今回の学習指導要領改訂は、大学入試改革(高大接続改革)と連動している点で注目を集めています。
前回に続き、新学習指導要領作成の中核的メンバーである奈須正裕先生に、これまでの経緯を踏まえつつ、大学入試改革と学習指導要領の関係についてうかがいました。

「生きる力」と「B問題」— 段階的に変化してきた学力観

知識が多いだけでは、幸せな人生を送れるとは限らない。知識を自在に使いこなして、問題解決に生かす力が重要である——こういった議論は以前から重ねられてきました。1996年度改訂のキーワード「生きる力」は、そのような「資質・能力」の育成を視野に入れた言葉です。
また、2007年から小学校6年生・中学校3年生を対象に実施されている全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)では、知識の所有を問う「A問題」のほか、知識の活用を問う「B問題」が出題されています。知識を活用して考えさせる授業の取り組みも、2007年頃から徐々に進んでいます。たとえば算数なら、問題を解いて終わりではなく、なぜその解き方がよいのか、子どもたち自身が考え、皆の前で説明しながら相互に深め合っていく「説明する算数」といった授業を、授業参観日などに体験された保護者のかたもいらっしゃるかもしれません。
今回の学習指導要領改訂はこのような流れの延長上にあるものですが、特にクローズアップされているのは、大学入試改革(高大接続改革)と連動している点です。

小中高教育の「出口」を変える

ここでちょっと歴史を振り返ってみますと、日本に最初の「学校」が生まれたのは明治5年でした。この頃は日本に限らず、多くの国々で工業生産中心の国づくりが進んでいました。工業社会では、共通の知識を数多く身につけ、与えられた役割を正確にこなす人材が求められ、学校も長らくそのような力を養成してきたといえます。教えられたことに疑問を感じたり、もっと良いやり方がないかと工夫することは、かえって「非効率的」だったのです。大学入試や高校入試も、「教えられた正解を教えられた通り吐き出せるか」を試すテストが主流でした。

しかし、世界は工業生産中心の社会から、情報やアイデア、イノベーションが大きな意味をもつ知識基盤社会へと急速に変わりつつあります。知識基盤社会で求められる人材の典型として、スティーブ・ジョブズが挙げられるでしょう。ジョブズが立ち上げたアップル社の製品が魅力的なのは、既存の技術をうまく組み合わせて新しい価値を生み出している点だと思います。知識や技術を持つだけでなく、独自な活かし方ができる人材が求められているのです。
中国や韓国、東南アジア諸国でも、すでに「資質・能力」育成を目指す教育が始まり、成果を上げ始めています。日本も前述の通り、段階的にその方向へと改革を進めてきました。しかし、小・中・高等学校教育の出口ともいえる大学入試が変わらなければ、従来型の受験勉強もなくなりません。

今回の入試改革は、もちろん教育の論理が主導するものですが、同時に「イノベーションを生み出せる人材を養成しなければ、日本は生き残れない」という産業・経済界の強い要請が背景にあることも事実です。

「大学入試」から「高大接続」へ

これまでは大学の定員に対して18歳人口が多く、倍率が高くなりがちだったため、受験生をふるいにかけるようなテストをせざるをえない面がありました。近年は人口が減少し、「大学全入」も現実的になったからこそ、入試に大胆にメスを入れることが可能になってきたのです。

大学入試問題は、知識の活用を問う方向に、すでに変わってきています。また、たった一度のテストで生徒をふるいにかけるのではなく、生徒一人ひとりが学んできたことを時間をかけて精査し、「生徒が学びたいこと」と「大学が育てたい人材」をマッチングさせるAO入試が、私立大学はもとより、近年は国公立大学でも広く行われるようになってきました。
大学によっては、実入学者の50%に迫る勢いのところもあるようです。私も私立大学でAO入試に関わっており、書類選考や面接に手間はかかるのですが、不本意入学がないため、AO入試で入ってきた生徒たちは学ぶ姿勢が明確で意欲が高いと感じています。

今回の改革は「大学入試」改革ではなく「高大接続」改革と呼ばれます。「高大接続」という言葉には、伝統的な学力観で生徒を「切る」のではなく、「高校までの主体的な学びを大学での学びに生かす」という意味が込められているのです。

次回は、新学習指導要領のキーワードである「主体的・対話的で深い学び」について、保護者の方々に知っておいていただきたいことについてお話しします。