伸ばしたグローブのわずか先を越えていき、転々と転がっていきます。必死に走ってボールに追いつき、ぎこちないフォームで懸命に中継選手にボールを返す我妻君。そのボールがミスなく繋がり、ホームに滑り込んだ打者走者を間一髪でタッチアウト。追加点を許さないビッグプレーになりました。このプレーには見守った父兄、ベンチのお父さんコーチたちからも大歓声が沸き起こりました。
「ナイス返球!」と仲間たちから次々とグータッチで迎えられた我妻君は興奮覚めやらぬ表情で「暴投にならなくてよかった」と安堵しながらも、「あとちょっとで捕れたのに」と悔しがっていました。





この試合、ビクトリーの先発投手は背番号1の高橋雄己君でした。綺麗なフォームから投げられる伸びのあるボールを低めに集めて5回2失点の好投。後を受けた梓祥太君は荒々しいフォームながら父兄から歓声があがるほどの剛速球を投げ込み打者を圧倒。最終回は背番号3のサウスポー溝口寛人君がしなやかな腕の振りからキレのあるボールを投げ込み三者凡退に抑えました。



このリリーフした2人のピッチャーについて高橋監督は「凄いボールを投げるでしょ? でもまだ骨端線が閉じてないのに腕が振れすぎてしまって、故障しそうで怖いからあんまり投げさせないんです」と話してくれました。



試合に勝つことと同じくらい、子ども達の健康と将来を大切にする方針は多くの少年野球指導者が見習うべき点ではないでしょうか。

試合を通じて両チームのベンチからは「ナイスカバー!」の声が絶え間なく、ファインプレーには歓声が上がり、大人が大声を出す場面もほとんど見られませんでした。エラーも両チーム通じて一つと締まったゲーム展開で、試合はそのまま2−1でメジャーズの勝利で終わりました。





試合後のビクトリーの反省会である子が、「初回の守りの時、レフトの守備位置をもっと前だよと指示してあげればよかった」と振り返っていました。結果的にこの2失点で負けてしまいました。しかし、大人が答えを言わなかったことで子ども達は得点圏にランナーを背負ってる場面での外野のポジションニング、そして仲間への声かけ、確認の大事さを学ぶ良い機会になりました。

「子どもたちが考えて試合をする」「大人は指示をしない(答えを言わない)」という試みは、「試合に勝つ」ことの遠回りになるかもしれません。しかし、長い目でみれば野球選手としての成長に繋がるのではないでしょうか。この経験が中学、高校で活かされる日が訪れることでしょう。

最後に、ビクトリー高橋監督から卒団する6年生たちに向けてこんなメッセージを頂きました。
「最後に結果はどうであれ、君たちに伝えてきた、自ら考え、行動する野球(試合)が出来て本当に嬉しく、また、頼もしく感じました。
勝つ事の喜びを沢山させてあげられなかった事は監督として申し訳ない気持ちでいっぱいです。だけど、勝つ事以上に君たちと楽しみ、時には悔しがり共に一緒の時間を過ごせた事は監督の一生の宝物です」

(取材・文・写真:永松欣也)