バイト先のお客さんから「チップ」として受け取ったら、あとで「お金を返せ」と要求されて困っている。このような相談が弁護士ドットコムに寄せられています。

相談者は、アルバイト先の飲食店に来る男性客から「持っとけ」「好きな物を買え」とお金を渡されたことが何度かありました。断っても渡してくるため受け取るようになり、誕生日やコロナを理由に数万円単位のお金を貰うこともあったそうです。

飲食店には男性客の妻も伴われて来ていたこともあり、男性客には下心はなく「ただのチップ」として渡されたのだと思っていたと言います。「こんな気前のいい人、おるんやなぁ」と思っていたそうです。

ところが、男性からある日、「知り合って1年になるけどデートもできない。お前のしていることは詐欺だ。金を返せ」と突然、言われたと言います。

相談者は自分からは一度もお金を要求したことないのに返金しなくてはいけないのかと不安に感じています。このような場合、返金義務はあるのでしょうか。河内良弁護士に聞きました。

●「返金の義務はありません」

——返金義務はありますか。

金を渡していた男性の動機はともかく、法律上は、単純な贈与契約ですので、返金の義務は ありません。

男性側の主張としては、「『金を渡せば恋人になってくれるだろう』という動機があったのに、実際には恋人になってくれず、動機の錯誤で錯誤取消だ」などということも考えられます。

しかし、このような動機は法的保護には値しませんし、そもそも表示もされておらず、認められる可能性はないと思われます。

なお、動機が表示されている場合にも、渡していた金は不法原因給付ですので、返還を請求 することはできません(民法708条本文)。よく似た事例として、「カフェー丸玉女給事 件」という判例もあります。

——相談者は詐欺罪で訴えられる可能性はありますか。

「詐欺『罪』で訴えられるか」という心配をされているようですが、このような男性が警察に行って経緯を説明しても、警察が詐欺罪として立件する可能性は極めて低いと思われます。

そもそも、相談者から男性に対して、何ら騙すような言葉を発していませんし、男性が錯誤に陥っている状態を積極的に利用したような事情も窺えないからです。

むしろ、男性が脅し文句(相談者本人やその家族について、殺す・怪我をさせる・財産を壊 す・あることないこと言いふらす、など)を言ってきた場合には、何も要求が伴わなければ脅迫罪として、返金要求が伴えば恐喝(未遂)罪、交際を求めるようなら強要(未遂)罪として、刑事告訴を行うことも可能です。

ただ、相談者が一人で警察に相談しても、警察が対応しない可能性もあります。弁護士に相談してから警察への働きかけをするようにしたほうがいいと思われます。

【取材協力弁護士】
河内 良(かわち・りょう)弁護士
大学時代は新聞奨学生として過ごし、平成18年に旧司法試験に合格。平成28年3月に独立した。趣味はドライブと温泉めぐり。
事務所名:河内良法律事務所
事務所URL:http://www.kawachiryo-law.jp