ソフトバンクで活躍した元プロ野球選手の摂津正さんが、自身のツイッターで「家の盗撮禁止」「我が家がTVに出たからと言って、勝手に写真を撮っていい訳ではありません」(9月5日)と怒り心頭の投稿をし、話題になった。

別の投稿では、勝手に家を撮影した人が「TVに出たからいいと思った」などの弁明をしたことに触れ、「そろそろ激怒しますよ」とも述べている。

著名人が自身のプライベートや家族の撮影を控えるよう珍しくない。著名人の自宅を撮影した人にはどのような法的問題があるのだろうか。櫻町直樹弁護士に聞いた。

●建物の外観のみの撮影、法的な問題になる可能性は低いが…

ーー著名人の自宅撮影をするだけで、法的な問題となる可能性はあるのでしょうか

建物の外観のみを撮影するという行為については、法的に問題となる可能性は低いと一応は言えるでしょう。

ただ、見知らぬ他人から無断で自宅を撮影されることに対して、居住者が不安を覚えることは否定できないと思いますし、そのようなことが重なれば居住者にとっては精神的苦痛が生じるということもあると思います。実際、摂津選手のケースはそのような状況だと思います。

したがって、具体的な状況によっては、建物の外観を撮影する行為が、居住者の「平穏な生活を送る利益」を侵害する不法行為にあたり、損害賠償責任を負うこともあり得ると言えるでしょう。

●SNSにアップすれば「プライバシー侵害にあたる」

ーー撮影した写真や住所をSNSなどにアップすることの法的問題はありますか

建物外観を撮影するにとどまらず、それを不特定多数に向けて公開するという行為については、プライバシー侵害にあたると言えるでしょう。

著名人の自宅建物の写真を公開したこと等がプライバシー侵害にあたるかどうかが争われた裁判例としては、神戸地裁尼崎支部判決平成9年2月12日(判時1604号127頁)があります。

この裁判例は、宝塚歌劇団のメンバーに関して「住所を表示し(但し町名までで番地までは記載していない)、私鉄駅から住所にいたるまでの道順を地図で示したうえ、合わせて居住する住宅(多くはマンション様の建物)の写真まで掲載され、これによって、債権者らがいかなる場所のどのような住居で生活しているか(以下、これを「住居情報」という。)が明らかとなる」情報を、書籍に掲載して公開したという事案につき、プライバシー侵害の成否が争われたものです。

裁判所は、「有名スターないしタレントといえども、平穏に私的生活を送るうえでみだりに個人としての住居情報を他人によって公表されない利益を有し、この利益はプライバシーの権利の一環として法的保護が与えられるべきところ、本件書籍を出版することによる前記各債権者についての住居情報を本人の承諾なくして出版により公開することは、当該債権者のプライバシーの権利を侵害するものというべき」として、当該書籍の出版・販売の差止めを認めています。

この裁判例は、「どのような住居で生活しているか」についてもプライバシーとして保護され、これが明らかとなる情報(この件では「居住する住宅(多くはマンション様の建物)の写真」)を居住者に無断で公開することは、居住者に対するプライバシー侵害にあたると述べています。

そうすると、仮に、写真からでは住宅の所在地が分からないという状態であっても、建物外観の写真が公開されることで、居住者が「どのような住居で生活しているか」が明らかになってしまうので、プライバシー侵害にあたると考えるべきでしょう。

●外からの撮影、被写体に肖像権は?

ーー自宅の外から内部を写し、そこに住民が写ってしまった場合、肖像権の侵害にあたるのでしょうか

(建物外からであっても)自宅室内にいる著名人を撮影した場合、「肖像権」侵害にあたります(なお、肖像権侵害は、撮影された者が著名人でなくても成立します)。

最高裁判所は、「肖像権」という表現は使っていませんが、「個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(中略)を撮影されない自由を有するものというべき」(最高裁昭和44年12月24日判決判タ242号119頁)と判示しています。

さらに、撮影のみならず不特定多数に向けて公表したという場合は、プライバシー侵害にあたると言えます。

例えば、著名な歌手が自宅にいるところを撮影し、週刊誌上に写真を掲載して公表した行為が、当該歌手のプライバシーを侵害する不法行為であるとして、撮影したカメラマン・週刊誌発行元に対して550万円の損害賠償が命じられたというケースがあります。

また、東京地裁平成17年10月27日判決(判時1927号68頁)は、自宅マンションの室内でガウンを羽織っていた人物(大手新聞社の代表取締役)を、マンション近くの遊歩道から撮影して週刊誌に掲載した行為について、「自宅の室内においては、他人の視線から遮断され、社会的緊張から解放された無防備な状態にあるから、かかる状態の容貌・姿態は、誰しも他人に公開されることを欲しない事項であって、これを撮影され公表されないことは、個人の人格的利益として最大限尊重され、プライバシーとして法的保護を受けるというべき」とされています。

したがって、著名人が自宅室内にいるところを撮影して公表する行為は、プライバシー侵害にあたると言えるでしょう。

ーー今回、摂津さんがSNSで呼びかけたように、住民が撮影をやめるよう伝えているにもかかわらず撮影した場合、法的な責任を問われるのでしょうか

例えば、SNS上で不特定多数に向けて「自宅を撮影しないように」というような一般的な注意喚起・警告という形にとどまっている場合には、一度の撮影によってただちに損害賠償責任が発生する可能性は低いと言えるでしょう。

ただし、前述したように、撮影時の具体的な状況によっては、自宅建物外観を撮影する行為が居住者の平穏な生活を送る利益を侵害する不法行為にあたり、損害賠償責任を負うこともあり得るでしょう。

また、撮影している最中に直接、撮影しないようにと注意されたにもかかわらず、これを無視して撮影を続けたというような場合には、撮影行為によって精神的苦痛を与えたということで、損害賠償責任が負う可能性が高いと言えるでしょう。

なお、自宅敷地内に無断で侵入して撮影したという場合、住居侵入罪(刑法131条前段)にあたる可能性があります。

【取材協力弁護士】
櫻町 直樹(さくらまち・なおき)弁護士
石川県金沢市出身。企業法務から一般民事事件まで幅広い分野・領域の事件を手がける。力を入れている分野は、ネット上の紛争解決(誹謗中傷、プライバシーを侵害する記事の削除、投稿者の特定)。
事務所名:パロス法律事務所
事務所URL:http://www.pharos-law.com/