ヤクルト時代から警告を受けていたが……



ヤクルト時代のガトームソン

 時代が変わればルールも変わる。かつては日常だったことが異常になり、合法だったものが違法になるのは世の常だ。逆に、異常なことが日常になり、違法が合法になり、以前は罰を受けたことでも現在は“お咎めなし”ということもある。

 ドーピングの世界でも、時代が進むにつれて禁止される薬物が増えるのは仕方のないことだが、以前はNGだった薬物がOKになることもある。そんな薬物のひとつがフィナステリド。かつては筋肉増強剤の成分を体外に排出するとかで禁止薬物に指定されていたが、現在は除外されている。薬物というと物騒な雰囲気も漂うが、簡単にいえば育毛剤の成分。人が変われば体質も変わり、若いうちから……という向きも少なからずおられるが、主に中年男性の一発逆転に貢献してくれそうな心強い存在だ。

 だが、これでドーピング検査に引っかかり、2007年に20日間の出場停止処分を受けた選手がいた。ソフトバンクの“助っ投”ガトームソンだ。ヤクルトで2年間プレーした右腕だが、このヤクルト時代から警告を受けていたものの、服用を続けていたという。この処分の前後にも紆余曲折があった。プロ野球で初めてのドーピング陽性だ。関係者が狼狽するのにも同情の余地がある。もちろん、それでも服用し続けたガトームソンの切実さ(?)には同情に加え、共感すら覚えてしまいそうだ。ルールはルールでダメなものはダメなのかもしれないが、悩みは変わらなくてもルールのほうが変わることもあるのだ。

 ガトームソンはソフトバンクで2年連続5勝7敗。2年目の08年オフに戦力外となる。フィナステリドが禁止薬物から除外されたのは翌09年のことだった。

 時代の違いによる格差や不公平感は、しばしば「時代が違う」と片づけられる。だが、ガトームソンの場合は時代の違いというより“時代の誤差”。わずかにタイミングが違えば、ドーピング陽性の第1号として名を残すことはなかったはずだ。その09年に韓国プロ野球でプレーを再開したガトームソンが服用も再開したかどうかについては不明だ。もちろん、服用を再開することに問題は一切ない。

文=犬企画マンホール 写真=BBM