政府は、新型コロナウイルス対策の強化案として、感染者が入院を拒否すると刑事罰を科すことができることなどを盛り込んだ感染症法の改正を検討している。

報道によれば、入院拒否に100万円以下の罰金を科すことや、保健所による行動歴などの聞き取り調査を拒んだ場合の刑事罰を設けるなどの方針が、1月8日の政府・与野党連絡協議会で示されたという。

また、軽症者などの宿泊・自宅療養の義務化や療養中の抜け出し行為に関する罰則新設も検討しているという。軽症者や無症状患者が療養先からの抜け出すケースが後を絶たないことも背景にありそうだ。

現行の感染症法は、コロナまん延防止のために感染者を強制的に入院させることができるものの、入院拒否や療養中の抜け出し行為に関する罰則規定がない。

法改正で罰則を設けることで、感染者の不用意な外出を防ぎ、コロナ対策の実効性を高めるつもりのようだ。罰則の新設は、全国知事会も1月9日にまとめた国への緊急提言で要望している。

入院や聞き取り調査を罰則を設けて強制することは、個人の自由やプライバシーを制限するものだが、法改正して問題ないだろうか。神尾尊礼弁護士に聞いた。

●必要な対策だが、「居住移転の自由」「プライバシー権」は制約を受ける

——まだ決定されたものではありませんが、国民の受け止め方は様々です。神尾弁護士はどのように考えていますか。

様々な意見があるところでしょうが、私自身は必要な対策だろうと考えます。

まず、現行法の枠組みをおさらいします。

(1)入院に関しては、現行の感染症法(及び政令)で、入院するよう勧告し、従わなければ入院させることができるとされていますが、入院しない場合の罰則はありません(感染症法7条、19条、20条)。

なお、海外からの入国者に対しては検疫法がありますが、待機要請拒否に対しては同様に罰則がありません。

(2)積極的疫学調査とは、感染状況や病気の特徴などを調査するもので、現在行われているものは渡航歴や行動歴などをもとに感染経路などを調べようとするものです。これは、感染症法に基づく調査と整理されると思われます(感染症法7条、15条)。

調査に応じない場合の罰則はありません。

——政府などが検討中の方針は、これら枠組みをどのように変えようとしているのでしょうか。

現在検討されている内容は、(1)入院拒否への刑事罰、(2)積極的疫学調査拒否への刑事罰、(3)その他療養等に関する実効性確保や仕組み作りなどのようです。

そこで(1)と(2)を中心に、どのような権利が侵害されそうなのかを簡単にご説明します。

(1)入院は、一時的にではあれ、自分の住居に住めなくなり、病院にいなければならなくなります。入院拒否に罰則を設けることは、主に居住移転の自由を制限することになります。

(2)積極的疫学調査は、行動歴などは本来隠したい情報ですから、主にプライバシー権を制限することになります。

●「目的を達成する上で手段が必要最小限なものか否か」

——プライバシー権など私権を制限することに、反発の声もあるようです。

こうした権利を制限することが正当化されるかは様々な見方があります。

この問題を考えるにあたっては、制限を加える目的が必要不可欠なものなのか、目的を達成する上で手段が必要最小限なものなのかの両面からみていくのがわかりやすいかと思います。

もちろん、どの程度の目的や手段であれば正当化されるかといったレベル間の議論もありますが、ここでは刑罰も視野に入っていますので、厳しいレベルでの議論を前提にします。

——まず、制限を加える目的についてですが、必要不可欠なものといえるのでしょうか。

私の医学的知見が不十分なので専門家の方々の意見も聞きたいところではありますが、まず、すでに感染してしまっている方からの感染をどう防止するかは、医学的判断を最優先にすべきではないかと考えます。

そうだとすれば、診断した医師が入院の要否を決め、入院が必要と判断されれば、強制的に入院させる仕組みがあってしかるべきではないかと考えます。

疫学調査については、少しでも早く感染経路を特定し、感染防止対策を練る上では、調査への漏れのない回答が必要だろうと思います。欠けたり、虚偽があったりすると、感染防止対策が明後日の方向に行きかねません。そうだとすれば、強制的に調査に協力させ、かつ真実を述べさせる必要があろうかと思います。

このように、(1)入院拒否についてはその人からの感染防止、(2)疫学調査拒否については感染経路の把握及び感染防止対策の策定が目的であれば、必要不可欠なものだろうと考えます。

新型コロナウイルスはいまだ病気の全体像もわかっていないところではありますが、感染力が相当強いこと、感染力が強いことで医療資源を圧迫していること、致死率も相応にあることなどから、感染防止や防止対策策定は急務といっていいでしょう。

他者の生命も守るという観点からは、移転の自由やプライバシー権が一定の制限を受けるのは致し方ないと考えます。そこで、手段が最小限のものであれば、このような目的での制限は許されると思われます。

●刑事罰を導入するとしても「メリハリのある施策が必要」

——さらなる感染者の増加も懸念される状況ですので、制限を加える目的の必要性は比較的認められやすそうです。

問題は、ペナルティを科す(課す)ことが必要最小限なのかどうかです。

ペナルティを科す(課す)ことで、萎縮してしまい、かえって病状を申告しなくなるのではないか、入院中の生活費などをどうするか、などの問題が生じます。また、そもそも入院したくても入院できない場合もあるとの指摘もあります。

結局のところ、前者については「安心して療養できる環境を作る」、後者については「入院や療養できる施設を確保する」ことに尽きるのではないかと思います。

こうした状況が整っていない段階で罰則だけできるのは、あまりにも国民の生活を制限しすぎるきらいがあります。

さらに、刑事罰というのはいわゆる前科にもなり、やたらに使うのは強すぎるといえます。交通事故などでは、行政罰を使い、一定の類型では非犯罪化することで均衡を保っています。

——広く一律に刑事罰を科すとしたら、必要最小限な手段といえるのか疑わしいということですね。

そこで、たとえば、次のようなメリハリのある施策が必要と考えます。

(1)入院していてかつ医師から外出禁止が出ているにも関わらず抜け出したような、積極的に蔓延させたと評価できる場合に限定して刑事罰を科す
(2)入院施設などを一定以上確保することを先行させ、施設が充実してから入院拒否の罰則を導入する
(3)疫学調査は、例えば重症化リスクの高い集団との接触の有無などに絞って罰則を導入する(今年に入って国立感染症研究所が改定した実施要項なども参考になります)
(4)事項によっては、法的権限を明確にすることを目的とし、罰則までは設けない

どのようなペナルティを設けるのか、設けるとしてどのような内容にするのかについては、目的を達成する上で必要最小限な手段なのかどうかという観点で、引き続き十分な検討を要する点だろうと思います。

【取材協力弁護士】
神尾 尊礼(かみお・たかひろ)弁護士
東京大学法学部・法科大学院卒。2007年弁護士登録。埼玉弁護士会。刑事事件から家事事件、一般民事事件や企業法務まで幅広く担当し、「何かあったら何でもとりあえず相談できる」弁護士を目指している。
事務所名:弁護士法人ルミナス法律事務所
事務所URL:https://www.sainomachi-lo.com