「同僚から10カ月以上無視され続け、ストレスでうつ病を発症しました。ハラスメントとして訴えられますか」。弁護士ドットコムに、派遣社員として働く女性が相談を寄せました。

相談者によると、10カ月ほど前から、それまで仲が良かった同僚に無視をされ続けているそうです。業務に関わることで話すことはあるものの、それ以外の会話は一切なし。1メートルほどの距離で挨拶をしても無視されるといいます。

無視が始まって半年が経った頃、相談者は無視されるストレスから体調を崩し、精神科を受診しました。その結果うつ病と診断され、派遣会社に診断書を提出し、派遣担当者・派遣先の上司をまじえて3人で話をしました。

すると上司から「(無視する相手に)挨拶をするように注意したら、詳しくは言えないが相手も精神的な(病気であるとの)診断書を提出してきたのでこれ以上は何もできない」と言われたそうです。

相談者は、主治医から「弁護士を考えた方がいい」とアドバイスされたそうですが、無視されている状態なので、ボイスレコーダーでの録音といった証拠はありません。同僚社員からの無視はハラスメントだとして、相手を訴えることはできるのでしょうか。寺岡幸吉弁護士の解説をお届けします。

 ●同僚からの無視はパワハラ?

ーー同僚からの無視は「パワハラ」にあたるのでしょうか。

厚生労働省によれば、パワハラの定義は「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」とされます。

そして、この提言では、職場のパワーハラスメントの典型的な行為を、以下の6つの類型に分類しています。なお、必ずしもこの6つだけに限定されるものでないことにご注意下さい。

(1)暴行・傷害(身体的な攻撃)
(2)脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
(3)隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
(4)業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
(5)業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
(6)私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

この類型に照らすと、今回のご相談は(3)に該当するように思われます。ただ、先述したように、厚労省のパワハラの定義は「職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性」を背景にしたものとされています。この定義に沿えば、立場上の優位性がない同僚からの無視は、パワハラの定義にあてはまらないと考えられます。

もっとも、労災保険の適用があるかどうかや、相手に対して損害賠償請求ができるかどうかを論じる場合、重要なことは、相手の行為と損害との間に相当因果関係があるかどうかです。パワハラの定義に該当するかどうかは、あまり重要な問題ではありません。

 ●「無視」の証拠、どうやって残したらいい?

ーー相談者は無視されている状態なので、ボイスレコーダーでの録音といった証拠はないようです。

労災保険の適用や、相手への損害賠償請求のためには、同僚から無視されていることを証明する証拠を集めなければなりません。

無視されているということは、会話などがおこなわれていないということですから、録音などは証拠になりにくいです。ご本人には負担になると思いますが、頑張って話しかけてみて、それに対する応答がないことを明確にする必要があるでしょう。その様子を映像でも撮れれば、よりよいと思います。

また、無視されている場合には、本人がいない場所で、悪口を言うなどして本人のことを話題にしていることがよくあります。ハードルは高いですが、可能であれば、自分がいない時の同僚の会話を録音しておくというのも1つの方法です。

 ●労災、同僚への損害賠償請求は認められる?

ーー今回のケースで、労災保険は適用されるのでしょうか。

厚労省が策定した「心理的負荷による精神障害の認定基準」(平成23年)では、業務による心理的負荷があると考えられる出来事が類型化され、その出来事から受ける心理的な負荷の強さを主な基準として、労災保険が適用されるかどうかを判断するとしています。

類型の1つである「対人関係」の具体例としては「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」などが挙げられています。さらに、心理的負荷が「強」のいやがらせの具体例として「同僚等による多人数が結託しての人格や人間性を否定するような言動が執拗に行われた」が挙げられています。無視などの行為であっても、これらの例と同じくらいの心理的負荷が生じると判断される場合には、労災保険の対象になると考えられます。

業務上の精神疾患については、労災保険の適用が認められているケースの多くで使用者に対する損害賠償請求も認められており、上記の労災保険の基準も、損害賠償請求の一応の基準にはなりますが、そのまま適用されるわけではありません。また、本件は使用者ではなく、同僚への損害賠償請求ですから、その点も考慮する必要があります。

以上を前提として今回のケースを考えてみます。今回はまず、上司ではなく同僚による無視です。そして、無視をする同僚も複数ではなく1人であると思われること、業務にかかわる話はしており、無視されるのは業務とは直接関わりのない場面であることなどを考えると、心理的負荷の程度はさほど強くないと思われます。

また、損害賠償請求との関係では、その同僚も精神疾患に罹患していると思われることは、責任の点などで、請求が認められない方向に働く事情と考えられます。

そのため、今回のケースでは、労災認定を受けたり、無視をする同僚への損害賠償請求が認められたりする可能性は低いでしょう。ただ、細かい事実関係によって最終的な結論は変わってきますので、労働問題に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。

(弁護士ドットコムライフ)

【取材協力弁護士】
寺岡 幸吉(てらおか・こうきち)弁護士
社会保険労務士を経て弁護士になった。社労士時代は、労働問題を専門分野として活動していた。弁護士になった後は、労働問題はもちろん、高齢者問題(成年後見や高齢者虐待など)などにも積極的に取り組んでいる
事務所名:弁護士法人おおどおり総合法律事務所川崎オフィス
事務所URL:https://os-lawfirm-kawasaki.jp