近年、高齢ドライバーによる悲惨な交通事故が社会問題となっています。もし、自分の家族が事故を起こしてしまったら——。家族に高齢ドライバーがいる人は、そんな想像を一度はしたことがあるのではないでしょうか。

弁護士ドットコムにも、70歳の義父がいる女性が「免許センターでは運転できると判断されましたが…」と相談を寄せています。

義父はせき髄を損傷し、歩くことができなくなりました。リハビリの結果、自分で車椅子を利用して生活しています。

運転免許センターでは、両足が不自由な人向けの「手動運転補助装置」なしで「足で運転出来る」と判断されたものの、実際に運転する様子を見た家族は「首が回らず左右確認が不十分で危ない」と感じています。

女性は、義父が車で他人を巻きこむ事故を起こした場合、家族にも損害賠償請求をされるのか、気がかりでいるようです。果たして、事故を起こした加害者家族の責任はどうなるのでしょうか。泉田健司弁護士に聞いた。

●賠償義務は運転者と車両の所有者だけ

——事故を起こした家族が賠償金を支払いきれない場合、家族が支払う必要があるのでしょうか

「そんな状態だと知っていたのに運転させていたの?」と思わざるを得ないケースがありますよね。ただ、道義的な非難に値しても、法的に賠償しなければならないというのは次元が異なります。私は、弁護士なので、後者を語りましょう。

法的には、人身事故の賠償義務は、原則として、運転者と車両の所有者だけに科せられます。例外的に、高齢者が認知症やその他の精神疾患のために判断能力が失われているという場合(責任無能力、民法713条)には、家族に賠償が命じられる可能性があります(監督者責任、民法714条)。

今回のケースは、身体障害がありますが判断能力には問題はないと思いますので、家族が法的責任を問われることは考えにくいでしょう。

●免許交付は「事故を起こさないというお墨付きではない」

——原則として、家族に賠償責任は発生しないということですね。ただ、車椅子を利用して生活している高齢者の運転には不安も募ります。家族としては、どうすればいいのでしょうか

今回の相談者は、義父に免許が交付されたといっても首が回らず危険なので不安だと感じていらっしゃいますね。

免許は比較的ゆるやかに交付されますので、私も何度か心配になるようなケースを見聞きしたことがあります。免許の交付は、事故を起こさないというお墨付きではないことに留意すべきです。

誤解を恐れずにはっきり申し上げると、賠償云々は任意保険に加入していればいいのです。問題なのは、命が奪われたり、後遺障害を負わせるといった取り返しのつかない事態が生じるということです。

だから、ご家族としても、できるだけ運転を回避させたり、ご家族が同乗しているときのみ運転をさせたり、安全性能に優れた車両に乗るようにさせたりといった対策を講じる必要があるのではないでしょうか。本当に危ないと感じられるならば、免許の返納も考えてください。

また、交通安全に対する意識を高めるのも有効です。もし、お時間があれば、「交通事故 被害者 手記」で検索してみてください。各地の警察署が交通事故被害者遺族の手記を掲載しています。心動かされる手記ばかりで、私もときどき拝見しています。

【取材協力弁護士】
泉田 健司(いずた・けんじ)弁護士
大阪弁護士会所属。大阪府堺市で事務所を構える。交通事故、離婚、相続等を中心に地域一番の正統派事務所を目指す。
事務所名:泉田法律事務所
事務所URL:http://izuta-law.com/