2月1日、球春到来を待ちわびるファンは、現地へは赴けない。6球団がキャンプを張る宮崎県は、国の緊急事態宣言が解かれるまで、無観客でのキャンプ実施を要請。各球団ともそれに従うことになった。受け入れ側の宮崎県はどのような態勢でキャンプを成功させ、新型コロナウイルスに打ち勝とうとしているのか。3球団を受け入れる宮崎市観光協会事務局次長の長田将明氏に話を聞いた。
文=椎屋博幸 写真=BBM


選手全員で行う朝のランニングを見ながら、シーズンがそこまで来ていることを感じるファンも多かったはず。今年は無観客となり、この風景は直接見られない

経済よりも大事なもの


 半世紀以上にわたり続いている宮崎の2月の風物詩“プロ野球春季キャンプ”。今年はこれまでの雰囲気とは大きく様変わりすることになりそうだ。

 1月15日、宮崎県の河野俊嗣知事が、県内の各所で予定されているキャンプについて、国の緊急事態宣言中の2月7日までは無観客で実施することを各球団に要請した。

 プロ野球球団が集中する関東圏、関西圏で1月7日以降、順次、緊急事態宣言(2月7日まで)が発令された。一方、受け入れる側の宮崎県でも、年明けの1月に入り新型コロナ感染者が急激に増えたことを受け、県が独自に緊急事態宣言を発令。今のところ2月7日までを期限としている。それ以降の宣言の継続などは、宮崎の感染状況を踏まえて判断することになっている。


 もともと緊急事態宣言が発令されるまでは、キャンプ地にファンを入れる方向で、議論を重ねていたという。宮崎市観光協会の長田将明氏は「まずは、県民が新型コロナウイルスに感染しないことが第一条件です。一方で、お客さんには少しでも足を運んでもらうことで、経済も回していきたいと思っていました。そのどちらもうまくいく方法を検討していました」と語る。

 ソフトバンクがキャンプを張る宮崎市内の生目の杜運動公園。球場へと向かう公園内の通路には、たくさんの出店が並ぶ。宮崎キャンプのひとつの風物詩だが、ここでの売り上げは毎年1億円ほどになるという。この時期に宮崎市の施設を使用するプロ野球3球団や、Jリーグ、そのほかの韓国球団のキャンプなどを含めると2020年の県の経済効果は124億4400万円。新型コロナ禍により、この数字が大幅に落ち込むことが予測される。

「無観客になったのはすごく残念です。それよりも大事なことは県民の安全を守る。そして春季キャンプから新型コロナウイルス感染者を出すことなく成功させること。これが今一番の願いです」と長田氏は力説する。


 しかし緊急事態の中、無観客でのキャンプインとなることについては、そこまでの焦りはないようだ。というのも2020年秋に行われたみやざきフェニックス・リーグを無観客で開催し、成功に導いたからだ。プロ野球関係者や報道陣に対し、よりこまめな健康チェックや消毒の徹底を実施。さらにホテル側の協力などもあり、無事に日程を終えることができた。

「昨年の2月末に開催された“球春みやざきベースボールゲームズ”。あの最終日に新型コロナウイルス感染拡大により、試合が急きょ無観客になりました。当時はかなりばたばたしましたが、あの経験は、今回に対しての大きな経験になっていますね」


誰も感染させない


 2月1日に向け、球団関係者、NPB関係者、そしてすべての報道陣がPCR検査を受け、陰性であることが確認されてから宮崎に入ることになっており、期間中は衛生管理面を徹底してやることで、キャンプ日程を最後まで維持させたいという思いは強い。

 一方、経済面では……。無観客ということもあり、出店での販売はなくなる。この痛みは大きい。「出店で宮崎の特産品などを売ることで、宮崎のことをアピールできるいい機会なのですが、それよりも一番はやはり新型コロナウイルスに感染しないことが何より大事ですから」と経済よりも脱コロナを優先させると長田氏は繰り返す。


キャンプの風物詩のひとつでもある球場周辺の出店。今年は営業も禁止となる。経済効果の面では大打撃だ[写真はSOKKENスタジアム=オリックス]

 宮崎県民は現在、新型コロナに敏感になっている。1月に入り新型コロナウイルス感染者が急激に増え、1日あたりの感染者数は、人口比にすると東京の感染者に近い比率になった日もあった。要因として、年末年始に都市部から帰省した人たちによるもの、というような話が広まり、県民が不安になっている部分もなくはない。だからこそ宮崎でキャンプを張る球団とそこに関わる県外の人たちに検査をしっかり実施し、万全の体制で1日1日消化していくことを徹底していくのだ。


 では8日以降はどういう対応になるのか。「実際には緊急事態宣言が解除になった場合は、お客さんを入れたいという願いはあります。それも、国や県の状況を踏まえた上でじっくりと検討していきながらの判断になると思います」。

 ちなみにお客さんを入れることになった場合は、新型コロナ対策を万全にしながらの取り組みをしっかりとやっていく。球場内では検温、手洗い、消毒は当然で、ソーシャルディスタンスにも気をくばり、声出しの禁止などを徹底する。飲食に関しては、出店がないため持参を求める。ほとんどの球場は運動公園内にあるため、球場内ではなく野外であれば禁止にはしないことで、来場してもらうことになる。


 一方、そのお客さんに対してもPCR検査を行う義務を持たせるのか? それは今のところ強制はできないという話になっている。球場では検温、手洗い、消毒の徹底をしながら、ファンの良心に働きかけていくことになる。


選手たちは、シーズンへ向けしっかりと調整し鍛錬していくだけ。それを見守るキャンプ地は、絶対に感染者を出さないつもりだ

 球場内の駐車場には県外ナンバーをいたるところで見かけ、球場までの通路には、宮崎地鶏の炭火焼きの煙が立ち込める。宮崎牛のおいしい匂いにも誘われながら、スタンドに向かうあの光景は、今年はない。しかし、まずはこのキャンプに関わる人々、そして宮崎県民の安全を第一に、プロ野球全球団のキャンプを1カ月間、無事に終わらせることが、宮崎のキャンプ地としての使命であることは間違いない。そしてファン、選手、関係者全員が、その宮崎の思いをしっかり受け止め、感染防止を徹底していくことになる。