十分な生活費を渡してくれない夫に「家事労働代」を請求したいーー。弁護士ドットコムに、1歳と5歳の子どもがいる専業主婦の女性が相談を寄せました。

相談者によると、夫から渡される生活費は月10万円。そのお金で、「保育料・お稽古ごと代・保険料・携帯代・食費・医療費・日用品費・交際費・衣料品費・交通費その他もろもろ」をまかなっているそうです。夫は自身の収入を明かさず、夫自身が支払っているのは家賃と光熱費のみとのことです。

相談者が家計を切り詰めて前の月に足りなかった分を請求したところ、手渡されたのはわずかな額でした。加えて、10万円でやりくりできないことを散々責められたといいます。結婚当初は月3万円でやりくりさせられ、足りない分は独身時代の貯金を切り崩したそうです。

相談者は「十分な生活費を渡してくれない夫に対して、せめて掃除や育児の時間をお金に換算した『家事労働代』を請求したい」と考えています。4人家族で10万円という生活費が妥当かどうかは、議論もありそうです。もしかしたら相談者にとっての不満とは、金額だけでなく、日頃の夫婦関係そのものにも原因があるのかもしれません。

相談者が欲しいという家事労働代を請求することはできるのでしょうか。原口未緒弁護士の解説をお届けします。

●「家事労働代」は請求できないけれど…

ーー相談者は「家事労働代」を夫に請求することはできるのでしょうか。

残念ながら、現在の法律上、夫婦間において「家事労働代」を請求することができる権利や根拠はありません。

ただ、生活費の増額のために交渉することはできるでしょう。

夫婦が生活を続けるために必要な費用、要するに生活費のことを「婚姻費用」といいます。婚姻費用の金額については、夫婦双方の収入額から算定している表があり、実務でもこれを用いることが多いです。(「養育費・婚姻費用算定表」(令和元年版)https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html)

算定表によると、サラリーマンの夫の年収が500万円、妻は0円、14歳以下の子供が2人いる場合には、婚姻費用額が12〜14万円となります。年収400万円であれば、8〜10万円となります。家庭裁判所においては、この算定表をもとに婚姻費用額を定められることが多いようです。

この表をもとに、夫に対して交渉してみてはどうでしょうか。逆をいえば、夫に、表に書かれた以上の金額を、法的な措置に基づいて払わせることは難しいでしょう。

なお、夫が婚姻費用を支払わない場合には、家庭裁判所に婚姻費用分担調停を申し立てることができます。夫の収入がいくらか分からない場合は、妻という立場で勤務先に照会することができますし、婚姻費用分担調停を申し立てて、夫に収入の資料を提出させたり、裁判所から勤務先に対して調査をおこなうこともできます。

 ●離婚を検討している場合は?

ーー相談者は夫との離婚も視野に入れているそうです。夫が十分な生活費を渡してくれないということは、離婚理由になるのでしょうか。

生活費が算定表で定められた金額に満たず、「十分な生活費を渡してくれない」という理由だけでは、残念ながら、離婚の理由として認めてもらうことは難しいでしょう。

本気で離婚を考えるならば、まずは夫と別居する必要があります。家庭裁判所では、離婚を認める上での主な理由として、別居の事実と期間を重視しているからです。

もちろん、夫が離婚に応じてくれるのであれば、家庭裁判所で離婚調停や訴訟をする必要はありません。そこで、まずは、相談者が夫に対して「十分な生活費を支払ってくれないことについて離婚を考えるほどに不満に思っている」としっかり伝え、理解してもらうことが先だと思います。

それでもまだ夫が生活費を渡してくれなかったり、収入を明らかにしてくれなかったりする場合は、そのときになって初めて仕事を探したり、家を出たりすることを実際に考えてみてはいかがでしょうか。

夫も離婚などしたくないでしょう。十分な生活費を渡してくれないことが、離婚まで考えるほど夫婦にとって重要な問題であることを、相談者がきちんと伝えられれば、夫婦の溝も埋められるのでは、と思いますよ。

【取材協力弁護士】
原口 未緒(はらぐち・みお)弁護士
東京弁護士会所属。心理カウンセリング・アカシックリーディングも併用しながら、こじらせない円満離婚の実現を目指します。著書『こじらせない離婚―「この結婚もうムリと思ったら読む本」(ダイヤモンド社)
事務所名:弁護士法人 未緒法律事務所
事務所URL:http://mio-law.com