「ますます差を広げられる」



セにもDH制を導入することを訴える原監督

 物議を醸したプロ野球セ・リーグの指名打者(DH)制の導入は、ひとまず適用が見送られることが決まった。セ理事会が12月14日、東京都内で開かれ、来季の暫定導入について協議。巨人から山口寿一オーナー名でDH制導入を要望する文書が提出されたが、導入に反対する球団が多く、継続審議となった。セ、パの不均衡はDHにあるのか――。その根底に流れる要因を探る。

 話題が沸騰したきっかけは、巨人が日本シリーズでソフトバンクに2年連続の4連敗を喫したから。「すべての面において、われわれが劣っていた」――。過去15度の交流戦でも1勝14敗と大きく負け越すなど、じわじわと広がるパ・リーグとの実力差を何とかしたいという原辰徳監督の思いが大きく反映されている。その打開策が、パが実施しているDH制への移行だ。

 山口オーナーが導入を求めた理由は、「コロナ禍の中での投手の負担軽減」「一人でも多くの野手に出場機会を与えてチーム強化を図る」「投手が積極的に打撃に加わらない状況の是正」の三つ。以前から原監督は、「パに相当の(力の)差をつけられている。セも同じようにDH制を採用しないと、ますます差を広げられる」と主張。所属するリーグの危機的状況を救いたいという、伝統球団の意地とプライドがにじむ。

 DH制がセ、パの格差を招いた一因となったのは間違いない。打撃に秀でた野手のみで組んだパの打線と対する同リーグの投手は、レベルアップをせざるを得ない。その投手陣を打ち崩すために、野手も切磋琢磨して必然的にスキルが上がる。まともな打撃練習をしていない投手が打席に立つセの9人制野球とは、投打においての経験値と緊張感が違う。「セにもDH制」と唱える原監督の発想は、極めて妥当だろう。

 パのDH制導入は1975年から。観客数減少に悩み、先に同制度を導入したメジャー・リーグ(MLB)のアメリカン・リーグに倣い、「独自性を出したい」という願いがきっかけとなった。プロ野球は当時、絶対的な指示を持つ巨人を中心にセが栄華を誇った。DH制には、パの「セの人気に対し、われわれは実力で対抗する」という40年来の強烈な思いが込められている。

 それではDH制導入が格差是正の決定打となるのかといえば、そう単純ではない。

 近年のドラフト前には、選手から「指名されれば、12球団のどこにでも行く」というコメントがよく聞かれる。ひと昔前、特定の球団に入ることを嫌い、強行指名に対して入団拒否をする選手が少なからずいた。そのヒジ鉄を食らったほとんどがパ所属の球団。しかし、2004年の1リーグ構想や翌年の球界再編などを経て経営努力にいそしんだパ球団のイメージは格段に上がり、有力選手も「レベルが高いパ」へ進んで入団するようになった。現代のトップクラス選手の最終目標はMLBであり、人気球団に所属する満足感のためではない。プレーに対するモチベーションやパフォーマンスも違ってくる。

王貞治の大号令



地力のある選手をドラフトで獲得したソフトバンク。そこから柳田らがチームの主力へと成長した

 そんな時代の先駆けとなったのが、ソフトバンクの前身ダイエーだろう。西武で辣腕を振るった根本陸夫は、移籍したダイエーでも“球界の寝業師”としての本領を発揮。あの手この手の策と労力を尽くし、選手が持つ固定観念を粉砕した。小久保裕紀、井口忠仁(現・資仁)、松中信彦、城島健司ら他球団も狙ったトップクラスの入団にこぎつけた。

 そのノウハウを見つめ、現在のソフトバンクの圧倒的強さの一端を担っているのが球団を統括する王貞治だ。10年ほど前、王は編成担当者へ大号令をかけた。「野球は後からでも教えられる。誰よりも遠くに打球を飛ばし、速い球を投げる選手が欲しい。卓越した天性の能力を持った選手を獲得しろ!」。他球団とはひと味違うスカウティング哲学は、育成枠の有効活用にも生きている。セに力の差を見せつけている柳田悠岐、千賀滉大、甲斐拓也らの活躍は、DH制がもたらしたものではない。

 セとパの格差はDH制だけが生んだわけではなく、複合的な要因が絡んでいる。パワーとスピードで本場MLBに勝ち目のなかったプロ野球が、日本伝統の“スモール・ベースボール”を磨き上げ、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で頂点に立ったのも一つの事実。差を縮めるための本質は、おごり高ぶることなくストイックに、いかにそれぞれの道を究めるかだ。

 日本シリーズで浮き彫りになったように、この1球、この1プレーに対する執念やひたむきさで、セ、パの覇者に違いが見えた。パがこれまで何をやってきたのか。セにはどの部分が足りず、どこに問題があるのか。理解を深めて対処することが、セとパの格差を埋めることにつながる。

写真=BBM