刑事弁護人として知られる亀石倫子弁護士は、いくつもの困難な裁判を手がけ、勝利してきた。

客にダンスをさせたとして、クラブが風営法違反に問われた事件では、最高裁で2016年、無罪を勝ち取った。

警察による令状なしのGPS捜査が違法だと訴えた裁判では、弁護団で主任弁護人をつとめ、2017年に最高裁で違法判決を勝ちとった。

そして、医師免許なく客にタトゥーを入れたとして彫り師の男性が医師法違反の罪に問われた裁判でも、控訴審で逆転し、最高裁で昨年9月、無罪判決を確定させた。

しかし、こうした華々しい活躍の影で、刑事弁護人の仕事には、ある種の難しさがともなう。「なぜ逮捕されるようなことをした人の弁護をするのか」「刑を軽くしようとしている」と言われ、世間からなかなか理解されない。

それでもなお、亀石弁護士が刑事弁護にこだわるのはなぜか。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●なぜ「大麻厳罰化」に反対するのか

亀石弁護士にインタビューをしたのは、大麻使用の罰則化を検討するため、厚労省が有識者会議を開くというニュースが報じられた直後だった。現行の大麻取締法では、大麻の栽培や所持について罰則はあるが、使用は対象となっていない。

亀石弁護士は、かねてより「日本の大麻規制は不合理だ」との立場をとる。この流れをどうみているのだろうか。

「使用罪を創設することは、時代の潮流に逆行していると思います。世界では、薬物のハーム・リダクション(被害の低減)といって、刑罰を与えるよりも、その人自身の健康に与える害や第三者に与える悪い影響をいかに最小限にしていくか、という取り組みが注目を集めています。

薬物対策は、大麻を含めた薬物犯罪の非犯罪化に変化しています。そういう中で、国内で使用罪を創設して、取締りを強化するという流れには、疑問がわきます」

大麻といえば、昨年9月、俳優の伊勢谷友介さんが所持罪で逮捕される事件があった。警視庁東京湾岸署から保釈された伊勢谷さんが、黒いスーツ姿で頭を深々と下げ、謝罪した姿が強く印象に残っている。

「人でも殺したのか、というくらいのイメージですよね。大麻を使ったことについて、警察や厚労省によるイメージの植え付けも、あまりにも世界のスタンダードとかけ離れています。

それに対して、メディアも無批判で、右から左に流しています。視聴率が稼げるからですよね。でも、世間に『重大犯罪』という印象を与えて、才能のある人を社会から放逐することは、私たちの社会にとって有益なことは何一つないと思っています。

今回、使用罪を創設しようという流れは、それをさらに助長するものです。むしろ、自分の健康や生命を守るために必要としている人たちが(医療目的で)使えるように法律を改正すべきです」

報道からわずか5日後、亀石弁護士は厳罰化に反対するネットの署名を募りはじめていた。物怖じすることなく、思い立ったらすぐに行動に移す。亀石弁護士の姿勢が垣間見えた。

●タトゥー摘発の流れにあらがう

これまで、亀石弁護士は何度も大きな権力に対峙してきた。

たとえば、弁護団の中心的役割を担ったタトゥー裁判。発端は、彫り師であるTAIKI(タイキ)さんが2015年9月、医師法違反の疑いで、大阪府警に家宅捜索されたと相談してきたことだった。

当時、大阪府警は医師法違反の疑いで、タトゥースタジオの経営者や、彫り師たちを次々と逮捕・勾留していた。彫り師たちは、数十万円の罰金を払うことで、やっと釈放されるというような状況だった。

しかし、TAIKIさんはこの流れにあらがった。

「TAIKIさんは、『略式命令を受けて罰金を払えば、一応は終わりになるけれど、彫り師は違法な仕事だということになってしまうんじゃないか』と危惧されていました。その通りですと答えたら、『それじゃあ困る』と。

でも、そういうふうに冷静に判断できたのは、TAIKIさんが勾留されなかったからなんです。大阪ではたくさんの彫り師が摘発されましたが、見せしめ的に逮捕されて、20日間も勾留されたうえ、略式命令を出された人も少なくありませんでした。

20日間も身体拘束されると、心が完全に折られてしまって、ここから出られるのであれば罰金を払ってもかまわない、というふうに考えても仕方ありません。

TAIKIさんは、そういう人たちがいることを横目で見ながら、『今声を上げないと大変なことになるんじゃないか』という危機感を抱いていました」

危機感を持っていたのは、亀石弁護士も同じだった。頭によぎったのは、「アートメイク」と呼ばれる美容の施術行為のことだ。

●アートメイクと同じことが起きるという危機感

アートメイクは、電動式器具の針を使って眉やアイラインなどに、まるでメイクをしているかのように、墨などの色素を入れる行為である。洗顔しても汗をかいても落ちることがないため、人気の美容方法だった。

一方で、施術者が未熟だと、施術したところが腫れたり、角膜が傷ついたりといった被害が寄せられるようになっていた。

そのため、厚労省は2001年、アートメイクを念頭にして、「医師がおこなうのでなければ保健衛生上危害の生ずるおそれがある」と指摘して、こうした行為は医師法に違反するという通達を出していた。

「背景には、アートメイクによる健康被害をなんとか食い止めようという動きがありました。この通達によって摘発がはじまり、2014年には医師法違反検挙事件のうち、8割がアートメイク業者になったこともありました。

裁判で争ったケースもありましたが、すべて業者側の主張が退けられています。アートメイク施術者の人たちも困ってしまい、私自身、何件も相談を受けていました。

しかし、そこまでいくと、アートメイクは違法行為だという『事実』ができあがってしまい、裁判ではどうしようもできないわけです。あとは、業界団体が国会議員に働きかけて、アートメイクに特化した特別法や国家資格を作るしかない・・・」

TAIKIさんから相談を受ける前は、まさにアートメイク業者がどんどん摘発されていた時期だったのだ。

「タトゥーの問題も、今やらないとアートメイクと同じことが起きてしまうという危機感がありました」と振り返る。

大阪府警からはじまったタトゥー彫り師の摘発。もし、TAIKIさんが争う決意をしなければ、全国にこの動きは広まっていた可能性があったかもしれない。

「そうだと思います。私たちが略式命令から、正式裁判を請求をして、メディアも大きく報じたことで、警察も事実上、動きを止めました。

だけど、裁判で勝たなければ本当の意味で止めることはできません。やはり、TAIKIさんがたたかうと覚悟を決めてくれたことがすべてだったと思います」

この裁判は結局、最高裁まで争われて、亀石弁護士は一審と控訴審で弁護団の主任弁護人としてたたかった。結果は、ご存知の通りの勝訴。当時の会見で亀石弁護士はコメントを残している。「彫り師という職業を守るための戦いでした」

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●被告人に投げられた石を代わりに受ける

しかし、刑事弁護人はなかなか理解されない。「逮捕されたら悪人」という先入観が根強く、「なぜ悪人の味方をするのか」とそしりを受ける。ネットでも激しいバッシングを受けることも少なくない。

つらくはないのだろうか。「世間から理解してもらえないとか、どうでも良くて・・・」と亀石弁護士は笑う。

「もちろん、たくさんバッシングもされてきました。でも、刑事弁護という仕事は、被告人に投げられた石を代わりに受け止めるのが当たり前くらいに思っています。そうじゃないと、できない仕事だと思います。刑事弁護って」

勝手なもので、裁判で勝って結果を出せば、人は評価を変える。警察による令状なしのGPS捜査が違法だと訴えた裁判のことを亀石弁護士は思い返す。

「弁護したのは、プロの店舗荒らしの人たち、つまり職業的犯罪者でした。だから、警察が彼らの車に対して、違法にGPSをつけて捜査していたとしても、多くの人たちが『何が悪いんだ?』と思っていました。市民の平穏な生活が守られるという利益があると。

ですから、私たち弁護人は『悪徳弁護士』みたいに言われていました。ヤフコメとか地獄でしたよ(笑)」

しかし、最高裁は、警察のGPS捜査を違法と判断した。

「そうしたら、手のひらを返したみたいに、ネットのコメントは『監視社会に警鐘を鳴らさないといけない』って言い出して・・・。そんなふうに世論は簡単に変わります。いちいち気にしていられない」

タトゥー裁判でも同じだったという。世論は、タトゥーの文化や彫り師の仕事に対する偏見で満ちあふれていた。

●世間がどう思おうとも、人権を守る

しかし、大阪高裁の判決は、大阪地裁の有罪判決を覆して、タトゥーについて次のように述べている。

「その歴史や現代社会における位置づけに照らすと、装飾的ないし象徴的な要素や美術的な意義があり、また、社会的な風俗という実態があって、それが医療を目的する行為ではないこと(・・・中略・・・)は、いずれも明らか」

「彫り師やタトゥー施術業は、医師とは全く独立して存在してきた」

TAIKIさんの無罪は、最高裁でも支持された。亀石弁護士は、「大阪高裁も、最高裁も、彫り師という職業に対する敬意を感じるような判決文を書いてくれました。社会の受け止め方も変わっていくのではないかと希望を感じています」と振り返る。

ただ、社会が、世間が、どう変わろうとも、亀石弁護士の軸足がぶれることはない。

「少数派の人たちや、虐げられている人たちが偏見を持たれたり、社会から排除されようとしているとき、私たちのようにその人権を守ろうという仕事している弁護士は、社会が理解してくれようと、してくれまいと、何があっても守るんだということが基本だと思っています」

亀石弁護士たちは、タトゥー裁判でクラウドファンディングを利用して支援を募った。世間は関係ないと思いながらも、その際に寄せられた言葉が印象に残っているという。

「支援してくださった人たちの中には、『自分はタトゥーは嫌いです』って、はっきり書く人もたくさんいました。タトゥーを入れたくないし、家族が入れるにも反対だし、見ていて不快感がある。

でも、そういう人たちでさえ、『だからといって、こんな乱暴に法律が運用され、ある日突然、誇りを持ってやっていた仕事が犯罪にされて奪われるというのは、あまりにも不合理だ』とおっしゃってくれました。

そういう成熟した考え方ができる人たちもたくさんいるんだなって、すごく励まされましたね」

●「私にも偏見はあったからわかる」

コロナ禍にあって、苦しんでいる人たちがいる。亀石弁護士はまた動き出していた。

政府は、新型コロナウイルス対策の持続化給付金の対象から、性風俗事業者を外した。これを違憲だとして、関西の風俗店が昨年9月、国などを相手取った訴訟を起こしたのだ。亀石弁護士は、弁護団に名を連ねる。

ここでも、性風俗事業者に対する世間の偏見や差別はあるのではないか。そうたずねたところ、率直な答えが返ってきた。

「セックスワーカーの人たちに対して、私自身も知らないがゆえに誤解していたことや、偏見がありました。

タトゥー裁判もそうでした。タトゥーをしている人が歩いてきたら、絶対に目を合わせないようにしていたし、『この人、どんな仕事をしてるんだろう』とか思っていました。

実は最初のきっかけは『あっ、自分にも偏見があった』ということに気づくことなんです。気付いてから、いろいろ知ることによって自分自身が変わるというか・・・個人的にはまずそれがあります」

刑事弁護人としての姿勢がここでも伝わる。

「一生懸命、その人のために弁護をするモチベーションの一つは、『今まで、偏見を持っていてごめん』『誤解していてごめん』という、贖罪(しょくざい)のような気持ちがありますね。

だから、社会に対して何か訴えるときも、『おまえら、偏見持ってんじゃね〜よ!』みたいな、上から目線ではなくて、『わかる。私にも偏見があったから』という思いを伝えたいです」

後編( https://www.bengo4.com/c_23/n_12501/ )に続く。 

【亀石倫子弁護士略歴】 法律事務所エクラうめだ代表弁護士。北海道小樽市出身。東京女子大卒業後、一般企業に就職。結婚を機に退職し、弁護士を目指す。2005年に大阪市立大法科大学院に入学、2009年に大阪弁護士会に登録。弁護士法人大阪パブリック法律事務所に入所後、多くの刑事事件に取り組む。2017年3月、警察による令状なしのGPS捜査は違法であるとする最高裁大法廷判決を勝ち取った際の主任弁護士を務めて注目を集める。