優勝を目指して戦う横浜DeNAベイスターズ。その裏側では何が起こっているのか。“in progress”=“現在進行形”の名の通り、チームの真実の姿をリアルタイムで描く、もう一つの「FOR REAL」。


 打球音が絶え間なく鳴り響く練習中のグラウンドを歩きながら、田代富雄はまず、選手の「顔つき」を見る。

 一生懸命、汗の粒を飛ばしてバットを振っている。口では「自分の気持ちはコントロールできています」などと強気に言う。だが、目が物語る。心の弱り。生気の陰り。取り繕えないものを、田代のアンテナは拾う。

 坪井智哉も、ほとんど同じことを言った。
 表情、視線、ふとしたしぐさ。
 試合中のネクストバッターズサークルでのたたずまい、スイング、眼光の鋭さ。

 そこに心のありようを見るのだ。

 9年ぶりに古巣に復帰した64歳と、指導者として5年目を迎えた45歳。2人の打撃コーチは、今シーズンの前半戦をどう戦ってきたか。

 いま折り返し地点に立つ心境とは、いかなるものか――。

「リードオフマンの問題は解決していない」


 春季キャンプ、田代は神里和毅が気になった。

 一言で表すなら、「目の力が弱い」。漫然と視線は動き、射抜くような強さが欠けていると田代は感じた。だから言った。

「モノを見る時には、パッパッパッと見るように。名前を呼ばれた時には、キッと見返す。そういうことを習慣づけて、普段から何でも眉間にしわを寄せて見るぐらいの意識でいると、集中力が出るし、ボールの見え方も変わってくるぞ」

 今シーズンここまで、神里がベイスターズ打線のキーマンの一人であったことは間違いない。82試合中73試合にスタメン出場し、そのほとんどが「1番・センター」だった。打率.292、出塁率.335、リーグトップの28二塁打、チーム最多の9盗塁。4月(86打数)は33あった三振が6月(97打数)には19にまで減るなど、目に見える形で課題を克服し、指揮官が待望してきたリードオフマンの一番手になったと言っていい。


 だが、その姿を間近で見つめてきた坪井は、神里の努力を評価しつつも厳しい言葉を並べる。

「リードオフマンの問題は解決していないし、解決に近づいてもいない。ぼくはそう思っています。まだみんなが競い合っている状況。『1番目に打たせてもらっている』という感覚ですし、それは本人にも伝えています。『誰にも代えがたい1番バッターではないよ』と。おごることなく野球をやってもらいたいし、まだまだ伸びると思ってますから」

 期待の高さに加え、拭うことのできない不安あるいは危機感が、コーチにそう言わせる。「私生活、野球以外の考え方が、まだまだプロの域に達していない」と坪井は指摘する。

「どこかふわふわしている。それがいい方向に出ればいいけど、隙になってはいけないと思っているので、その辺は口うるさく言います。食べるものや睡眠の質に気を使わない選手に未来はない。若いうちはごまかしが利くんです。年齢を重ねた時に『もっと摂生しておけば』と後悔しないように。栄養学のことなんかは、時には筒香(嘉智)を介して言ってもらったりもしますし、時間や頭の中の割合を、もっと野球に向けてもいいんじゃないかなって。やるかやらないかは、彼次第ですけど」

選手の力をいかに出させるか。


 前半戦の総括として、田代と坪井は揃って中軸の4人の打者――筒香、N.ソト、J.ロペス、宮崎敏郎――に言及した。

 田代は「思ってたよりね。期待してる数字よりも、いまちょっと低いんで」と言葉少なに語り、坪井も「いまのところ、あまり調子がよくない。もう少しやってくれる計算だった」と話す。

 ベイスターズ打線の中核を担う各打者は、端的に言って苦しんだ。

 宮崎は春先につまずき、ロペスは打率がなかなか上向かず、ソトは本塁打数を好調に重ねながらも確実性を欠いた。6月にはそれまで安定していた筒香の調子が下降、依然として苦しみのさなかにあるように見える。

「打たなかったら、ビールを我慢するよ」

 ロペスがホームランを打って帰ってきた後のベンチで、田代はそんなことを言う。「まだまだ打席が回ってくるから、今日あと2本くらいはヒットを打てるだろ」。ロペスは笑顔で「わかった」と応じるという。

「ビール4、5本は我慢したんだけど、こないだポコポコって打ったから『これでチャラだな』って言ったんだ。技術的なアドバイスも大事なんだけど、一軍はゲームでその選手の力をいかに出させるかが大事。逆にプレッシャーをかける時もある。細川(成也)なんかには、『打たなかったら横須賀に帰すぞ。そのぐらいのプレッシャーで打てないようなら、プロの世界じゃ生きていけねえからな!』って言う。だからまあ、そういうところで気遣っちゃって、やせちゃうよね。胃も痛くなるし……てのは冗談だけど」


 明るく笑う田代だが、筒香の話になると笑みは引く。2010年、ファーム監督として高卒1年目の筒香に向き合ったころを思い返しながら、こう語る。

「ツツね……『何だこの選手は』と思うぐらいすばらしい選手が入ってきて。おれが巨人に行ってからは、相手として見てるとすごくイヤなバッターだった。いまの数字は、筒香ってことを考えるとちょっと低いけど、めちゃくちゃ調子がおかしいって状態じゃない。責任感が強いから、あまり自分で背負わないようにうまく気持ちをほぐしながらね……。オールスターでも打ってるし、後半戦は力を出してくれると思いますよ」

 坪井もまた、筒香に関して「そんなに心配していない」と言う。

「一流の野球選手は細かい試行錯誤をずっと続けていくものなので、それがいい方向に出たり、悪い方向に出たりする。(新しい試みが)馴染んできた時に、爆発的によくなるって信じてます。ぼくは5年目ですけど、今年のキャンプで彼のバッティングを見た時に、今まででは一番マッチしているように感じた。過去4年の筒香を見ていて、『いいシーズンだったね』とぼくが感じた年は一回もない。打率もホームランも、もっとできると思ってきました。今年はそれ(坪井の理想)に近い数字を出してくれるんじゃないかなって、ずっと思ってます」

現場で感じる指揮官の変化。


 坪井がベイスターズの打撃コーチになったのは、2015年のシーズンからだ。2年目の2016年に、A.ラミレス監督が就任。ともに戦い始めて4年目になる。

 昨シーズンを4位で終え、続投要請を受諾した時、指揮官は「私が変わらなければならない」と宣言した。コーチとのコミュニケーションに重きを置き、その意見にこれまで以上に耳を傾ける姿勢を示した。


 現場で、それはどのような形で表れているのか。坪井は、指揮官の変化をこう語る。

「もちろん、最終的には監督が決めるわけですし、提案したことがすべて受け入れられるわけではないです。だけど、、コミュニケーションを取ろう、意見を聞こうとしている姿勢は伝わってきています。たとえば、9番・ピッチャーのところで誰を代打に出すか。去年までは『じゃあ○○を用意しておいてくれ』と言われていたものが、今年は『坪井さんはどう思う?』と聞いてきたり、『どっちかで迷っているんだけど、坪井さんが決めてください』と任せてくれたり。スターティングラインアップに関しても、相談されることはありますね。やっぱりそうやって意見を求められると、責任感も出てくるし、下手なことは言えないからいろんなデータを見ておこう、とも思いますよね」

 6月9日のライオンズ戦では、坪井の助言で8回裏の代打に送り出された楠本泰史が逆転満塁ホームランを放ったこともあった。

 だが、今シーズン前半戦の最も印象深い試合を問われた坪井は、件のライオンズ戦を含め、劇的な勝利を思い起こさなかった。むしろ頭によぎるのは、いくつもの悔しい敗戦の記憶だという。

「逆転負けや完封負けをすると、尾を引きます。選手の時は切り替えはうまいほうだったと思いますけど、コーチになってからは下手ですね。基本的に選手に対して期待も信頼もしているし、もっとできるって思ってる。だから、ほとんどの選手に対しては物足りないっていう気持ちが多いです」

 選手が打ち、勝った喜びは一夜で溶けゆく。打てずに負けた悔しさは澱のように心に積もる。そして「もっとできるんじゃないか」の思いは尽きることがない。

 それが、打撃コーチという仕事の宿命なのかもしれない。


「これからは上がるしかない」


 後半戦の「打」のキーマンは――?

 その問いに対する打撃コーチとしての答えはもう出ている。いわゆる“BIG4”の復活が見られなければ、首位追撃は難しいものになる。
 坪井は言う。

「現状、足を使えるチームじゃない。単純ですけど、4人の前にランナーが出て、4人がそのランナーを還すというのが得点のパターン。1番打者が神里なら神里の出塁率も関わってきますし、あとは2・3・4・5、あるいは3・4・5・6のバッターが還せるか、還せないかが大きなカギになってくる。状態としては、いまがいちばん低いところで、これからは上がるしかないと思ってます。これだけ4人の調子が悪いなかで、よく2位まで来たなと思うし、楽しみでしかない。『前半戦より悪くなるかも』なんてことを考えたら、もう寝れなくなってしまいますから」

 前半戦、脇を固める打者たちの奮闘が目についた。下位を打つことが多い2人の打者について、田代はこう評した。

「(伊藤)光の打席、ものすごくいいね。数字は2割5分ちょっとだけど、追い込まれてもなんとかして食らいつこうって、あいつの気持ちが伝わってくる。大和はね、見たとおりで体力に課題があるんだけど、休ませながら使うといいところで打つ。そのあたりは監督も考えてると思うけどね」


 坪井が「うれしい悩み」と語るのは、競争枠となっている右翼手のポジションにひしめく若手の起用法だ。指を折りながら語る。

「ほんとにね、まず佐野(恵太)がいい。目立たないけど、今年は乙坂(智)もすごくいいですよ。細川も出てきましたし、ファームには楠本、それからクワ(桑原将志)ね。調子が悪くてファームに行きましたけど、守備は球界でもトップクラスの男なので。バッティングさえ戻ってくれば、怖い存在になる。ライバル同士が競るのはチームの底上げになりますから、そこはすごくうれしいです」

 なればこそ、「あとは中軸が機能すれば」の思いは募る。

 彼らはもはや、コーチが手取り足取り教えるような存在ではない。ピンポイントの気づきを伝え、日常の会話を通じて心を解きほぐすしかない。

 あとは彼らが信じる道を、コーチもまた信じて寄り添い歩くだけだ。

『FOR REAL - in progress -』バックナンバー
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写真=横浜DeNAベイスターズ