【日高彰の業界を斬る・6】(前回より続く) 3月6日から9日まで開催された「リテールテックJAPAN 2018」では、国内大手ITベンダーによる店舗業務の省力化・無人化システムが提案されていた。
 リテールテックJAPANの会場で尋ねてみたところ、技術者たちの答えを総合すると「技術的には、やろうと思えばできる。しかし、コストが見合わないだろう」という内容だった。
 Amazon Goでは、商品ひとつひとつにRFID(無線ICタグ)などを貼り付ける必要がない代わり、店内に大量のカメラや高性能センサを設置しなければならないし、何より、商品や人の行動に関する膨大なデータを学習させる必要がある。削減できる人件費よりも、インフラの整備やデータの学習にかかるコストのほうがはるかに上回るため、ベンダー側としても店舗側としても、今すぐ取り組める企業は存在しないのではないか、ということだ。

●目の前の課題に寄り添うか、未来の理想を具現化するか


 既に店舗を運営し、人手不足という切実な課題を抱える多くの小売業にとって、店舗業務の省力化・無人化システムは、すでにその是非を検討する段階を過ぎ、本当に使える技術があるならすぐにでも導入したいという域に入っている。
 今回のリテールテックJAPANでも、店内カートにPOSレジ機能を搭載してセルフショッピングを可能にするシステムや、棚の間を走行し、欠品を自動的に検知するロボットなどでは、今年中の導入に向けて店舗との間で具体的な準備を進めているという話を聞くことができた。小売業者と長年の付き合いがあり、現場の業務をよく知る日本のITベンダー各社は、店舗の切実な課題に寄り添っている。
 対してAmazon Goは、現在の店舗の事情とは関係なく、「今後の理想的なショッピング体験とは何か」をゼロベースで考え、具現化したもののようにみえる。今後アマゾンは、第2、第3の実店舗を展開していくと考えられるが、当面はAmazon Goで利益を出すことは不可能だし、そもそも他の実店舗をもつ小売業者とどう戦っていくかという考えすらないだろう。

●目の前の課題に寄り添うか、未来の理想を具現化するか


 何年先になるかはわからないが、アマゾンはいつの日か、Amazon Goの運営を通じて蓄積した膨大なデータとノウハウを活用し、新たなサービスを他社に対して提供することだろう。
 例えば、センサ等のハードウェアとクラウドサービスをセットにし、Amazon Goのような店舗を誰でも運営できるようにするソリューションなどが考えられる。実現すれば、オフィスの廊下など、これまで考えられなかった場所に「売り場」を展開する事業者が現れるかもしれない。
 このような将来の展開は筆者の勝手な想像に過ぎないが、アマゾンはこれまでもまず自らが事業主体となり、そこで磨いた技術やシステムを外販してスケールメリットを得て、さらに高度なサービスを提供するという軌道で成長してきた。自社の次世代ITインフラとして設計した環境を外部にも提供したAWS(アマゾンウェブサービス)や、自らの物流システムを店子にも提供するFBA(フルフィルメント・バイ・アマゾン)などだ。
 プラットフォーマーとしてB2Bサービスを展開し、同時に自社のB2C事業がそのサービスのファーストユーザーでもある。このサイクルがアマゾンの強みのひとつであるとすれば、Amazon Goを未来の店舗の基盤として外部に提供することで、Amazon Goはさらなる進化を果たす――このような筋書きがあっても不思議ではない。
 現在の店舗業務には、ITによる劇的な効率化を果たせる余地がある。しかし、将来日本にもAmazon Goのような技術が押し寄せてくると、小売業という業態自体に破壊的な変革をもたらす可能性もある。(BCN・日高 彰)