ツーシームの握りで今季最速の105マイルを出したヒックス。今はフォーシームを習得中で、その球速などがどうなるか楽しみだという

 今季、MLBで最も速い球を投げたのはカージナルスでリリーフを任されている右腕ジョーダン・ヒックスである。

「去年まではヒザが顔の近くに来るくらい足を高く上げ、勢いをつけて投げていた。でも今年は足の上げ方を抑えて、よりシンプルに効率的にと考え直した。そのほうがフォームが安定し、コントロールも良い。しかもスピードも上がった。いいリズムで投げられている」とヒックス。

 5月20日のフィリーズ戦の9回、オドーブル・ヘレラ相手に2度105マイル(約168キロ)を出した。「自分でもビックリ。いろんな要素があったんだと思う。先発のジャック(・フラハティ)が素晴らしいピッチング(8回途中まで13奪三振)で、9回になってホームのファンが総立ちで応援してくれた。ヘレラはあのとき打率.350を打っていて、特にアドレナリンが出たんだと思う」という。

 188センチ、83キロの22歳は、自らを遅咲きと呼ぶ。テキサス州で育ち、子どものころからサッカー、フットボール、バスケットボールといろいろなスポーツに勤しんだが、特に俊足と瞬発力を生かしサッカーに力を入れていた。それが15歳で足を痛め、高校では野球に絞った。

「当時はプロになるというより、スポーツで奨学金を得て大学に進みたいと考えていた。16、17歳かで、アロルディス・チャップマンの100マイルを生で見てびっくりした。当時の自分は87マイル(約139キロ)くらい、体重も70キロちょっとで小さかったからね。ただ高校の最終学年、ドラフトされたときは92から95マイルで、96マイル(約154キロ)も出ていた」。どうやって球速を上げたのか?「特に変わったことはしていない。トレーニングをしっかりして、きちんと食事を摂って、正しいメカニックで良いリズムで投げる。プロに入ってから体重は12キロ増えて、大人の身体になったのが大きいと思う」。 

 興味深いのは彼の真っすぐとはツーシームであり、動くのが普通のこと。「野球を始めたときから真っすぐはこう(ツーシームの握り=中指と人さし指を縫い目の上に置く写真参照)握っている。高校で外野を守っていて、本塁に返球するときはいつも捕手の左側にそれるように投げた。それでちょうどストライクになった。ピッチャーとしてもいつもボールが動くことを計算に入れてホームプレートを狙う。ただ今季はフォーシームにも取り組んでいて、悪くはないので、オフはもっと練習する。空振りを取るにはやはりスピン量が多くて、浮き上がるように見えるフォーシームが良いのでね」。

 今季ここまで74イニングを投げ67奪三振。鋭角に曲がるスライダーは空振り率20パーセントだが、平均100.4マイルの真っすぐは10パーセント前後でしかない。それでも、彼がマウンドに上がり、腕を振り、電光掲示板に103、104の数字が立て続けに現れると、球場にどよめきが起こり、興奮状態に包まれていく。

「誰にでも上限があるけど、自分の上限がどれくらいなのかは分からない。プロに入って、年々身体が強く大きくなっているし、自分で自分の成長に驚いている」

 昨季1Aで先発投手だったのが、今季、2A、3Aを経ずに一気にメジャー昇格したのも異例。技術的にも肉体的にもまだまだ伸びシロがあるのは確かなのである。

文=奥田秀樹、写真=Getty Images