アップル初のハイエンドヘッドホン「AirPods Max」が12月18日に発売された。iPhoneやiPad、Macによるエンタテインメント鑑賞やリモートワークにも相性の良いワイヤレスヘッドホンの実力を発売後約1週間に渡って体験してみた。

●“6万1800円”という高価格に見合うプレミアム体験


 AirPodsは2016年末に発売されたアップルの人気のワイヤレスイヤホンだ。iPhone、iPadとペアリングが簡単にできて、パーソナルアシスタントのSiriによる連携もスムーズにできる“よき相棒”として多くのユーザーに選ばれている。
 新たに登場したAirPods Maxはイヤホンではなく、Bluetooth接続のワイヤレスヘッドホンだ。耳をゆったりと覆うイヤーカップを採用するアラウンドイヤースタイルとして、音楽リスニングに不要なノイズを音声信号の電気的な処理により消し込むアクティブ・ノイズキャンセリング機能を搭載している。
 価格は6万1800円というハイクラスなプレミアムヘッドホンだが、期待に応える高音質と、この後に触れるこのヘッドホンでしか楽しめない機能である「空間オーディオ」には十分に価格相応の価値がある。
 筆者は取材を始めてからもう長く本機を使っているが装着感は悪くないと思う。多彩なiPhone/iPad連携を使い込んでみるとコストパフォーマンスにも合点がいく。色とりどり5色のカラーバリエーションを揃えているのもうれしいポイントだ。

●消音効果がしっかり効く 外音取り込みも優秀


 AirPods Maxの見どころは数あるが、今回は三つの点に狙いを定めて特徴を紹介したい。はじめにアクティブ・ノイズキャンセリングの消音効果からだ。AirPods Maxは本体に搭載する合計八つのマイクで環境音とイヤーカップ内部の音をリアルタイムにモニタリングしながら、ノイズ成分に逆位相の音をぶつけて消し、リスニングに没入できる環境を作り出す。
 基本的な仕組みは一般的なノイズキャンセリング機能を搭載するヘッドホンやイヤホンと同じになるが、AirPods Maxの場合は10個のオーディオコアを搭載するアップル独自のオーディオ専用ICチップ「Apple H1」を合計2基搭載して制御。独自開発の高精度な消音アルゴリズムを走らせることによって、リスニングの妨げになるノイズをしっかりと消してくれる。
 消音効果は他社製品と比べてみてもかなり高いレベルにあり、機能をオンに切り換えても鼓膜をツンと刺激するような不快感も一切ない。音楽再生が心地よく楽しめるバランスも魅力的だ。
 音楽や通話音声に外部の環境音をミックスして聞くこともできる。本体右側イヤーカップの上部に搭載する「ノイズコントロールボタン」、またはペアリングしたiPhone/iPadからの操作により「外部音取り込み機能」に切り換えると、まるでヘッドホンを外したように周囲の音がクリアに聞ける。
 アクティブ・ノイズキャンセリングと外部音取り込みの機能はとても出来映えがよかった。AirPods Maxは音楽や映画の音声を楽しむ場面に限らず、iPhoneによるハンズフリー通話や、iPad/Macによるビデオカンファレンスの際に音声を聞くために使うコミュニケーションデバイスとしても出来がよいと思う。
 AirPods MaxにはApple H1チップの高い処理性能を活かして、ヘッドホンの装着状態に合わせてサウンドの聞こえ方を最適化する「AdaptiveEQ(アダプティブイコライゼーション)」という機能もある。メガネやイヤリングを装着してみたり、髪型を変えてもAirPods Maxは音の聞こえ方のバランスが崩れないワイヤレスヘッドホンなのだ。

●ハイエンドヘッドホンらしい上質なサウンド


 次に注目したいのはサウンドだ。オーディオメーカーのヘッドホンを愛用してきた方には、ITテクノロジーのブランドであるアップルが発売する初めてのハイエンドヘッドホンの「音質」が価格相応なのか気になる向きも多いと思う。
 筆者の手応えとしては、AirPods Maxのサウンドは他社のアクティブ・ノイズキャンセリング機能を搭載するハイエンドクラスのワイヤレスヘッドホンと十分に肩を並べる完成度に到達していると感じた。自社設計の40mm口径ダイナミック型ドライバーと、Apple H1チップに搭載されているパワフルなアンプがきめ細かくて力強い、立体的なサウンドを再現する。
 バランスがニュートラルで、粗っぽさのない上品なサウンドはボーカルにハイライトした楽曲や、楽器の音色をゆったりと楽しみたいクラシック、ジャズの演奏にこの上なくマッチした。アップテンポなロックやEDMの楽曲はとてもスムーズな鳴りっぷりだ。Apple MusicやSpotifyなど音楽配信サービスのコンテンツがとても心地よく楽しめた。
 アップル独自の「空間オーディオ」は、対応するハードウェアとアプリを組み合わせると手軽にモバイル環境で映画やドラマなど映像コンテンツの立体サラウンドが楽しめる機能だ。
 iOS 14.3以降のiPhone、iPadOS 14.3以降のiPadとにAirPods Maxをペアリングして、Apple TVアプリでDolby Atmos、7.1ch/5.1chの映像コンテンツを再生すると、間に他の機器を挟むことなくシンプルな組み合わせでサラウンド再生が楽しめる。Apple TV+のオリジナルコンテンツ「グレイハウンド」や「See〜暗闇の世界〜」などは空間オーディオ体験にもおあつらえ向きのコンテンツで、緻密な効果音の作り込みが味わえた。
 スマホとワイヤレスヘッドホンの組み合わせでサラウンド再生を楽しめる技術はほかにもあるが、空間オーディオにはもう一つ「ダイナミック・ヘッドトラッキング」というユニークな機能がある。
 空間オーディオの視聴環境で対応するコンテンツを再生すると、例えば正面にいて話している登場人物の話し声がユーザーが顔の向きを変えるとコンテンツの音が元の位置に定位したまま、片方の耳から強く聞こえてくる。映画やドラマの作品の世界に入り込んでしまえるような没入感が新鮮だ。映画館やホームシアターで何度も観てきた作品も、空間オーディオで楽しむとまた違った魅力に出会える。

●やはり便利なiPhone/iPad連携


 最後に、AirPods MaxがiPhone/iPadをはじめとするアップルデバイスと見事な連携機能を備えている所にも注目したい。iPhone/iPadとのペアリングがワンタッチで完了するだけでなく、ユーザーが所有する一つのデバイスとペアリングが完了すると、iCloudアカウントでサインインされているMacやApple TVなどすべてのデバイスとの自動ペアリングが行われる。
 例えば、MacにAirPods Maxをペアリングして映画を視聴している最中に、iPhoneにかかってきた電話に応答するとヘッドホンの接続先が自動的にiPhoneに切り替わる。上手に使いこなせばリモートワークをさらにスムーズにこなせる環境が構築できそうだ。
 AirPods Maxは高価なヘッドホンだが、発売直後からアップルのオンラインストアには多くの注文が殺到したようだ。本稿を執筆している2020年12月末現在、購入後配送まで約2ヶ月半待ちとなっている。多くのユーザーに製品が行き届いた後には、空間オーディオ対応をはじめとする本機の独自性がまた改めて注目を浴びるのではないだろうか。(フリーライター・山本敦)