ハリウッドで始まった「#Metoo」運動をきっかけに、セクハラや性被害を訴える動きが世界中に広がる中、フランスでは2018年8月、「性的暴力及び性差別的暴力との闘いを強化する法律」が制定された。

18歳未満に対する強姦などの時効は成人後30年に引き伸ばされ、新たに、路上などで侮辱的な言葉を投げかける「性差別的侮辱罪」が創設。加害者は自分で費用を負担して、性暴力防止の講習を受講する義務などが定められた。

日本と比べて、様々な性犯罪規定を設けているフランス。フランス刑法を専門とする大阪大の島岡まな教授は「『日本ですから、フランスの話をされても…』と言われるが、それでいいのか。変わろうという意識がなければ、いつまでも抜け出せない」と日本の法整備の遅れを訴える。話を聞いた。

●「強制」心理的なものも含む

ーーフランスでは、どのように性犯罪の規定を定めているのでしょうか

フランス刑法では、「暴力、強制、脅迫又は不意打ちをもって実行するすべての性的侵害」を「性的攻撃」と定義しています。

ここでいう「強制」には、物理的だけでなく心理的なものも含まれ、未成年の被害者と加害者との年齢差や、犯人が被害者に対して法律上または事実上及ぼしている権限によって生じると規定されています。

2018年8月には、この定義がさらに改正されました。未成年者に対して強姦やそのほかの性的攻撃が行われた場合、心理的強制または不意打ちが生じ得るとされました。

その上で、強姦、そのほかの性的攻撃、性的ハラスメントと3つの罪種があります。

さらに、強姦や性的攻撃で、15歳未満の少年・児童に対するものや被害者に対して権限を行使できる立場にある者によってなされたもの、職業上の権限を付与された者がその権限を濫用することによって行われたものなどは、刑が加重されます。

ーー強制という言葉の定義に心理的な強制も含まれていて、地位や関係性を利用した性的行為から被害者を保護しているのですね

これは、「暴行・脅迫」だけの日本の刑法よりもすごく広い要件です。つまり、学校の先生やクラブの指導者、会社の上司など、地位や関係性を利用して行われる性的行為については、心理的強制が推定されることになります。

こうした強制がなかったということは、加害者側が証明しなくてはなりません。この規定をフランスは1992年に作っています。いかに性暴力被害者のことを考え、法整備が進んでいるかが分かると思います。

●性交同意年齢「15歳まであげるべき」

ーー日本では、「暴行または脅迫」がなくても強制性交等罪が成立する範囲が、被害者が13歳未満の男女の場合となっています。この性交同意年齢を引き上げるべきか、もしくは別の枠組みでの罪があれば良いのか。どう考えますか

年齢を少なくとも15歳まであげるべきだと考えます。フランス刑法の性犯罪規定は、若者や弱い人を手厚く保護しています。

まずは年齢。フランスでは、性交同意年齢は15歳です。それ以外にも、被害者が病気や障害などで脆弱な状態にある場合の犯罪は、性暴力だけでなく暴行や殺人罪などでも刑が加重される理由となります。

性交同意年齢の引き上げについて、2014年10月〜15年8月にかけて開かれた法務省の「性犯罪の罰則に関する検討会」では、「中学生同士や中学生と高校生などの間で性交が行われたような場合に、これを犯罪だとしてしまうことには抵抗を感じる」といった反対意見がありました。

フランスでは、中高生の恋愛に警察が介入することはなく、ホテルから出てきた男女を警察が逮捕するような事態は考えられません。

13歳のままでいいということは、14歳で被害にあっている人を切り捨てることになります。これは、国家権力に対する法曹関係者の弱さを、もっと弱い被害者へしわ寄せしていると思います。日本の刑事司法の欠陥のために、被害者の利益を犠牲にしていいのでしょうか。本末転倒だと思います。

ーー「暴行または脅迫」要件を撤廃すると、「疑わしきは罰せず」の原則が崩れるという指摘もあります

無罪推定というのは世界共通の原理であり、これを尊重するのは大前提です。

当時10代の親族女性に対する強姦(当時)などの罪で懲役刑が確定し、女性の証言が嘘だったとして服役後に釈放された男性がいます。2015年10月に無罪が確定しましたが、これは警察の捜査や裁判所での審理が問題だったと考えます。

客観的証拠がないまま、本人の証言だけで加害者が有罪になるということは本来ありえません。こうした無罪判決を持って「被害者は嘘をつく」と決めつけ、性犯罪の成立範囲を狭めようというのは、最も弱い人に自分たち法曹関係者の問題を転嫁しているのではないでしょうか。

性犯罪だけ冤罪が増えるというのは全くおかしい。冤罪が増えるという議論自体が誤解で、無理解に基づいていると思います。

性暴力被害者の心理、加害者がどのようにして日常生活の中で上下関係を作りあげ性行為に追い込むのか。研修を受けてこうした知識が身についていれば、罰すべき事例か罰すべきでない事例かも明確になり、冤罪の危険も減って行くと思います。

【プロフィール】島岡まな(しまおか・まな)。慶應大大学院修了。大阪大法学研究科教授。共著に「フランス刑事法入門」など。