幅広い層に人気のベストセラー作家、村上春樹さん。その直筆原稿が流出した可能性があると報じられている。

NHKによると、村上さんの直筆原稿20点が3月20日、都内で開かれたオークションに出品された。このうち19点が落札されて、最も高いもので155万円の値が付くなど、落札額の総額は540万円あまりになったという。

これらの原稿は、コレクターが20年ほど前、古書店で購入したもので、村上さんとつきあいのあった編集者(故人)から流出した可能性があるという。オークションにあたっては、村上さん側に連絡したうえで、原稿を出品することを伝えていたようだ。

近ごろは、手書きの原稿ではなく、データでやりとりされることが多くなっているが、村上さんのような人気作家の直筆原稿とあれば、相当な価値がある。こうした原稿は「だれのもの」になるのだろうか。法的な問題について、桑野雄一郎弁護士に聞いた。

●直筆原稿は「預けたもの」と考えられる

本来、漫画家をふくめて作家の直筆原稿は、作家のものです。

作家は、執筆が終わると原稿を出版社の担当者に渡しますが、譲渡したわけではなく、あくまで出版のために預けたものと考えられます。ですから、預かっている担当者が、勝手に売却した場合、業務上横領として刑事罰の対象になる可能性があります。また、損害賠償請求など民事責任も問われることになります。担当者だけでなく出版社も同様です。

出版社によっては、会社として原稿をきちんと管理しておらず、担当者が私物と共に机の引き出しやロッカーの中に保管していることもあります。そのため、異動などの際に誤って廃棄したり、紛失したり、退職の際に私物と共に会社から持ち出し、今回のように流出してしまったりすることがあります。

――「直筆原稿」を取り戻すことはできるか?

直筆原稿が作家のものだといっても、オークションなどで、売買されてしまったら、民法の規定に基づいて、購入した人のものになってしまい、取り戻すことができなくなることが多いです。

マンガの直筆原稿などは、「美術品」の側面もありますので、そのような場合、作家に対する賠償額をどうするかという問題も生じます。紛失してしまった場合も同様です。

作家にとっては大切な生原稿です。前述のように紛失や流出をすると、担当者だけでなく出版社も管理責任を問われます。必要がなくなれば、速やかに返却するか、保管するならきちんと管理することが必要です。

【取材協力弁護士】
桑野 雄一郎(くわの・ゆういちろう)弁護士
高樹町法律事務所。「外国著作権法令集(46)−ロシア編―」(翻訳)、「出版・マンガビジネスの著作権(第2版)」(以上CRIC)、「私的違法ダウンロードに関する改正法案の問題点(上)/(下)」特許ニュース14934号・14935号等。
事務所名:高樹町法律事務所
事務所URL:http://www.takagicho.com