セクハラ被害が社内で解決できなかったら、どうすれば良いのでしょうか。

今年3月、「アース&ミュージックエコロジー」などを展開するストライプインターナショナルの創業者である石川康晴氏が、女性社員にセクハラ行為をしていたと報じられました。

同意がないままわいせつ行為に及ぶなど性犯罪に当たる内容でしたが、会社はセクハラに対して厳重注意処分で終わりました。

あまりに甘い処分に、世間からは批判が集まりました。労働問題にくわしい笠置裕亮弁護士は「代表者自身が加害者となっていると、会社の自浄作用がほぼ機能しなくなってしまい、社内での解決が難しくなってしまう」と話します。

こうした場合、被害者はどのような法的手段を取ることができるのでしょうか。そして、どのように解決していくのでしょうか。笠置弁護士が担当したセクハラ事例を元に、話を聞きました。

●退職した後に法的手段をとる人が多い

ーー社長など代表者からセクハラを受けた場合、特に、被害を言い出せなかったり会社の対応に期待できなかったりすると思います。笠置弁護士が担当した事案は、どのような経過をたどったのでしょうか

代表者からのハラスメントは、在職中に法的手段をとると被害がエスカレートする場合があります。労働事件一般に言えることですが、残業代請求にせよ、退職した後に法的手段をとる人が多いのが現状です。

数年前、社長と営業部長からセクハラを受けたという相談を受けました。営業部長には無理やり連れこまれレイプを受けたというひどいものでした。社長からはとっさに抱きつかれたというものでしたが、1対1の空間でおこなわれたもので、なかなか証拠がなく、個別の立証が難しかったです。

精神的なショックから、女性はとても働ける状況ではなかったので、すでに退職していました。女性は早い解決を望んでいたので、労働審判をおこないました。労働審判は、原則として3回以内の期日で審理して、話し合いによる解決を目指すものです。

会社側から一定の解決金が支払われたのですが、女性が100%満足いく解決ではありませんでした。

会社の自浄作用が働かない場合、一人でなんとかしないといけない事案が多くあります。ただでさえセクハラを受けて心身ともにしんどい面があるので、同じような被害にあった同僚などと一緒に戦うということを心掛けなければならないと思いました。

ーーセクハラ被害に対して、いきなり裁判を起こすわけではないのですね

労働審判は、使用者と労働者の間で起こった紛争をスピーディに解決する手続きです。立証のハードルは、普通の裁判とは変わりません。そのため、きちんと立証できないと負けますが、解決までは3カ月程度と通常の裁判よりもとても早く進みます。

もう一つ、労働組合に入って会社と団体交渉をおこなう方法もあります。これは文字通り「交渉」です。双方で合意すれば終わりますので、1カ月でまとまることもあります。

ただ、お互いの見解が真っ向から対立していて、交渉での解決が難しそうであれば裁判などに移行してしまうことも多いです。

●まずは会社に相談するべき?

ーーハラスメント相談窓口を設置している企業もあります。まずは、会社に相談するのが良いのでしょうか

最初にやるべきは、会社への相談だと思います。会社に相談せずに損害賠償請求をした場合、会社側が「会社の方では事案を把握していなかったため、安全配慮義務は必要なかった」と反論してくる場合があるためです。

ただ、社内の窓口が機能していないところもあります。相談者の中には、ハラスメント窓口に相談したところ、「あなたがやると不利になるよ」「復職できなくなるよ」と取り下げさせられ、相談自体なかったことにされたという人がいました。

これは、上司から自宅に無理やり連れ込まれ、性被害にあったという事案でした。

このケースでは、社外の労働組合に入ってもらって団体交渉をし、無事円満に解決することができました。

場合によって、社外のユニオンへの加入を勧めることがあります。というのも、弁護士に頼んで会社に交渉をしても、会社側はその交渉に応じる義務は法令上なく、無視することも許されてしまうためです。

一方、労働組合に入って団体交渉を申し込むと、会社はそれに応じる義務が生じます。労働組合法によって、会社が正当な理由なく拒んだ場合は、不当労働行為と評価されるためです。

金銭的にもメリットがあります。うまく交渉がまとまるなら、高額になりがちな弁護士費用をかけることなく、組合費の支出だけで済むので、金銭的な負担も少ないと思います。不当労働行為への保護を盾に、日常的な嫌がらせに対する抑止力を働かせることができます。

●仲間を集めることが大事

ーー「アース&ミュージックエコロジー」の事例でも、複数の被害者がいたとされています。複数で訴え出た方が良いのでしょうか

代表者からのハラスメントは誰も止められず、深刻なハラスメント被害を受けやすいです。一人が相談に来たことをきっかけに、複数人で労災申請、損害賠償請求をおこなった事例もあります。

相談者の女性は、会長からセクハラ、社長からパワハラを受け、うつ病を発症していました。病気の症状がかなり重く、社会復帰までにかなり長期間を要すると思ったため、労災申請をすることにしました。

女性には「とにかく仲間を見つけてみてください。同じような被害を受けた人は、たくさんいるでしょう」と話しました。その結果、社内で似たような被害にあい、同じような時期にうつ病になった人がいたことがわかりました。

他にも、精神疾患をわずらうまで至っていませんが、パワハラを受けたという人もいました。そこで、労災申請に当たって、協力者として6人ほどのかつての同僚に話を聞くことができたのです。

たくさんの被害の証言を集める上でも、仲間を集めることは大事だと思います。防犯カメラなど動画の証拠があれば一番良いのですが、短時間の接触型のセクハラだとなかなか証拠は取れません。

ーー社長からのセクハラに声をあげることは、とても覚悟がいることだと思います。今どうしていいか分からないという人、にアドバイスをお願いします

代表者自身が加害者となると、会社の方で忖度が働き、解決までの仕組みがきちんと機能することが期待できないことがあります。

被害者側が問題提起をすると、逆に些末な問題行為をあげつらい、解雇や懲戒処分を嫌がらせでやってくる事例がとても多いです。そのため、自らのセクハラ被害に加え、不利益処分に対しても異議申し立てを行わなければならないという二方面のたたかいを強いられ、被害者へのセカンドレイプと見紛うようなしんどい状況になってしまいます。

そのような相談を受けた場合、私は弁護士がいきなり介入すべき事案かどうかを慎重に考え、場合によっては社外のユニオンへの加入を勧めます。不当労働行為への保護を盾に、日常的な嫌がらせに対する抑止力を働かせる必要があるからです。

解決のあり方は、それぞれの事情によっても違うと思いますので、とにかく労働問題の専門家に相談していただくということを伝えたいです。

【取材協力弁護士】
笠置 裕亮(かさぎ・ゆうすけ)弁護士
開成高校、東京大学法学部、東京大学法科大学院卒。日本労働弁護団本部事務局次長、同常任幹事。民事・刑事・家事事件に加え、働く人の権利を守るための取り組みを行っている。共著に「労働時間規制と過労死」(労働法律旬報1831・32号61頁)、「労働相談実践マニュアルVer.7」「働く人のための労働時間マニュアルVer.2」(日本労働弁護団)など。
事務所名:横浜法律事務所
事務所URL:https://yokohamalawoffice.com/