海賊版サイトによる著作権侵害や、SNS上の名誉毀損などの事件で、発信者の特定に使われてきた手続きよりも、すさまじい威力を発揮する「手段」がまさに編み出されようとしている。

米国で在外研究をおこなっている山岡裕明弁護士によると、現地の法律事務所の協力のもと、米国の証拠開示制度「ディスカバリー」を使ったところ、発信者のアカウント情報について「最短3日」で開示命令が発令されたというのだ。

ディスカバリーの活用によって、従来はハードルが高く、時間のかかった発信者の特定が、簡単で便利になるかもしれない。

●「発信者情報開示」は時間がかかる

現在、著作権侵害や名誉毀損などの被害を受けた人が、発信者を特定するためには、通常、プロバイダー責任制限法にもとづく「発信者情報開示」の手続きをとる。次のようなものだ。

まず、サイト運営会社を相手取り、IPアドレスの開示を求める仮処分を申し立てる。裁判所が、IPアドレスの開示を命じると、次はプロバイダーを相手取り、氏名・住所・メールアドレスを開示するようもとめる。

CDN(コンテンツ配信ネットワーク)やSNSなど、米国のIT企業のサービスが利用されていた場合、海外送達の時間がかかるため、仮処分命令まで3カ月、氏名や住所の開示までは、さらに半年かかることも少なくないという。

しかも、その開示を受けて、ようやく、海賊版サイト運営者や、中傷を書き込んだ人に対して、損害賠償を請求することができるのだ。

●ディスカバリーを活用したところ・・・

こうした状況に問題意識を持っていた山岡弁護士が、米カリフォルニア州の法律事務所の協力のもと、米国の証拠開示制度「ディスカバリー」を使ったところ、1〜3カ月で、IPアドレスだけではなく、開示対象となったアカウントに登録された氏名、住所、クレジットカード情報や電話番号も開示されたという。

これまで、最短3日で開示命令が発令されたケースもあるそうだ。一見、良いことずくめのようだが、もちろんボトルネックとして、費用面の問題はある。

通常、米国の法律事務所を通した場合、数百万円はかかるとされているが、山岡弁護士は、現地の法律事務所と交渉したうえで、日本の発信者情報開示の手続きの費用と同程度におさえているそうだ。

編集部注:ディスカバリーの詳しい手法はこちら https://www.businesslawyers.jp/practices/1176

●サイバー犯罪でも威力発揮か

ディスカバリーは、プロバイダー責任制限法にもとづく手続きでは対処できない「サイバー犯罪」の捜査でも威力を発揮する。

山岡弁護士によると、たとえば、米Googleのメールサービス「Gmail」で、殺害・脅迫の予告があった場合、プロ責法による開示は期待できない。

そのため、一般的には、刑事共助条約に基づいて、日本の警察が、米国の捜査機関に「捜査共助」を要請することになる。

しかし、捜査共助の完了まで、平均10カ月もかかるというのだ。IPアドレスは、一定の時間が経つと消去されるため、捜査が間に合わないおそれがあった。

山岡弁護士は「ディスカバリーの活用によって、サイバー犯罪などの解決の幅が広がります。国内事件を国内の手続きだけで解決するというパラダイムが、これから転換すると思います」と話している。