東京五輪開幕まであと1日。少し前から、記者の暮らす都内では、繁華街や五輪施設の周辺で外国人の姿をよく見かけるようになった。

政府や大会組織委員会は「安心安全な大会の実現」を掲げ、「バブル方式」によって、来日した五輪関係の外国人を一般人と接触させないようにするとしている。

ところが、ツイッターなどネット上では、新宿や渋谷、銀座などの繁華街で、「五輪関係の外国人がいた」という声が多数あがっている。しかも、「ノーマスクだった」と危機感を覚えている人も少なくない。

一体、五輪の舞台裏で何が起きているのだろうか。

●表参道や原宿にノーマスクの五輪関係者

7月の週末、記者が表参道を歩いていたら、3人の外国人が路上でタクシーを停めているところに出くわした。全員がノーマスクである。

マスク着用が当たり前になってしまった東京の日常で、ノーマスクで歩いている人を見るのは久しぶりで、思わず目で追っていた。

彼らの服装をみると、全員が国旗、国名が印刷されたシャツやバッグを持っていたことから、五輪関係者だとわかる。彼らは大声で話しながら、タクシーに乗り込み、どこかへと走り去っていった。

そのあと、原宿の竹下通りを通りかかると、やはり五輪関係者と思われる外国人が、ノーマスク姿で歩いていた。また別の日も、東京メトロで同じように国旗や国名の入ったシャツを着た外国人のグループが、ノーマスクで乗っているのを見かけた。

政府や大会組織委は6月、五輪関係者の本格的な来日を前に、彼らには厳しい行動制限をかけて、新型コロナウイルスの感染がないようにすると繰り返し強調していた。しかし、彼らを見ると、厳しい行動制限がおこなわれているようには思えなかった。

●プレイブックでは「常時マスク」

あらためて、大会組織委が公表した選手・チーム関係者や海外メディア向けのプレイブック(ルールブック)をひもとくと、その厳しい行動制限が明記されている。

「常にマスクを着用し、人との接触を最小限に抑えてください」

「移動の際は専用車両を使用してください。地方会場への移動などやむを得ない場合を除き、公共交通機関の使用は認められません」

大会組織委は6月、弁護士ドットコムニュースの取材に対して、「安全・安心な大会を実施するためのコロナ対策をまとめたプレイブックに、記載の内容に違反した場合は、アクレディ(大会参加証)のはく奪を含めた制裁措置を課す可能性がある旨を記しています」と厳しい姿勢を強調していた。

しかし、実際にこのプレイブックは守られず、バブル方式も機能していないと報道が相次いでいる。一方で、大会参加証がはく奪されたというニュースは聞かない。いくら立派なプレイブックを作成したとしても、実施されないのであれば無用の長物だ。

●タクシー運転手の労組は強く抗議

記者が表参道や原宿で目撃した現象は、なし崩し的にあちこちで起きているようだった。ツイッターでも、新宿、渋谷、銀座、豊洲、また札幌などで同じように五輪関係者と思われる外国人たちがノーマスクで歩いていると報告されている。

その裏側では、五輪関係者を輸送するためのバスやハイヤーが足りず、臨時的に一般タクシーまで利用されていることが問題となっている。

バスやタクシーの運転手でつくる全国自動車交通労働組合総連合会(自交総連)は7月12日付で、この運用の見直しを求め、国や大会組織委に強く抗議する声明を公表した。

この声明で、「オリンピック関係者が乗る時だけ臨時にハイヤー車両として運用し、その輸送が終わればまたタクシーに戻して一般乗客を乗せるという、極めて安易な運行形態であり、運転者はもとより同じ車両に次に乗せることになる一般乗客にも新型コロナウイルス感染の危険が生じるものである」と懸念を示している。

これに対し、管轄する国交省は「運転者のみなさまに不安を抱かせたことはお詫びしたい」と説明したが、具体的な解決策は示さなかったとして、さらに自交総連は抗議した。

また、自交総連の「運転者についてはワクチン接種が済んだ者を担当に」という要望に対しても、国交省は「ワクチンを持っていたら優先して打ちたいという気持ちだが、持っていない。不安を抱かせていることは申し訳ない」と回答したという。

●五輪が開幕後、懸念されることとは

五輪の憲法ともいえる「オリンピック憲章」は、オリンピック・ムーブメントの目的を「いかなる差別をも伴うことなく、友情、連帯、フェアプレーの精神をもって相互に理解しあうオリンピック精神に基づいて行なわれるスポーツを通して青少年を教育することにより、平和でよりよい世界をつくることに貢献することにある」と定めている。

しかし、すでに五輪関係者との分断が生まれつつあり、「外でお酒を飲んでいた」「マスクをせずに話していた」といった行動をとがめる声は少なくない。今後、五輪が始まり、プレイブックも守られなければ、ますます五輪関係者に対する世間の目は厳しくなるだろう。

もしかしたら、オリンピック憲章にあるように「相互に理解しあう」どころか、禁止されている「差別」につながる危険性もある。東京五輪が本当に「成功」するかどうかは、競技が滞りなく実施されるだけでなく、五輪の大義を損なわない大会運営にかかっている。