インターネットの誹謗中傷に苦しんでいたリアリティー番組「テラスハウス」出演のプロレスラー・木村花さんが22歳で亡くなった。「木村さんの死は他人事ではない」と声を上げたのが唐澤貴洋弁護士だ。

ネット中傷の被害者を精力的に助ける一方、彼自身もまた「100万回の殺害予告」を受けた被害者である。2012年3月、掲示板「2ちゃんねる」(当時)で、ある少年の代理人として削除請求をしたことをきっかけに、今も「炎上」させられている。

誹謗中傷だけでなく、自宅住所をさらされるなど、プライバシーを丸裸にされた上で執拗な攻撃も受けたという。自死寸前の崖っぷちの体験とともに、被害者支援の視点にもとづいた制度改革について提言してもらった。

●ネットの誹謗中傷が社会問題化

ーー木村さんが亡くなってネットの誹謗中傷が社会問題化しています

現在進行形のテレビ出演者が、ネットのバッシングを一因として亡くなられた。日本の芸能界でも類を見ない出来事です。

木村さんにお会いしたことはなくともショックです。殺害予告や誹謗中傷を何度も受け続けて、なんとか自分の中で整理できた僕の体験をお伝えしたかったです。

ーーフジテレビは番組の打ち切りを発表しました。局の責任をどう考えますか

私がテレビ出演した機会には必ず台本がありました。テレビには進行が必要で、テラスハウスも「リアリティー番組」と言いつつ、「演出」されているのだろうという認識を持っていました。

映画で役者が何を演じようが、批判は「演じた役」に向けられます。リアリティー番組では、出演者の振る舞いへの評価・批判が、現実の出演者個人への評価・批判につながってしまう危険性があります。

すでに削除されたようですが、木村さんにクローズアップした本編の解説動画が配信されました。「花が鼻につく」というタイトルです。

直接的な加害者は侮辱行為をした多数の人ですが、フジテレビとしてはリアリティ番組の危険性について検証をし、今後の番組制作のガイドラインを作る必要があると思います。

●絶望の淵で「アルコール依存」「自死寸前」だった

ーー今でもご自身への誹謗中傷はありますか

「太りすぎている」「無能」などの悪口などをSNSに書かれています。僕は侮辱され続けて、感覚が麻痺していますが、弁護士を辞めて20年後に書き込みを見たら傷つくと思うんです。

ーー唐澤弁護士が「テラスハウスの22歳の出演者」だったなら、木村さんが受けたのと同じ誹謗中傷を乗り越えられたでしょうか

うーん。悩むでしょうね。僕はネットで見ず知らずの人から「消えろ」「早く死ね」「バカ」「(自殺するまで)追い込むぞ」など言われ続けました。究極の存在否定の言葉を見続けていると、自分に存在価値がないと思うようになります。

あの時期は、精神的な落ち込みから3年以上も不眠症に悩まされて、酒に溺れました。シラフではいろいろと考えてしまって、飲まないと眠れないからです。

普段はビール1本で顔が赤くなる弱さなのに、焼酎水割りを何杯も毎日飲んでいた。今となってはアルコール依存だと思います。

誹謗中傷に絶望して、死に支配される寸前だったこともあります。でも、僕が10代後半のときに、弟がリンチを受けたことを悲観して自殺しました。弁護士を志す理由になった根本的な出来事です。

弟のことがあって、僕は理不尽と立ち向かう必要があるからと強く生きていけたんです。そういう特殊な経験でもなければ、もし木村さんと同じ目に遭っていたら死を選んでしまっていたかもしれません。

同じ誹謗中傷の被害者として、木村花さんの死はショックだった

●「マトリックスの世界」に生きる誹謗中傷者は天国に行けない

ーーネットで誹謗中傷する人たちはどんな人たちなのでしょうか

僕の加害者に直接会ってみると、友達も少なく、自己肯定感の低い人ばかりでした。医師家系に生まれて医学部を2浪した青年は「唐澤殺す」と書くとネットが盛り上がって、鬱屈した気持ちを忘れることができたと話していました。

そこには罪悪感もありません。他人に対する誹謗中傷行為へのネット上の反応によって自己肯定し、感情を高ぶらせ、生を確認するために、僕や木村さんのような人を「消費する」わけです。

絵に描いたようなわかりやすい悪人ではなく、被害者である僕が憎悪を向ける対象ではありませんでした。

スマホで何も考えずに発信することって、心地よいんです。映画「マトリックス」ではプラグに繋がれた人々が電気信号で夢を見せられていました。誹謗中傷する人も脳がスマホを通じてネットに接続され、電気信号が脳とネットの間で往復する快感に麻痺しているんです。

プラグが繋がれたまま生きている亡霊になってしまって果たして幸せなのでしょうか。そんな世界で生きていてはいけません。僕や木村さんを叩いても、人生の目的は何一つ達成できません。徳を積むわけでもなく、天国にも行けません。

●被害者負担のない制度を提言

ーー悪意もなく誹謗中傷する加害者もいるんですね

加害者だけではありません。誹謗中傷に悩んだ僕の相談に、ほとんどの人が「そんなこと気にするなよ」と答えました。ネット上の暴力への軽視は今も昔も変わりません。拳で殴られた人に、いじめられた人に「気にするなよ」と言えますか? 言えませんよね。

問題解決に向けて、法律を変える必要があります。それとともに、ネットの誹謗中傷の問題を簡単・低額で相談できる第三者機関を設置するべきです。

木村さんに誹謗中傷した人の侮辱行為は、1日以上30日未満の拘留または1万円未満の科料を科されるのみです。しかも、ほとんどは不起訴になるでしょう。

●誹謗中傷の罪は傷害罪と同じだ

ーー法改正を含め、誹謗中傷をなくしていくため、何を変えていく必要があるのでしょうか

ネット上の名誉毀損行為、執拗な侮辱行為について、傷害罪と同程度の罰則にすることを提案します。15年以下の懲役または50万円以下の罰金にするのです。

人の生理的な機能に傷害を負わせたら傷害罪にあたります。被害者は精神的に大変な負担をかかえて、自殺することもあります。

ーー匿名の誹謗中傷を解決するための発信者情報開示についてはどうお考えですか

現状、匿名の投稿者の特定には時間もお金もかかります。被害者は裁判所で手続きをする必要があって、半年〜1年の時間と弁護士費用などのお金のかかることが被害者のためになるか。ならないでしょう。

そこで、被害者の相談を受け付けて、判断を行う第三者機関の設置を提案します。発信者情報開示の申立てを受け付け、裁判所に頼らず、権利侵害について判断します。第三者機関の判断で侵害が認められたら、プロバイダは基本的に速やかに発信者情報を開示します。

すべての権利侵害情報について、第三者機関の利用はされるべきではなく、公務員に関する情報、犯罪情報、企業における労働環境などの情報は、従来通り、裁判所で慎重に判断されていく必要があると思います。

開示にかかわるプロバイダ責任制限法の見直しについて、総務省が検討を始めました。しかし、開示される発信者情報(氏名と住所)に電話番号を加えるだけの総務省令の改正で済ませようとしているのではないかと見ています。

開示手続きが迅速にならなければ問題解決になりません。早い段階で発信者を特定して、被害拡大を抑えることを目標とすべきです。これらの提言は「Change.org」で公表しています。

制度改革への提言

●ネットを正しい本音の言える場所に

ーー木村さんの一件で、著名人が法的措置の意思を発信し始めました。「芸能人へのネット中傷は当たり前」という考えも変わりつつあります

週刊誌は、「芸能人は死ね」「この女優の顔は醜悪で見るに堪えない」なんて書かないじゃないですか。ところが、SNSでの発言では、このような発言は多くみられます。今は、ひとりひとりが表現者の時代。リテラシーが必要になります。これは教育の問題になってきますね。

話は変わるようですが、高校を中退したころも、宮川賢や大沢悠里、荒川強啓の「デイ・キャッチ!」などラジオをよく聴いていました。最近聴くのは講談師神田伯山さんの「問わず語り」です。

伯山さんは番組冒頭で毎度、このように挨拶します。「子どものころ、私にとってラジオは大人の本音が聞ける場所でした。今ならネットで本音はあふれていますが、人に届く本音、言葉を選んだ本音を聞けるのは、私にとってラジオだったと記憶しています」

そんな本音を言える場所に、ネットも変わればいいと思います。

【取材協力弁護士】
唐澤 貴洋(からさわ・たかひろ)弁護士
一般民事及び商事事件、刑事事件、入管事件、インターネットに関する法律問題を主に取り扱う。監訳を務めたネット上のヘイトクライム解説書「サイバーハラスメント」(明石書店)が6月15日に発売される。
事務所名:法律事務所Steadiness
事務所URL:https://steadiness-law.jp/