優勝を目指して戦う横浜DeNAベイスターズ。その裏側では何が起こっているのか。“in progress”=“現在進行形”の名の通り、チームの真実の姿をリアルタイムで描く、もう一つの「FOR REAL」。


 低く、鋭いライナーが、重く湿った空気を切り裂いた。

 あの一打があって、いまがある。それはおそらく言い過ぎではない。


 2試合連続の逆転負けで迎えたカープとの開幕カード第3戦、ベイスターズはまたも追い詰められていた。1点ビハインドで9回裏に突入し、理想とは正反対の3連敗が現実になりかけていた。

 ところが背水の最終回、先頭のN.ソトから佐野恵太、J.ロペスへと単打が連なる。ノーアウト満塁で打順は6番、宮崎敏郎に回ってくる。

「ベンチにいるときから、自分に回ってきてもいいようにと準備はしていました。みんながつないでくれた。なんとかしてここで自分が打つ。それだけを考えて打席に入りました」

 マウンド上のT.スコットとは初対戦。3球を見る間に、右腕が投じるボールの質に感覚をなじませた。

 ファーストスイングは4球目。真ん中高めの直球に対し、素直に、スムーズに、バットは出た。

 打球が右中間を跳ねていく間に2人の走者が本塁を踏む。

 直後、チームを救う逆転サヨナラの一打を放ったヒーローは、例年より控えめな歓喜の輪に包まれていた。


 この勝利から5連勝が始まった。ベイスターズ打線が火を噴き始めた。

 すべては、あの一打からだ。

開幕直前に訪れた“閃き”。


 件の打席を振り返る言葉の中に、宮崎は昨シーズンの悔しさをまぶしていた。

「去年、悔しい思いをして。いいスタートを切れなくて、チームの足を引っ張った。それも踏まえて――」

 2017年に首位打者のタイトルを獲得、2018年にも打率3割をクリアしていたシュアなバッターが、2019年の4月を打率.165で終えた。最終的に.284まで持ち直したとはいえ、繰り返してはならないつまずきだった。

 事実、今シーズンの宮崎は開幕から打ちまくっている。

 まだ15試合を終えた段階ながら、打率は4割ちょうどでリーグ2位。24安打(1位タイ)、5本塁打(2位タイ)、15打点(1位)、得点圏打率.636(1位)。どの打撃指標を見ても、軒並み上位に名を連ねる。

 見る者の関心は一点に尽きる。好調の要因はいったい何か。

 宮崎は自身の感覚を的確に表せる言葉を探りながら、言った。

「自分が思っているように再現できているというか。頭と体が一致している打席が増えているというか。その“誤差”がない状態の打席が多いような気がします」

 イメージと実際の肉体の動きとの間にあるわずかな差――それをなかなか埋められなかったことこそが、昨シーズンの不振の源だった。すぐれた身体感覚の持ち主である宮崎は、そこさえ一致していれば、一定の結果はおのずとついてくる。

 実は今年も、かすかな誤差はあった。それが消えたのは開幕とほぼ同時だったという。

「(開幕前の)練習試合で、窮屈なバッティングをしたり、自分が理想としていないバッティングをしていたなかで、ひとつ閃いたことがあって。それを開幕で思いきってやってみよう、と。そのチャレンジがいい方向に出たんです。頭と体の感覚が一致していった」


 本人の説明によれば、その閃きとは「下半身と上半身のバランス」に関わることだ。「角度、ボールに対する入り方」と言葉を重ねながら「たぶん見てるだけじゃわからない」と苦笑まじりに語ったフォームへの微修正。最後に加えた小さじ一杯の変化を経て、ズレていた箇所が、かちりとはまった。

「彼が打ったら、ぼくも打ちたい」


 宮崎のみならず、今年のベイスターズ打線は活発だ。

 梶谷隆幸から始まり、ソト、T.オースティン、佐野、ロペス。3割に迫るチーム打率をたたき出す打線には、宮崎自身、感嘆している。

「もう、とんでもない打線だなと。彼らのあとにぼくは打たせてもらっているので、すごく責任感というかプレッシャーは感じてます」

 語る表情の明るさを見るに、プレッシャーはおそらく「刺激」と言い換えていい。あいつが打ったならおれも。その気持ちの伝染が打線をつなぐ。

 宮崎を刺激するのは、打線の先頭にいる梶谷の姿だ。打率.356、出塁率.449と、リードオフマンの務めを果たす背番号3。過去2シーズンは苦しい立場にあっただけに、これまでとの違いはいっそう強く感じられる。

「見てのとおりで、(印象としては)絶対に塁にいるじゃないですか。三振する数も減りましたし、粘って粘って塁に出てうしろにつないでいるから打率も残っている。しかも長打も打てるっていうのは、相手から見れば本当に怖い存在だなと思います」

 つづけて、こう明かす。

「梶谷とは、よくバッティングの話をするんです。求めているのは、ぼくもそうですけど、もっともっと野球がうまくなりたいっていうこと。お互いに切磋琢磨して、もっともっと上のレベルに行きたい。そういう会話をいつもしています。彼が打ったらぼくも打ちたいと思うし、やっぱり負けたくない思いもある。まだまだ満足してないっていう状態ですね」


 もう一人、今シーズンの打線の象徴的な存在となっているのは新加入のオースティンだ。宮崎が言う。

「一言で言えば、すごいバッターですよね。こんなに(日本球界に)対応できるのか、と。いくらヒットを打っても、自分が納得できないスイングに対しては喜ばない。求めているものが高いんでしょうね。その意識の高さはすごい」

 メジャーで実績のあるバッターと、打撃論を交わす機会があった。向こうではどんなバットの出し方をするのか。どういう教えを受けてきたのか。宮崎は質問を投げ、返ってくる言葉に耳を澄ませた。

「ほとんど自分が思っていたとおりの答えでした。ぼく自身、間違っていなかったんだなと思えた」

 国も違う。アプローチも違う。フォームも違う。だが、バッティングの根底にある原理は共通しているということなのだろう。

 まだまだ追い求め、高めていきたい打撃の道。進むべき方向性は正しいのだと、宮崎は確信を深めた。

もっともっと団結して、高みを目指す。


 直近の6連戦を、ベイスターズは3勝3敗で通過した。開幕からの2試合に続けて負けた以外は連敗がない。やはりあの3戦目、大型連敗という深い谷への転落を回避できた意味は大きい。

 宮崎は、いまだ堅調に安打を重ねている。

 だが7月5日、日曜日のスワローズ戦はやや不安を感じさせる内容になった。第4打席まで内野ゴロに倒れ、最初の3打席はすべてショートゴロだった。

 実は、宮崎は試合前、こんな話をしていたのだ。

「ぼくの場合、ショートゴロを打ってないときは、いい日。逆に打球がショートゴロに行く日は、ほとんど打ってないと思います」

 宮崎にとってのショートゴロは、下半身と上半身のバランスに狂いが生じている証らしい。「下半身と上半身を本当はバラバラに動かしたいけど、それが一緒になって動いてしまっているときは必ずショートゴロになる」。それを3つも打った日曜日のゲームは、後味の悪い試合になりかねなかった。

 それでも宮崎は、9回に回ってきた最終打席で第5号のツーランを左翼席に運んだ。短時間のうちに修正できたか。あるいは「たまたまです」と彼は言うだろうか。

 打撃の調子は常に上下する。仮に宮崎の好調の時期がいったんは終わったとしても、いまなら打線全体できっとカバーできる。そういうときを迎えてこそ、打線の真価は問われる。


 15戦を終えて9勝6敗の2位。

 打線と投手陣は充実のときを迎えつつあり、チームは、求め続けてきた強さをついに手に入れようとしているかに見える。

 現在のチームを覆う空気について、宮崎は言った。

「新キャプテンになった佐野を中心に、雰囲気はいいですね。もちろん試合に負けることもありますけど、本当に悔しい思いをみんなが持っていて、そういうときでもチームが一つになりつつあるなと感じます。もっともっと団結して、高みを目指してやっていく。みんながそういう気持ちでいると思います」


 上々のスタートを最高のフィニッシュにつなげられるか。

 次なるビジター6連戦も、全員の力でひとつの勝利をつかみにいく。

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写真=横浜DeNAベイスターズ