大麻の使用を禁止する「使用罪」創設など、取締りの強化について議論する厚生労働省の有識者会議が1月から始まった。唐突に始まったともいえる議論に、医師や法律家などからは、戸惑いや疑問視する声が上がっている。

なぜ議論が始まり、専門家たちから批判の声があがっているのか。論点を整理していきたい。(編集部・吉田緑)

●「刑罰を科すほどなのか」医師や法律家からも疑問

大麻取締法は1948年に制定された法律だ。これまで、大麻取締法には「使用罪」はなく、使用自体を禁止する規定はなかった(注)。なぜ突如として、大麻の「使用罪」創設をめぐる議論が始まったのだろうか。

初回の有職者会議「大麻等の薬物対策のあり方検討会」は1月20日に開催された。担当するのは、厚労省の医薬・生活衛生局 監視指導・麻薬対策課だ。

議論が始まった背景には、医薬品としての使用や治験などを可能にする一方で、不適切な使用を取り締まることがあるとみられる。WHO(世界保健機構)は、医療や研究目的の大麻について、国際条約で定められている「最も危険な薬物分類」から削除するよう勧告していた。国連麻薬委員会が2020年12月、この勧告を承認したことも大きいだろう。

ほかにも、大麻取締法違反で検挙される若者の増加が問題視されたこともあるようだ。初回の検討会の資料には、大麻事犯における「30歳未満」の検挙人員が6年連続で増加したことを示すグラフがみられる(2014年:745人、2019年:2622人)。

「第1回大麻等の薬物対策のあり方検討会」で示された資料

●亀石倫子弁護士「厳罰化は誰も幸せにしない」

ではなぜ、医師や弁護士の間から「使用罪」創設への反論が聞かれるのか。専門家たちに話を聞いていくと、その根拠は主に、大麻の有効性と厳罰化によるデメリットにある。

正高佑志医師は、現行法において、医療目的であっても大麻の使用が禁止されていることに異議を唱え続けてきた。

正高佑志医師

法の制定後、科学の発展により、大麻はてんかん、うつ病やPTSD等のこころの病気、認知症、糖尿病など、多くの症状に使用できることなどが明らかになってきたとされる。日本から治療を受けるため、医療大麻が合法化されている国に渡る人もいるという。

亀石倫子弁護士は、使用罪の創設に「厳罰化は誰も幸せにしない」と反対の立場を示し、電子署名サイトChange.orgで署名活動をおこなっている。

亀石倫子弁護士

この中で亀石弁護士は「薬物使用者に『犯罪者』のレッテルを貼って社会から排除しても、薬物問題をなくすことはできません」としている。

現在、9234人の署名が集まっている(2021年2月5日10:00時点)。

●作家・長吉秀夫さん「バッシングや実名報道は疑問」

舞台制作者・作家の長吉秀夫さんも疑問を抱く1人だ。北米やアジアで大麻文化をみてきたことがきっかけとなり、日本での大麻規制のあり方に疑問を抱くようになった。

長吉さんは使用罪の創設について「逮捕によって、人生が破壊されている人たちがいる。逮捕しないなどの運用が必要ではないか」と反対の立場を示す。

舞台製作者・作家の長吉秀夫さん

長吉さんは昨年末、電子書籍『なぜ、大麻で逮捕するのですか?〜大麻取締法の非犯罪化を考える〜』を2020年12月30日に自費出版した。正高医師や亀石弁護士などのインタビューも収録されている。

筆をとるきっかけとなったのは、俳優の伊勢谷友介さんが大麻を所持したとして、2020年9月に逮捕されたことだ。伊勢谷さんは同じ年の12月、大麻取締法違反(所持)で有罪判決(懲役1年・執行猶予3年)が言い渡されている。

伊勢谷さんが逮捕されると、報道は過熱。ネット上でもバッシングが巻き起こった。

「僕は伊勢谷さんと面識があるわけではありません。ただ、役者としての力量や、これまで彼がしてきた社会貢献活動などは知っていました。大麻を所持して、これほどまでに罰せられるものなのかと疑問を抱いたんです」

芸能人だけではない。一般人であっても、実名報道されることもあり、社会生活を送る上で大きな影響があると長吉さんは指摘する。

「報道のあり方やバッシングに憤りを感じています。逮捕されて実名報道された人たちの中には、不起訴処分になり、釈放された人もいます。でも、不起訴や無罪になってもフォローされることはないんですよね。一度実名報道されれば、ネット上で名前は広まり、日常が破壊されることになってしまいます」

高樹沙耶さん

電子書籍では、2016年に大麻取締法違反(所持)の疑いで逮捕された女優の高樹沙耶さんや麻薬特例法違反(あおり、そそのかし)の疑いで逮捕された人たちのインタビュー記事なども盛り込んだ。

●「使用罪」創設の議論「今までの空白を清算する時期」

亀石弁護士や長吉さんが批判するのは、使用罪が創設されれば、違反した場合に刑罰が科されることになるからだ。刑罰が人から奪うものは大きい。仕事や家族を失ったり、報道によってバッシングされ、信用や居場所などをなくしたりするおそれもある。

このような「制裁」は使用した人だけではなく、その家族などにも及ぶ。たとえ罰金刑だったとしても、刑罰である以上は「前科者」「犯罪者」のスティグマが付されることになる。世間からは、そもそも逮捕されただけでも「悪」とみられてしまう。

ただ、長吉さんは議論が始まったことについては、次のように前向きな見解も示す。

「これまで大麻取締法のあり方については、まったく議論されてきませんでした。そう考えると、これまでほったらかしにされていた問題に向き合うという政府の姿勢は評価できると思います。これを機に、官民で勉強や研究を継続してほしいと願っています。今までの空白を清算する時期なのではないでしょうか」(長吉さん)

諸外国では、大麻に限らず、自己使用目的での少量の薬物使用や所持は非犯罪化(法律で規制はするが、刑罰の対象としないこと)する動きがみられる。大麻の「使用罪」創設の検討をおこなっている日本は、諸外国からはどうみられるのだろうか。

検討会では、今夏までに報告書をまとめる方針だという。慎重な議論が望まれる。

【長吉秀夫さんプロフィール】
舞台制作者、作家。1961年、東京都生まれ。明治大学卒業。精神世界や民族文化、ストリート・カルチャーなどを中心に執筆。著書に『大麻入門』(幻冬舎新書)『大麻 禁じられた歴史と医療への未来』(コスミック・知恵の実文庫)など。 2020年より、実験的にZINE「TAIMA」も始めている( https://taima.theshop.jp/)。電子書籍『なぜ、大麻で逮捕するのですか?〜大麻取締法の非犯罪化を考える〜』はAmazonで販売されている。

(注)理由は諸説あるが、「大麻取締法と最近の事例について」(安田尚之(厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課)「大学と学生」(64)2009年)では「現段階では、能動吸引と受動吸引を区別することができないことによるもの」とされている。