新型コロナウイルス感染拡大のため中止となった今年3月のセンバツ出場32校の「救済措置」として甲子園で開催される「2020年甲子園高校野球交流試合」。今夏は地方大会と全国(甲子園)も中止となった。特別な思いを胸に秘めて、あこがれの舞台に立つ球児や関係者たちの姿を追う。

一貫として変わらない姿勢



中京大中京高の右腕・高橋宏斗は智弁学園高との甲子園交流試合を10回3失点で完投。公式戦無傷の28連勝で有終の美を飾っている

 中京大中京高の154キロ右腕・高橋宏斗は8月12日に行われた智弁学園高との甲子園交流試合後、進路について問われると、こう答えている。

「基本、進学です」

 一貫として変わらない姿勢である。

「世代No.1」を目指してきた最終学年、タイトル4冠(明治神宮大会、春のセンバツ、夏の選手権、秋の国体)を目指してきた。ところが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、公式戦の中止が相次いだため、挑戦権を奪われる形となった。

 しかし、チームとしての不変のテーマは「無敗」。中京大中京高は愛知の独自大会を制し、そして、智弁学園高との甲子園交流試合も延長10回タイブレークの末にサヨナラ勝ち(4対3)。公式戦負けなしの28連勝で有終の美を飾った。高橋は甲子園で照準としていた「155キロ」はならなかったが気迫の149球、11奪三振、5安打3失点でチームを勝利へと導いている。

 複数球団のNPBスカウトは、昨年末の段階から「ドラフト上位候補」と明言していた。この日、甲子園で視察したある球団幹部も「ボール自体も素晴らしいですが、任された試合は最後まで投げ抜くという、エースとして大事な要素を持っている」と絶賛した。だが、現実問題として「(プロ志望届を)出すか、出さないか?」と言葉を付け加えている。

 昨年12月、高橋は本誌取材に将来像について、こう答えていた。「東京六大学を目標としています。神宮の応援を含め、大学野球の中でも別格。4年間を経て、即戦力で活躍できる選手になりたい」。センバツの結果次第では状況が変わることも示唆していたが、実力を披露する場がなかった。年明けの段階でブルペンで自己最速を2キロ更新する150キロ。活動自粛期間を経て、練習試合で153キロ、愛知の独自大会で154キロとレベルアップを証明していたが、「基本線」がブレることはなかった。

「その選択肢も、ある」


 約2カ月の活動自粛期間中は5歳上の兄・伶介さんと体を動かすことが多かったという。伶介さんは慶應義塾高、慶大でプレー。同じ右投手であり、投球技術以外にも、野球に対する考え方を学んだという。尊敬する兄の背中を追いかける――。高橋も東京六大学、つまり、神宮のマウンドを目指している。

 この日、完全に「進学です」と言い切れなかったのも、難関入試を控えているからである。プロ志望届は提出しないのか? という報道陣の問いかけに対して「その選択肢も、ある」と含みを持たせたのも、志望校に簡単に合格できる保証がないという背景からである。

 前出のスカウト幹部は言う。

「昨秋の神宮大会の時点から評価は変わっていません。高橋君と明石商・中森俊介君、福岡大大濠・山下舜平大君の3投手は1位でないと獲得できない。12人の中に入ってくるレベルであるならば、通算成績、FA、さらには将来的な挑戦として海を渡ることまでも考えれば、1日でも早くプロの世界で勝負してほしい思いはあります。ただ、大学を出ておきたい事情も理解できます。私たちがどうこう言える立場にありません。提出しなければ、その時点でリストから外れる形となります」

 基本、と語る道筋が希望どおりにいくだろうか。今夏の甲子園交流試合で、高校野球は一区切り。高橋は進路、そして、大学入試と真正面から向き合うこととなる。

文=岡本朋祐 写真=牛島寿人