日本郵便の契約社員らが、同じ仕事をしているのに正社員と待遇格差があるのは労働契約法20条(不合理な労働条件の禁止)に違反しているとして、「同一労働・同一賃金」と損害賠償などを求めた3件(佐賀、東京、大阪)の事件について、最高裁判所(第一小法廷 山口厚裁判長)は9月10日、大阪と東京の事件の弁論をおこなった。佐賀事件の弁論は24日に開かれる。

10日、弁論を終えた東京・大阪事件の原告、代理人の弁護士が会見した。大阪の原告は「戦いは6年たちました。コロナ禍であるからこそ、非正規に光をあてる判決をお願いしたいと思います」と訴えかけた。

なお、東京事件の原告は非正規社員3人。大阪事件の原告は非正規社員8人(うち、1人がすでに退職)。

●高裁判決

東京事件の弁護団の棗一郎弁護士らが、最高裁の判決の行方を検討した。まず、これまでの高裁判決を振り返る。

契約社員らは、休暇や手当における正社員との格差は、労契法20条に違反するとして、東京、大阪、佐賀の各地裁で裁判を起こし、それぞれ東京、大阪、福岡の高裁で2018年〜2019年に二審判決が出ている。

地裁、高裁で争われてきた手当・休暇の各項目について、最高裁で弁論のおこなわれた東京と大阪の高裁判決をみていく。

(1)「住居手当」 正規非正規の格差が「不合理である」と判断が下され、東京高裁、大阪高裁ともに10割の支給が認められた(新一般職という限定正社員との比較)。

(2)「年末年始勤務手当」 ・東京高裁(格差は不合理。10割支給が認められた) ・大阪高裁(雇用5年超の契約社員に10割支給を認めた) 

(3)「扶養手当」 ・東京高裁(請求せず) ・大阪高裁(認めず。不合理ではないとした)

(4)「夏期冬期休暇」 ・東京高裁(不合理を認める。ただし、損害なしとして賠償は認められていない) ・大阪高裁(雇用5年超にのみ損害賠償認める)

(5)「有給の病気休暇」(正社員には90日の有給病気休暇が与えらえれている。有期社員には無給の10日の休暇しかない) ・東京高裁(不合理と認めた。しかし、実際に休んで損害がある人にのみ認める) ・大阪高裁(雇用5年超にのみ賠償を認める)

そのほか、「早出勤務等手当」、「祝日給」、「夜間特別勤務手当」、「夏期年末手当(賞与)」、「外務業務手当」、「郵便外務業務精通手当」は、すべて認められなかった(祝日給のごく一部は認められた)。

●上告審の争点

以上の11項目のうち、最高裁が上告を受理し、格差が不合理であるかを判断するのは、4つの手当と2つの休暇の計6項目。棗弁護士は判決の見通しについて以下のように説明した。

最高裁が会社側の上告を受理しなかった「住居手当(対新一般職との比較)」は「格差は不合理だと確定している」(棗弁護士)。また、「扶養手当」については、労働側の上告を受理しており、おなじく「不合理」と判断される見込みだという。

判断がつかないのは、労働側の上告が不受理とされ、または会社側の上告が受理された「年末年始勤務手当」、「夏期冬期休暇」、「有給の病気休暇」、「祝日給 年始割増」だ。

●5年ルール

注目されるのは、大阪高裁が判断基準として示した「通算5年基準論」が、最高裁でも採用されるかどうかだ。

大阪事件の弁護団の西川大史弁護士は「大阪高裁では、会社すらおそらく予想していなかった通算5年基準論を持ち出した。雇用が通算5年を超えていない非正規労働者には手当を支給しなくても構わないもの」と話す。

このルールは、雇用が通算5年を超えると、無期転換ができると定めた労契法18条にもとづくものとされる。

「仮に(5年基準論が)通ってしまうと大変なことになります。5年を超えれば無期転換できる(18条)。5年を超えないと正社員と同等の手当がもらえない(20条)。となれば、5年に満たない非正規労働者は全く救済されません」(西川弁護士)

たとえば、有期労働者が5年近く働くと、企業から契約を打ち切られる事態になることが懸念されるわけだ。

また、有期労働者のなかには、5年も働き続けない者がいる。「そういう雇用のかたを全く救済しないというのは、さすがに最高裁の裁判官の良心が許さないだろうと信じたい」

ただし、夏期冬期休暇については、格差の不合理が認められるのではないかとも話す。西川弁護士は、9月15日に最高裁で弁論がある大阪医科薬科大事件の代理人も務めている。 「医科薬科事件の大阪高裁判決は、5年未満の労働者の夏期休暇を認めなかったことを違法とし、損害賠償を認め、確定しています」

●原告「コロナになっても有給の病気休暇がない」

東京事件の原告(49)は、コロナ禍で、正規社員との格差をいやが応にも意識させられたと話す。

「コロナに感染したら、正社員には病気有給休暇が与えられるが、非正規の私たちには有給の病気休暇はありません。無給で休むか、年休で消化し休むしかない。それでも、最低で2週間会社に行けないとなると、生活は苦しくなる。最高裁には、今の時代を見据えて判断してほしい。家族を守るのは正規も非正規も関係ないんです」

大阪事件の原告(48)は「20条裁判で、ボーナスを取れていないのが悔しい。もともと、ボーナスに差があってもまあ、当たり前なのかなと思っていたが、同じ仕事していれば同じ給料をもらうのが当たり前と学ばされた」と話した。

東京、大阪事件の最高裁判決は10月15日に同時におこなわれる。

日本郵便の社員の数(2020年3月31日時点)は、正社員19万3257人、非正規社員18万4290人(非正規率48.8%)。

「無期転換した社員をのぞき、判決は非正規社員すべてに影響する」(棗弁護士)

棗弁護士によれば、9月10日の弁論で、日本郵便側は、格差は、日本型の長期雇用システムを前提として、各種の手当や休暇は、優秀な正規社員を集め、定年まで働いてもらうためのインセンティブであり、格差は合法との主張をしたという。

「旧来型の日本型長期雇用システムを維持して守るのか。それとも、非正規のかたを長期的戦力として使うのか。格差があってよいのか。持続可能な経済社会が望めるのかと問いかける裁判です」