3年前に創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。バックナンバーを抜粋し、紹介する連載を時々掲載しています。

ファームの選手も使って



表紙は巨人・長嶋茂雄

 今回は『1973年7月9日号』。定価は120円。

 6月19日から大阪球場の南海−ロッテ3連戦。首位攻防戦として大いに盛り上がった。

 僅差で首位の南海・野村克也監督が
「うちは1勝2敗でいい。1勝さえすれば、負け数は同じになって5分や。それだけうちが有利ということやな」
 残り試合は少ない。1勝が2勝になり、3連勝でもすればもう事実上の決着だ。

 19日、球場関係者はてんやわんやだった。前夜の雨で外野にいくつも水たまりがある。急きょ大きなスポンジを買い込んで、球場部の人間だけではなく、南海のファームの人間まで呼び寄せ、水の吸い取り作業を行った。

「金田(金田正一)監督がここに来るのは今年初めてやからね。お客さんもたくさん入るでしょう。いいゲームをしてもらいたいから」

 と球場部関係者。前期、大阪球場での南海戦は、この3試合のみ(13試合中)。ほかは和歌山、徳島だった。

 実際、ロッテ人気はすさまじいものがあり、各球場はロッテ戦の観客動員だけが飛び抜けていた。この3連戦も前売り券は完売。初戦19日は収容人員を上回る3万4300人が詰めかけ、地下鉄なんば駅から球場までの道は10メートルおきにサンダル履きのおばさんのダフ屋がいた。

 球場の係員は言う。
「ケンカと野球は、やっぱり強うないとあきまへんな」

 野村監督も笑顔だ。
「雨が降らんでよかったわ。今年はほかの球団がみんなようもうけたのに、うちだけ取り残されていた。これで選手の給料にも跳ね返りがあるやろ」

 一方、満員の客席をこちらも笑顔で見ていた金田監督は、
「ええやないか。どんどんお客さんが入ることは。きょうはいいゲーム見せるで。そうでないと、こんなに来てくれたお客さんに申し訳ない」

 太平洋との戦いとは別人のような穏やかな顔だ。ただ、勝敗になると慎重。
「3連勝を狙うと3連敗するおそれがある。だから2勝1敗でいい」

 そして試合が始まると、いつものパフォーマンス。スタンドに向かって応援をせがむことはいつものことながら、ラフィーバーのファウルチップを野村監督が受け損ねて急所に当て痛がっていると、さっとベンチを飛び出し、野村の腰のあたりをさすってやった。さらに、こうやるんや、とばかり、その場でジャンプすると客席から一斉に笑いが起こった。

 試合は2対1で終盤に。だが、8回途中から投げたロッテ・村田兆治がとにかく速かった。2回を簡単に打ち取り、ゲームセット。

 受けた捕手の醍醐は「僕が受け始めて、こんな速い球に出合ったのは村田が初めて」と舌を巻いた。

 では、また。

<次回に続く>

写真=BBM