近鉄一筋、20年間のプロ野球人生にピリオドを打った鈴木

 プロ野球の歴史の中から、日付にこだわってその日に何があったのか紹介していく。今回は1985年7月13日だ。

“草魂”を座右の銘に、CM出演時の言葉、「投げたらアカン」が流行語にもなった不屈の男、近鉄・鈴木啓示にも引退の時がやってきた。

 7月9日の日本ハム戦(後楽園)。先発した鈴木は3回途中、5点を奪われ、マウンドを降りた。グラブの中には打たれて真っ黒になったボール。それは前年、300勝の記念ボールを惜しげもなくスタンドに投げ入れた鈴木が、プロ20年目で初めて持ち帰ったボールだった。

「これが最後のボールになるかもしれんから」

 翌日、鈴木は現役引退を表明。関係者は懸命に慰留した。12日にはオールスターの監督推薦に選ばれた。「(第3戦の)藤井寺球場は君を育てた庭、そのグラウンドで一人でもいいから投げてみないか」という上田利治監督の言葉に「涙が出るほどうれしかった」と口にしながらも、「気持ちには感謝しているが、もうマウンドに上がる勇気もないし、ほかの選手にも失礼にあたる」と固辞。「引退」がひるがえることはなかった。

 13日、大阪難波の球団事務所で球団代表と話し合いを終えた鈴木は記者団を前に「打たれても“クソッ”という気が出てこなくなった。ワシはもう草魂から魂の抜けた、ただの草になってしまった」と“最後の鈴木節”を披露した。

写真=BBM