命にかかわる事故も起こるスキー場では、様々なマナーが求められます。下方を滑っている人が優先されることや、上から見えづらい場所では止まらない、コース上に座りこまない、といったルールも。いずれも「衝突」を防止するためのマナーです。

しかし、細心の注意を払っても、事故に発展することもあります。

首都圏の私立大学生ケンタさんは先日、滑り疲れてコースの脇にある木陰で休んでいたところ、上方から滑ってきた他のスキーヤーに激突され、骨折するという悲劇に見舞われました。男性は、痛がるケンタさんに「ごめんねー」という言葉を残し、その場を立ち去ってしまったのです。

●上方からの滑降者に責任を認める裁判例

スキー場での衝突事故は少なくなく、実際に損害賠償請求が認められた裁判例もあります。

最高裁判所は、スキー場で発生したスキーヤー同士の接触事故について「スキー場において上方から滑降する者は、前方を注視し、下方を滑降している者の動静に注意して、その者との接触ないし衝突を回避することができるように速度及び進路を選択して滑走すべき注意義務を負うものというべき」(最判平成7年3月10日)と示しました。

判決文によると、事故現場は急斜面ではなく、事故当時、下方を見通すことができたとされています。そのため、上方から滑ってきたスキーヤーは「接触を避けるための措置を採り得る時間的余裕をもつて、下方を滑降している上告人を発見することができ、本件事故を回避することができたというべき」としています。

そのため、ケンタさんは男性に損害賠償を請求できる可能性はあるでしょう。

●男性に「救助義務」が認められれば、損害賠償責任を負う可能性も

また、今回のケースでは、男性はスキー中にケンタさんに激突し、その場を立ち去っています。このように相手に激突し、その場を立ち去る行為に法的な問題はないのでしょうか。齋藤裕弁護士はつぎのように説明します。

「男性は、木陰で休んでいるケンタさんに激突したわけですから、通常は、前方左右に注意 する義務を怠った過失があると考えられます。

赤の他人同士であれば、通常、一方がケガをしていても、他方が救助する法的義務はありません。しかし、ある人の過失等によりケガを負わせた場合、加害者は過失行為という先行行為により、救助義務を負う場合があると考えられます。

たとえば、東京地裁平成3年2月19日判決は、過失によって他の船を沈没させた船の側が 『危険を作出した先行行為者としてより強い救助義務を負う』との判断を示しています。

ですから、ケンタさんに激突した男性にも、過失行為という先行行為による救助義務が認 められ、それにも関わらず救助しないことによってケンタさんに損害が発生した場合、損害 賠償責任を負う可能性があります」

●男性は刑事責任を問われる可能性もある

民事上の責任だけではなく、救護せずに立ち去った男性の行為がなんらかの犯罪にあたる可能性もあるのでしょうか。

「ケガを負わせた行為自体は業務上過失致傷罪にあたる可能性があります。

しかし、それとは別に、ケガを負わせたことで男性が『保護責任者』とされ、ケンタさんを置き去りにしたことが『遺棄』とされ、保護責任者遺棄罪に該当する可能性もあります(刑法218条)」(齋藤弁護士)

【取材協力弁護士】
齋藤 裕(さいとう・ゆたか)弁護士
刑事、民事、家事を幅広く取り扱う。サラ金・クレジット、個人情報保護・情報公開に強く、武富士役員損害賠償訴訟、トンネルじん肺根絶訴訟、ほくほく線訴訟などを担当。共著に『個人情報トラブル相談ハンドブック』(新日本法規)など。
事務所名:さいとうゆたか法律事務所
事務所URL:http://www.saitoyutaka.com/