2019年秋からプレスタートする次世代移動通信システム「5G」の話題が盛り上がり始めている。「高速・大容量・低遅延」を特徴とする5Gは各業界に大きな波及効果をもたらす可能性を秘めているが、一般にはまだどのようなメリットがあるのか理解は深まっていない。
 具体的に何ができるのか、何がすごいのか。それを知るための機会として、大手通信キャリアのソフトバンクと福岡ソフトバンクホークスが3月20日〜23日に福岡 ヤフオク!ドーム(以下、ヤフオクドーム)で実施したのが、5Gを活用したVR試合観戦実験だ。

●単なる伝送実験にあらず 5Gがもたらす可能性を模索


 今回の実証実験は、ヤフオクドームに設置した複数の高画質VRカメラで撮影した試合の映像を、3.7GHz帯および28GHz帯で構築した5Gネットワークを通してVRヘッドセットに伝送するというもの。ただ単に、高解像度の3Dパノラマ映像で野球中継が観戦できるというのではなく、複数のアングルを自在に切り替えたり、観戦者同士がアバターを通してコミュニケーションをとったり、さまざまな要素を複合的に組み合わせているのが特徴だ。
 実証実験が行われたのは、ヤフオクドームのスーパーボックス。フィールドを一望できる個室席。備え付けられているのは、VRヘッドセット・ヘッドホン・コントローラーだ。4セットが横並びに設置され、4人が同時にVR空間を共有できるようになっている。今回は実験ということで、ユーザー同士がリアルでも同じ場所を共有したが、例えば、北海道と沖縄からアクセスして同じVR空間を共有することも可能だ。

●“生”とも“テレビ”とも異なる新しい野球観戦体験!


 さて、実際にVRヘッドセットを被ってみると、どのような光景が広がっているのか。レンズを通して見えてくるのは、実証実験が行われているスーパーボックスと隣り合っている体験者のアバターだ。
 部屋は壁に飾られている写真まで忠実に再現。アバターは性別や服装、髪型など複数のパターンから選択することが可能だ。ヘッドセットとコントローラーの動きはVR空間にも反映されるので、ある程度のリアクションであれば、アバターを通して同じ空間にいる体験者に伝えることができる。ボイスチャットにも対応しており、電話やメールと比べると情報量はかなり濃密だ。
 そして、正面を向くと広がっているのが、フィールドのカメラが映しだしている3Dパノラマ映像だ。画面上にはカメラ切り替え用のアイコンがあり、手元のコントローラーで指示すれば、テレビのチャンネルのようにすばやくマルチアングルをスイッチすることができる。VR映像の情報量は大きく、従来の技術であれば遅延が発生していたが、低遅延の5Gであれば、ほぼリアルタイムで映像を伝送する。映像がカクつくことはなく、なめらかに動くのも特徴といえるだろう。
 いかにリアリティがあるとはいえ、リアルに勝るものはないと思っていたが、実際に体験すると印象はかなり変わる。まず、VR観戦は“生観戦”と“テレビ観戦”と比べてどちらが良いというものではないようだ。“生”と“テレビ”のそれぞれの良さをハイブリッドした新しい観戦スタイルという印象をもった。
 例えば、臨場感。息遣いという点ではリアルに軍配が上がるかもしれないが、カメラの位置は実際の客席より近いので、選手の表情や細かい仕草などはVRのほうが、より鮮明に知ることができる気がした。また、テレビよりアングル数は少ないが、自分の好きなタイミングで映像を切り替えることができるのは、これまでにないVRならではの魅力といえるだろう。

●5G×VRでビジネスモデルも変わってくる?


 実証実験では、テクノロジーユニット モバイル技術統括 モバイルネットワーク本部 本部長の野田真氏が、ソフトバンクがこれまで行ってきた5Gに関する取り組みを説明。18年2月に都内で実施した帯域の特性を探るためのフィールドトライアルを皮切りに、3月のトラック隊列走行(5Gで伝送した情報をもとに無人トラックを前方のトラックに追尾させる実験)、5月の「5G×IoT Studio お台場ラボ」オープンなど、短期間で多彩な実験を行ってきた。
 「5GによってAIやロボティクスによるスマートオフィスの実現やロボットアームを活用した遠隔操作、車とモノのつながりの加速、8K映像伝送やMR/VRといったエンターテインメントの進化が期待できる」(野田氏)。
 野田氏は、今回の5G×VRの実証実験について「単に新しいエンターテインメント体験というだけではない。例えば、これまで人数に上限があったリアルのイベントがVR空間と組み合わせることで上限がなくなる」と、ビジネスモデルがチェンジする可能性にも言及した。
 今回の5G×VRの野球観戦はまだ具体的な料金体系やスケジュールは決まっていないが、今後商用化を目指す予定。野球にとどまらず、さまざまなスポーツやライブなどで適用されれば対象となるターゲットはぐっと広がる。VR機材が“一家に一台”という時代も遠くないかもしれない。(BCN・大蔵 大輔)