札幌市は7月7日、マスク未着用の来庁者に対応した市職員3人の新型コロナウイルス感染を確認したと発表した。

報道によると、市側はこの来庁者にマスク着用やパーテーションを置いて話したい旨をお願いしたものの理解が得られず、危機管理対策室の3人が約1時間、その後さらに教育委員会2人が約30分対応した。

後日、危機管理対策室の2人と教育委員会の1人が相次いで新型コロナを発症。他の2人についてはPCR検査で陰性だったという。

市側は、因果関係がわからず感染経路が不明なケースだとする一方、感染した職員については発症の2日前までの感染可能期間に市民との接触はないとも説明。今後、庁舎管理規則に基づき来庁者にマスク着用を求めたうえで、特段の事情がなく応じない場合はマスク着用に応じない来庁者に退去命令を出すことも検討するという。

目に見えないウイルスによる感染経路の特定は容易ではなく、マスクをしていても感染リスクがなくなるわけではないが、マスク着用に応じないだけで退去命令を出すことは可能なのだろうか。

平裕介弁護士は「退去命令を出すことは法的に可能」だという。また、退去命令に相手が従わない場合には、最終的な対応として「3つの法的手段が考えられる」とも指摘する。

以下、平弁護士に詳しく聞いた。

●「退去命令を出すことは法的に可能」

——庁舎管理規則に基づき来庁者にマスク着用を求めたうえで、正当な理由なく応じない場合はマスク着用に応じない来庁者に退去命令を出すことは、法的に可能なのでしょうか。

札幌市庁舎管理規則(以下「規則」)9条は、庁舎内の禁止事項について規定しており、「座り込み、その他の方法により職員等の通行を妨害すること」(同条(1)号)などのほか、「庁舎の保全を害し、又は秩序を乱し、公務の円滑な遂行を妨げること」(同条(7)号)を「してはならない」とし、何人に対してもこれらの行為を禁止しています(同条柱書)。

また、規則12条は、違反行為に対する措置について規定し、庁舎管理者は、規則9条各号に掲げる行為を「行う者又は行う恐れのある者」に対し、その行為を「禁止し……なければならない」とし(規則12条1項(1)号)、この禁止命令に従わない者に対しては、庁舎から「退去」することを命じることが「できる」と規定しています(同条2項)。

以上の各規定を今回のケースについてみると、まず、特に正当な理由(たとえば、健康上の理由からマスクを着用することが著しく困難である場合であるなど)なく、マスクを着用せずに来庁する行為については、当該来庁者が無症状者であっても、当該来庁者の飛沫等によって庁舎内の職員や他の来庁者に新型コロナウイルスを感染させることとなる危険性が一定程度認められる行為といえることに加え、一定数の職員がマスクの着用を促すなどの対応に追われるほか、他の来庁者が安全に、あるいは安心して来庁することが困難となることから、「庁舎の保全を害し、又は秩序を乱し、公務の円滑な遂行を妨げること」(規則9条(7)号)に該当するだろうと考えます。

そうすると、庁舎管理者としては、正当な理由なくマスクを着用せずに来庁した者に対し、規則12条1項(1)号の禁止命令として、マスクを着用せずに庁舎内に立ち入る行為を禁止する命令を行い、この命令に従わない場合には、同条2項に基づき、退去命令を行うことができます。

なお、マスクの着用を義務づける措置については、個人の医療情報に関するプライバシー権の侵害になるのではないか、などの憲法上の問題も考えられるところですが(大林啓吾「マスクの憲法問題」大林啓吾編『感染症と憲法』(青林書院、2020年)207頁以下参照)、仮にそのような問題があるとしても、一般的にプライバシー権は一定の場合にはその制約が正当化されますので、本件のように退去命令を行う場合にも基本的にはプライバシー権の制約が正当化されうるだろうと考えます。

以上より、マスク未着用者に退去命令を発することは、法的に可能と考えられます。

●「退去命令が違法となる場合はかなり限られている」

——退去命令とは、法的にはどのような処分にあたるのでしょうか。

退去命令は、法的には、当該来庁者個人に具体的な義務(マスクを着用せずに庁舎内に立ち入ってはならないという不作為義務)を課す権力的な行政作用である行政処分(行政法学上の行政行為)であると考えられます。禁止命令も同様です。

なお、規則12条2項に関しては、先に述べたとおり「できる」と規定しており、その判断の性質からみても、庁舎管理者に退去命令を行うか行わないかについての行政裁量(効果裁量)が認められていると考えられます。

そのため、比例原則や平等原則に違反するなど裁量権を逸脱・濫用するような退去命令は違法となりますが、マスクを着用せずに来庁したことがあり、禁止命令に違反した者に対する退去命令が問題となる場合には、退去命令が違法となる場合はかなり限られているといえ、多くの場合には適法に退去命令を行うことができるでしょう。

●市側の最終的な対応として考えられる「3つの法的手段」

——もし、退去命令にも従わない場合、強制的に退去させることはできるのでしょうか。もしできない場合、市側のさらなる対応としてどのようなことが考えられますか。

規則には、退去命令に従わない者を強制的に退去させることを可能とする規定がありません。そこで、市側のさらなる対応としては、(1)裁判所を利用する、(2)警察機関に協力を求める、(3)規則を改正する、という、大別して3つの法的手段をとることが考えられます。以下、順に説明します。

第1の対応は、裁判所を利用する対応です。

市としては、まず、地方裁判所に、市を債権者、退去命令を受けた者を債務者とする仮処分命令を申し立て、庁舎内にマスクを着用せずに立ち入ってはならないという旨の内容の仮処分命令(民事保全法23条2項)を受けます。

それでも、当該来庁者が禁止行為を繰り返すなどの場合には、同じく地方裁判所に、自治体(市)の平穏に業務を遂行する権利に基づき、妨害行為の差止めを請求する訴訟(民事訴訟)を提起するという対応をとることが考えられます。

このことについては、問題となった行為は異なりますが、自治体の庁舎管理規則上の庁舎内での禁止行為が問題となった同種の裁判例(千葉地裁令和2年6月25日判決、判例地方自治466号13頁)が参考になります。以下は、その判示の重要な部分です。

「法人に対して行われた当該法人の業務を妨害する行為が、当該行為を行う者による権利行使として相当と認められる限度を超えており、当該法人の資産の本来予定された利用を著しく害し、かつ、その業務に従事する者に受忍限度を超える困惑・不快を与えるなど、業務に及ぼす支障の程度が著しく、事後的な損害賠償を認めるのみでは当該法人に回復困難な重大な損害が発生すると認められるような場合には、当該法人は、上記妨害行為が、法人において平穏に業務を遂行する権利に対する違法な侵害に当たるものとして、上記妨害行為を行う者に対して、平穏に業務を遂行する権利に基づいて、上記妨害行為の差止めを請求することができるものと解するのが相当である」

このように、自治体の「業務に及ぼす支障の程度が著しく、事後的な損害賠償を認めるのみでは当該法人に回復困難な重大な損害が発生すると認められるような場合」(上記判示)など一定の場合には、民間の法人と同様に、自治体も「平穏に業務を遂行する権利」を有するといえ、この権利に基づき、マスクを着用せずに来庁し、最終的に退去命令を受けた者に対して、妨害行為(マスクを着用せずに来庁する行為)の差し止めを請求することができると解する余地があります。

なお、上記判示にもあるとおり、自治体が原告となり、退去命令を受けた者を被告として、事後的に損害賠償を請求する民事訴訟を提起することもでき、この場合には、上記差止請求の場合よりもやや緩やかな判断枠組みのもとで損害賠償請求が認容されるでしょう。

損害賠償請求は事後的な手段ではありますが、今後もコロナ禍は相当期間続く可能性があり、再発防止のためにはこの手段も一定の効果がある法的手段といえるでしょう。

第2の対応は、警察機関に協力を求める対応です。

市側としては、再三にわたり、禁止行為に当たる行為を止めるよう求め、さらにそれを理由に退去を求めてもこれらの求めに応じない者がいる場合には、建造物侵入罪あるいは不退去罪(刑法130条)の疑いがあるとして、警察署に通報する対応をとることが考えられます。

この手段は、退去命令を出す前であっても、行うことが可能と考えられます。

実際に、前述の千葉地裁判決でも、庁舎内での動画を撮影する者に対し、再三にわたり、動画の撮影と庁舎からの退去を求めるも、当該撮影者が求めに応じなかったことから、市(船橋市)が警察署(船橋警察署)に通報したところ、建造物侵入罪の被疑事実により当該撮影者が現行犯逮捕された旨の判示がみられます。

第3の対応は、規則を改正するという対応です。

市としては、規則を改正し、正当な理由なく退去命令に違反した者に対し、5万円以下の過料(地方自治法15条2項)を科する旨の規定を新設することができると考えられます。これにより、一定程度、再発を防止する効果が期待できるでしょう。

とはいえ、仮に、このような規定が「法令に違反しない」(地方自治法15条1項)ものといえるとしても、庁舎は市民が来庁し利用することが予定された「行政財産」(地方自治法238条4項)であり、また、一定の罰(行政罰の一種)としての過料を強制的に課す措置ですから、その規定の運用・適用は極めて慎重に行われるべきです。

なお、規則では、法律では設けることが認められている直接強制という制度を設けることはできず(行政代執行法1条参照、同条に照らすと条例でも不可)、また、罰金等の刑事罰(行政刑罰、刑法9条等参照)は、規則(庁舎管理規則)では設けることができません(地方自治法15条2項参照)。

もし条例で対応するとなれば、同法14条3項の範囲内であれば刑事罰を設けられますが、刑事罰の規定の新設となると目的達成手段として過剰であり、比例原則違反の疑いが生じるのではないかと考えます。執行罰という制度もありますが、同様の問題があるでしょうね。

【取材協力弁護士】
平 裕介(たいら・ゆうすけ)弁護士
2008年弁護士登録(東京弁護士会)。行政訴訟、行政事件の法律相談等を主な業務とし、憲法問題に関する訴訟にも注力している。日本大学法科大学院・國學院大學法学部非常勤講師。審査会の委員、法律相談員、公務員研修講師等、自治体の業務も担当する。
事務所名:鈴木三郎法律事務所