優勝を目指して戦う横浜DeNAベイスターズ。その裏側では何が起こっているのか。“in progress”=“現在進行形”の名の通り、チームの真実の姿をリアルタイムで描く、もう一つの「FOR REAL」。


 イメージどおりの直球が左打者の内角を勢いよく通過した。

 148kmの表示とともに響きわたるストライクコール。

 坂本裕哉のプロ生活の、始まりを告げる声だ。


 2020年のドラフト2位ルーキーは、開幕ローテ入りの当落線上を歩いてきた。

 春季キャンプ中から踏んできた実戦のマウンド。不安定さを露呈する試合もあれば、好投を見せ指揮官からの厳しい見方を覆す試合もあった。

 評価を確定させられぬうちに、開幕が延び、長い自主練習期間に突入した。坂本は、フィジカルの鍛え直しと同時に、投球フォームの修正を試みることにした。

 だが、「いい方向にもっていけなかった」。それが明らかになるのは、ようやく全体練習が再開してからのことだ。

 5月28日の紅白戦では、2回5失点。

 6月4日のイーグルスとの練習試合では、2回1失点。制球に苦しみ、5つの四球を出した。


 坂本は言う。

「自分ではよくなっていると思っていたけど、むしろバランスがおかしくなってしまっていた。自粛期間明けの実戦ですぐにいい結果が出せなくて、そこからもう一度、修正に入りました」

 依然として当落線上に踏みとどまっていた坂本は、6月13日のドラゴンズとの練習試合で登板の機会を得る。開幕までの残り時間を考えれば、ローテ入りがなるかどうかの最終テストと言えた。

「中日戦の前の練習のときから『あ、こういう感じにすればいいんだ』と、いい感覚がつかめていました。そこから先は、フォームに関する不安は全然なかったです」

 3回無失点の好投で、首脳陣も腹が決まった。A.ラミレス監督は、坂本にこう伝えた。

「Congratulations!! どうかなと思って見てきたが、もう大丈夫。一軍でやっていけると思うから、自信を持ってがんばってくれ」

新人左腕を波に乗せた、捕手の言葉。


 初登板は開幕6戦目、6月25日のドラゴンズ戦に決まった。

 前夜、同期入団の東妻純平に声をかけ、キャッチボールに付き合ってもらった。

「(相手打線の)1番から9番までを想定して、『こうやって抑えて、こうやって抑えて』とイメージトレーニングをしていました。不安は一切なかった。しっかり眠れましたし、楽しみのほうがずっと大きかった」

 当日、試合の時間が近づくにつれ、心が徐々に高ぶっていく。体を強張らせる過度な緊張ではなく、集中力を高めさせてくれる適度な緊張感。それは、「学生時代は緊張していないときのほうがよくなかった」と語る坂本にとって、いい兆候だった。

 バッテリーを組むのは、戸柱恭孝。2人で話し合い、1球目は内角へのまっすぐと決めていた。

 18時のプレイボール直後、狙いどおり、ドラゴンズの1番・大島洋平のインコースにストレートを投げきれたとき、気持ちがひとつ落ち着いた。

「1球目の感覚がものすごくよかった。『あ、今日は大丈夫だ』と、自信が湧いてくるような一球でした」

 全力で抑えにいった初回を無失点で終えると、本人が予感したとおり、ペースをつかみ、ゲームを支配していく。味方打線が序盤3回までに5得点の援護をくれたことも、22歳の心を軽くした。

 何より、捕手のひと声が新人左腕を波に乗せた。坂本が振り返る。

「実は試合前のブルペンではあまりよくなくて。試合が始まってから、トバさんがびっくりしたような顔で言うんです。『お前、ブルペンより全然いいやないか』って。『このままいけば絶対大丈夫やから。この調子でがんばっていこうな』って」


 投手のセンシティブなメンタルは、語尾の表現も聞き漏らしてはいなかった。

「『がんばれよ』じゃなくて、『がんばっていこうな』と言われたのがすごく心強かったですね。2人でつくるんだって感じがして」

「変な欲が出るとよくない方向に行く」


 坂本は5回を投げ終えて、1本のヒットも許していなかった。初回の四球で唯一の出塁を許しただけだった。

 その過程でノーヒットノーランの可能性をかすかでも想像するのは、投手なら当然だろう。頭の中で、ちょっとした綱引きがあった。

「(安打が)ずっとゼロだったので『このままいけたらいいな』と少しは考えました。でも、変な欲が出るとよくない方向に行くのもわかっていたので。先のことは見ないで、トバさんに要求されたところに自分のベストボールを投げる。とにかく一球一球、一人ひとりということだけを考えて投げました」

 6回、先頭打者の武田健吾にフェンス直撃の二塁打を浴び、ついに初安打を喫した。続く代打の石川駿には初死球。ノーアウト一二塁で、上位打線との勝負。

 ピンチには違いなかったが、ベイスターズは5点のリードがある状況。1点、2点の失点はよしとして、とにかくアウトを重ねることが守備側のセオリーだ。

 だが、ここで坂本の負けん気が顔をのぞかせる。

「守りの考え方としてはそうだと思うんですけど、ぼく自身は『絶対に1点もやりたくない!』という気持ちで投げました。三振を取って抑えよう、と。結果は三振ではなかったけど、ポンポンとアウトを取れたことは自信になりました。いきなりクイックで投げるシチュエーションになって、それでもコントロールが乱れることなく投げたいボールを投げられた」

 2アウトを取ったあと、坂本はアクシデントに見舞われる。暴投し、逸れたボールを追いかける捕手に代わって本塁のベースカバーに入った際、バッターボックス内で右の足首をひねってしまったのだ。


 一度はベンチ裏に下がったが、坂本の腹に「ここで降板」の選択肢があろうはずがなかった。気合いを入れ直し、高橋周平にチェンジアップでゴロを打たせた。ファーストのJ.ロペスからのトスを受け取って一塁キャンバスを踏み、自らが招いたピンチを自らの手で切り抜けた。

 6回81球を投げ、被安打1の無失点。文句なしの「1勝」がキャリアに灯った。

 坂本は、謙遜と勝ち気が入り混じったかのような言葉で、初登板を振り返る。

「自分だけの力というよりは、野手の皆さんが早い段階から点を取ってくれましたし、トバさんが投げやすいように引っ張ってくれましたし……。あの試合は本当に、配球で抑えたところも多かったんです。ぼくが投げたい球とトバさんが出すサインが一致することがかなり多くて、テンポもよく投げやすかった。

 そうやって皆さんに勝たせてもらった気持ちもある一方で、やっぱり自分がしっかり投げきって勝てたんだという自信もあります。それは両方ですね」

 登板後は、捻挫した足首の治療を行うため、出場選手登録を抹消された。だが、2試合目の登板に、坂本の心は向いている。


「とにかく一日でも早く復帰して、次の試合に投げたい気持ちでいます。シーズンを通して先発ローテーションを守るのが、今年の目標。復帰してからはローテーションをずっと守っていけるように、そして先発ピッチャーの一人としてチームの日本一に貢献できるようにがんばりたい」

 最高のデビュー戦の次は、どんな投球を見せてくれるのか。

 背番号20の左腕が万全の状態で戻ってくる日が、早くも待ち遠しい。

坂本裕哉 選手名鑑
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写真=横浜DeNAベイスターズ