これまで7回にわたり「勉強が続く! わかる! 『ビッグデータ』時代の家庭学習」の記事を連載してきました。それを通して、子どもたちの学習記録を活用して、家庭学習がどのように変わったのかをお伝えしてきました。今回は、最終回。ベネッセ教育総合研究所カリキュラム研究開発室長の中垣眞紀が、進研ゼミの教材制作の担当者を取材して、教育におけるビッグデータ活用の「現在」と「未来」についてまとめます。

Q.進研ゼミをデジタル化したのはなぜですか?

—進研ゼミは、自律的に学習できるようにするために「個別化」を考え、工夫しつづける歴史をたどってきました。かつての教材は全国一律でしたが、今は学校の教科書の内容と進度に合わせて教材を届けています。さらに、教科ごとに教材の難易度を複数パタンそろえ、子どもが選べるようにしています。また、中学生向けの講座では、都道府県の入試傾向に合わせて問題を作り分けています。

—このように、できるだけ子どもに合った教材を届けようとする姿勢は、いわば進研ゼミの遺伝子と言えます。しかし、紙教材には技術的にできないことがあります。それは、子どもの取り組みの状況にあわせて、即時に働きかけを変えることです。

—たとえば、目標は高すぎても低すぎても、子どものやる気は高まりません。そのことを私たちは十分に知っていましたが、紙で教材をお届けする形では一人ひとりに合った適切な目標を提示することが難しい現実がありました。

—しかし、教材をデジタルでお届けすることで、出来ている少し先を目標として提示することができる。そのとき、ライバルキャラクターやいっしょに学習している仲間ががんばる様子を感じさせることで、やる気を高める。そして、その目標をクリアしたら、また少し先の目標を提示する。こうした個別の働きかけが、柔軟にできるようになりました。デジタル化によって「個別化」がさらに進化し、目指していた教材・サービスに近づいている実感があります。

Q.ビッグデータがあると、どんなことができますか?

—ビッグデータにもいろいろありますが、世の中で活用されている事例ではどういう状況で、誰に対して何が売れるのかといった、ある時間、状況を切り取った使い方が多いように思います。これに対して、進研ゼミのデータは、一人の子どもが日々、どのような学習をしたかの学習記録の蓄積であり、「学びのヒストリー」の集合です。

—同じ80点でも、満足できる点なのかは、子どもによって違います。苦手な教科を頑張って、「今回やっと80点とれた」という状況であればとてもうれしいことです。しかし、いつもは、90点取っているのに、今回は間違ってしまって10点も低かったということ状況では、子どもは決して満足しません。

—分析の担当者や教材の制作者は、学びのヒストリーから子どものインサイトを探りたいと話しています。データを活用すれば、学習状況をしっかり見守り、「やる気が落ちたとき」や「やる気に火がついたとき」に、そのタイミングで励まし応援できるような取り組みができます。

—そうした働きかけで一番大切なのは、やっぱり「人」だということもわかってきました。データを分析してわかったことを「人」が伝える。デジタル教材に、赤ペン先生や担任コーチがいるのは、そういう理由です。デジタルでわかったことをデジタルだけで返しても効果が薄い。理解者や見守る存在がとても大事です。

Q.では、ビッグデータでわかることは何でしょう?

—問題ごとの正答率、誤答パタン、解答に要した時間などからは、さまざまなことが分かります。たとえば、学力が高い子どものほうが正答率が低いような問題が現れると、教材制作の担当者は「問題が良くないこと」を疑います。解答までの時間が想定より長い問題も、同様です。全教科全問題を同じ目線で精査し、課題と対策が洗い出せます。

—また、学習していて解けない問題が出てくると、それが「つまずき」となって、その先の問題に進めなくなることがあります。データからは、このような「つまずき」について、「どこから」「なぜ」わからなくなったのか、また、これからどんな学習をすればよいのかが明らかになってきました。

—こうした知見を活用すれば、一人で学習していても「つまずき」を乗り越えられる教材が作れるようになります。このように、データを丁寧に分析すると、問題文の「てにをは」ひとつで正答率が変わることなど、問題の良し悪しや指導方法の効果検証が随時できるので、教材の制作者がよりよい教材の流れを考えやすくなりました。

Q.教材制作の流れが変わったのですね?

—子どもの成長へのこだわりは教材を制作する者にとっての矜持です。詳細なデータが得られるようになると、「どのような力を身につけるか」をゴールにして、教材の設計ができます。データをみながら、どうやって子どもの力を伸ばすのかを議論する。そんな場面が格段に増えています。そのような総括を、優秀な編集者に頼るだけでなく、組織的にできるようになったのが、ビッグデータのメリットです。

—恩恵は、各教科の教材制作だけではありません。たとえば、進研ゼミには、月号ごとに全体設計をする責任者がいます。その月号の取り組み状況をデータから総合的に判断し、活用上の課題と対策を検討します。活用が高まる時期や時間帯のようなものは、子どもの生活リズムに密接に関連しています。そうしたことを考慮して、教材の使い方をリアルタイムで提案できるようになりました。

Q.では将来、どのようなことを実現したいと考えますか?

—子どもが伸びるときは、予兆があります。そのことを、子どもも保護者も気づかないことがある。学習記録からわかった子どもの良さや可能性を、発見して伝える。それが毎日の学習活動のなかでわかる。そんなサービスが実現できたらいいと考えています。

—また、子どもと赤ペンコーチの会話分析なども進めています。どのような声かけ、働きかけが効果的なのかを分析し、その質を高めることが目標です。子どもの学習を支えるうえで重要なのは「人」です。将来的にも、そうした働きかけをAI任せにするのではなく、人がどのようにかかわるか、そのつながりを作ることに新しい技術を使いたい。

—そして、最終的には、今は、会員ではないが、本当に困っている子どもたちともコミュニケーションできるようになるといいといいですね。たとえば、中学に入って部活に入ったことで勉強がとても大変になったけど、何とか両立させたいといったことは、多くの中学生が経験しうる困難です。そういうときに「いま」「ここで」声をかけて応援し、学力や学習意欲を高めて困難を乗り越えるような体験を、会員はもちろん、会員でない人とも共有できるような環境を作っていきたいと思います。

連載では、ビッグデータの活用によって変化する家庭学習をテーマに事例を紹介しました。データを用いることで、教材・サービスの個別化が進むとともに、その効果検証と改善が、確実にできていく様子がうかがえました。しかし、データをどう生かすは、まだまだ人の判断が重要です。また、教育という営みの中で、人のかかわりを大切にしていることもわかりました。これから発展が予想されるAIの時代に向けて、進研ゼミがさらにどう進化するのかが楽しみです。(文・沓澤糸)