2001年、メッツに入団した新庄剛志とともに日本人野手として初めてメジャー・デビューしたイチロー。1年目からアメリカ球界に衝撃を与えた。

新人最多242安打を記録



マリナーズ時代のイチロー

 日本人として初めてポスティングシステムを利用してオリックスからマリナーズに移籍。7年連続首位打者という圧倒的な実績を引っ提げ、大勢の報道陣を連れアメリカにやって来た。

 ただ、アメリカ球界には活躍を疑問視する声があった。日本人も投手はメジャーで通用すると認められていたものの、打者には力のある球を弾き返すだけのパワーがないとする意見が見られた。実際イチローもメジャーの主力打者に比べるとサイズでは見劣りした。マリナーズのルー・ピネラ監督も開幕前「(パワー不足で)二ゴロしか打てないのではないか」と、こぼしたという。

 現実は違った。アスレチックスとの開幕戦で5打数2安打。快調な出足で4月は打率.336と勢いに乗った。巧みな打撃だけでなく、守備でも魅せた。4月11日のアスレチックス戦では、右翼からノーバウンドの好送球で三塁を狙った一塁走者を刺した。この「レーザービーム」は日本人のメジャー挑戦史で一、ニを争う名場面であろう。

 6月終了時で打率.349。地元シアトル開催のオールスターにア・リーグ、ナ・リーグ通じて最多の337万票あまりを得て初出場。7月の月間打率は.268だったが、8月は.429と復調。8月を終えたときに安打数は205を数えていた。

 9月に入っても着実に安打を重ね、1927年にパイレーツのロイド・ウェイナーがマークした新人のシーズン最多安打223の更新が視界に入る。すると関係者は現在の新人規定を過去に当てはめ、メジャー4年目の11年にナップス(現インディアンス)のジョー・ジャクソンがマークした233安打が記録だとし始めた。ブラックソックス事件で球界を追われた、シューレス・ジョー・ジャクソンである。イチローがアメリカのファンに90年前の悲劇の天才打者を思い出させたのである。

 結局イチローは242安打で新人最多安打記録を更新。一番打者としてマリナーズのシーズン最多116勝に大きく貢献した。個人的には打率.350、56盗塁でタイトルを獲得。新人王とMVPを獲得した。両賞の同時受賞は75年レッドソックスのフレッド・リンに続き2人目だった。当時はステロイド全盛時代。本塁打や打点が重視されていたが、それとは正反対のスピードと技術のイチローが選ばれた。野球の見方が変わるほど衝撃的だったのだ。

『週刊ベースボール』2021年2月15&22日号(2月3日発売)より

文=樋口浩一 写真=Getty Images