9月7日に2021年の司法試験の結果が発表されましたが、今年の大きな特徴は、予備試験通過者の合格率が93.5%となり、予備試験の存在感がますます増したことでした。

最も優秀な法学部生が集まる東京大学法学部では、予備試験を通過して、ロースクールに行かず(行ったとしても1年で中退して)、司法試験に合格することが理想的な道となっています。

一方、東大ロースクールの今年の合格率は48.2%で、前年の59.4%を10ポイント以上、下回りました。

予備試験組がどんどん強くなる中で、ロースクール生は予備試験についてどう考えているのか。どんな勉強をしているのか。東大ロースクールの修了生による座談会を開きました。

【座談会参加者(2019年入学、2021年既修コース卒業、今年の司法試験で合格、全員仮名)】
ハルカさん(女):外資系法律事務所就職予定 学部は他大学
キョウゴさん(男):都内大手法律事務所就職予定 学部は他大学
リュウさん(男):地方大手法律事務所就職予定 学部は他大学

●入学前も後も「予備試験」がつきまとう構図

ーー今年の司法試験では、東大ロースクール(以下、東大ロー)の合格率が低かったのですが、どう思いましたか?

ハルカさん:少々驚きましたね。もう少し、東大ローは受験生に配慮しなければならないと思います。司法試験の合格率とロースクールの成績との関係を分析している大学もあると聞きますが、東大でそのような話を聞いたことがありません。

リュウさん:東大ローはどうしても予備試験の合格で途中退学する人が多いから、他のロースクールの合格率と一律に論じられないけど、この結果だと必修科目や受験生のサポート体制の見直しは必要かもしれないね。

キョウゴさん:他のロースクールでの試験対策に向けての手厚いサポートを聞いていると、今回の結果は当然かもしれないです。在学中に教授から「東大ローは弁護士10年目になって役立つ知識を教える」と言われたことがあるけど、そもそも試験に受かる勉強をさせなかったら意味がありません。

ーーもともとみなさんもローに入る前から予備試験合格を目指していたのでしょうか?

ハルカさん:そうですね。学部の頃は予備試験合格を目指していたんだけど、4年までに受からなかったから「じゃあロースクールを受けよう」と思い始めたのがきっかけです。私立ロースクールも受けて合格したけれども、やっぱり東大ローの先生方は最先端の研究をやっている人ばかりだし、法律界隈で一番の場所で勉強したいと思いました。

リュウさん:私も予備試験を目指していたけど、受からなかったからロースクールを目指さないといけなくなったのがきっかけです。司法試験において東大ローの既修生の一発合格率は高いのは大きいし、就活においても東大卒は有利だと先輩から聞いたから東大ローにしました。

キョウゴさん:やっぱり私含め、全員予備試験を目指していたんだね。実際、ロースクール生で既修の人の話を聞いていると「予備試験受からなかったからロースクールに来ました」が大多数だよね。あと、私立ローも受けるけど、東大に受かったら東大に進学する人がほとんどだと思う。

ーーみなさんはローに入ったあとも、1年目から予備試験を目指していましたね。ローの勉強との両立は可能でしたか?

リュウさん:学部の頃から予備を目指していたわけだし、予備試験合格は就活に非常に有利だから、入学した当初は頑張って受かりたいなという気持ちでした。ただ、学部生の頃と違って、圧倒的に時間が足りなかったです。予習の量は今まで以上だったし、授業自体に出席する必要があったので、両立は難しかったです。

ハルカさん:成績も取れず、かつ、予備試験も受からずという、どっちつかずの状況が1番良くなかったから、私はロー1年目に予備に受からなかったので2年目ではそもそも受けませんでした。

キョウゴさん:私は2年目でも受けたけど、上手くいきませんでしたね。2年目の必修は落としてしまうと留年が決まるので、授業対策は手抜きできないよね。どうしても予備試験に割ける時間が足りなかったです。

ーーみなさんの周りには、予備試験に合格して中退する「予備抜け」が多かったのでしょうか?

リュウさん:各クラスに必ず数名はいますね。入学時は各クラスに50名いますが、卒業の頃には40名ほどに減っています。

キョウゴさん:私のクラスはロー1年目に予備合格した人が10人ぐらいいて、そのうち半分以上は予備抜けしました。予備に合格してもそのまま卒業までローに在籍する人も一定数いるけど、そういう人は本当に勉学が好きでローの授業を受けたい人だよね。

ーーそのような学生はどんな勉強をしていたのでしょうか?

キョウゴさん:本当に予備試験に受かりたい人は、ロースクールに残るつもりは全くない人だと言っても過言ではないね。

リュウさん:よく見たら授業中もずっと択一試験の問題集を見たり、内職しているよね。先生に当てられてもその場で答えてみたり、当たると分かっていたらその直前だけ授業の内容を把握していた様子だった。なんとなく、ローの勉強か、予備の勉強かを1年目の段階か、入学する以前から決めないといけないと思う。

ハルカさん:私の知り合いで予備試験に受かりながら東大ローを卒業した先輩は本当に地頭が良い人で、そんな先輩も毎晩深夜まで勉強してやっと予備試験に合格できたと言ってた。そんな優秀な人さえ苦労するのだから、ローの勉強と予備試験の両立は可能だけど、少数しかできない本当に大変なことだと思う。

キョウゴさん:大半のロー生は、1年目はとりあえず予備試験を受けてみて、受かったらラッキーで。2年目は就活のための成績優先で受けなかったり、一応受けるけど合格を期待しないんだと思う。2年目で合格しても、結局来年司法試験を受けるわけだから、就活でちょっと有利になるしかメリットないよね。

ーー予備試験に合格する同期について率直にどう思いましたか?

リュウさん:尊敬しかありませんね。そもそも東大ローは予備抜けする学生に寛容だよね。他のローの話を聞くと、露骨に予備抜けの学生には配慮しないと宣言するローもあるみたいで。東大ローも学生も、一定数は予備試験に受かるというドライな認識だと思う。

キョウゴさん:ロースクールを早抜けした人とはそもそも普段の授業やクラス内での絡みもあって友達になっていたので、本当にすごいなという感想しかなかったね。ローからいなくなってからも連絡を取り合っていたし、今度は私が司法試験を受けるときに答案の添削をしてくれて、一緒に対策してくれました。

ハルカさん:私もすごく仲良かった同期が予備で抜けたんですけど、その人が司法試験前は私が応援しました。試験後は、今度はその人が私の勉強の相談に乗ってくれたり、励みになってくれたのが支えになったな。

リュウさん:先に司法試験合格して、司法修習に行ってくれるから、司法修習での経験とかお勧めの修習地とか、色んな情報を共有してくれるのもいいよね。

●東大ローの教育自体にも問題がある?

ーーここまで予備試験との関連で語ってもらいましたが、東大ローの教育の話に移りましょう。授業は司法試験対策に役立ったと思いますか?

キョウゴさん:科目によるかな。ある科目を100%体系的にしっかり学ぶことができるというよりは、ところところのテーマで深く掘り下げられて、それが非常に役に立ったと思います。ただ、これは試験とは関係ないだろうという授業はそれなりにありました。

ハルカさん:全体を通して判例の読み方や法律との向き合い方を学べたのはプラスでした。ただ、先生によって司法試験をどれだけ意識していたかは異なっていたと思う。学術的な面に重視する先生もいれば、司法試験を意識した期末試験を出す先生もいたね。

リュウさん:授業全てが役に立つわけではなくて、授業に出て、これは使える・使えない知識を取捨選択する必要があったと思う。その上で、自習して司法試験対策をやっていったかな。他のローの同期の話を聞いていると、かなりの授業において司法試験を意識しているようだね。授業の中で司法試験の問題を解いたりするみたいだけど、東大ローの必修授業ではそれが全くなかったね。

キョウゴさん:予備校のように全部教えてくれる授業をイメージしていたら失敗するだろうね。ただ、学術的な授業は、司法試験に受かった今となればもう一度受けてみたいと思うし、もっと理解が深まったかな。

ーーただ、一流の研究者が多いので、教育の質は高かったということですか?

キョウゴさん:そうですね。ほんとに授業のレベルは高かったと思う。本当に最高峰に来たなって思える授業ばかりだったね。どんな法律分野でも、第1人者なり司法試験委員やっている方が教えてくれたから、非常に恵まれた勉強の環境だった。履修できる授業も本当に豊富だったし、選択肢が沢山あったのは東大の魅力かな。

ーー司法試験と関連の薄い勉強を続けるのは大変でしたか?

ハルカさん:そうですね。成績評価が本当に厳しかったです。他のローの同期の話を聞いていると、ロー2年目は成績評価が緩めで全員卒業させる学校の配慮があるけど、東大ローはその忖度が全くないよね。ロー2年目の必修を落としたせいで留年する人は各クラスにいました。

リュウさん:成績はかなりシビアだった。そもそも司法試験に全く関係のない分野を必修にするのは、ロー2年目で司法試験を意識しないといけない我々にとっては辛かったと思う。そんな中でも成績評価は就活において重要だから、どうにか司法試験対策と両立しないといけなかったよね。

●四大法律事務所を目指したくなる「東大ロー病」

ーー就職の話も出てきましたが、東大ローで就職を意識することはありましたか?

キョウゴさん:やたらと必修の授業やそれ以外の授業を教えているのが四大法律事務所の先生でしたね。それまで四大を聞いたことない人や企業法務を意識していない人が多くの四大弁護士と関わるので、その影響を受けて企業法務を目指す人が多いと思う。先輩はこれを「東大ロー病」と呼んでいるんだけど(笑)なぜか東大ローの学生だけ四大の事務所を訪問できたしね。私は元々企業法務に興味あったから良かったけど、そうじゃない人はどう感じていたんだろう…。

リュウさん:多分他のローには見られない現象だと思う。学生全員が企業法務志望ではないけど、雰囲気に影響されてファーストキャリアとして四大を考える割合は多いだろうね。

ーー授業外での東大ローはどうでしたか?

ハルカさん:裁判所見学や法務省見学、なぜかあるクラス対抗のスポーツ大会とか(笑)、色んなイベントがあって充実してました。あと、必修の先生方との飲み会は貴重でしたね。普段教えてもらっている先生方とお酒の席を囲んで、勉強以外の話ができたのはいい思い出です。

リュウさん:確かに実務家の先生方の存在は大きかった。普段から裁判官の方と一緒にお酒を飲むことはないですし、お仕事についてフランクにお話ししてくれたのは嬉しかったよね。どんな法律家を目指すべきかのイメージがだいぶ湧いたと思う。

キョウゴさん:図書館が非常に充実していたね。総合図書館と法学部図書館の両方を使ったけど、何でも見つかったので論文やレポート作成に役に立ちました。

リュウさん:コロナになるまではみんなに会いに行くために学校に行っていたぐらいだ(笑)。自習室ラウンジで昼食をとったり、息抜きにキャンパス内を散策したり、辛い時期に互いに励まし合いながら勉強できたのもよかったね。一生続く、良い人的関係を築けたと思う。

●東大ロー、どう改善すればいい?

ーーローでの2年間でやり残したことはありますか?

ハルカさん:もう少し自由な履修がしたかったです。どうしてもロー生は司法試験を意識しないといけないので、忠実に自分の興味分野を勉強できなかったのが残念。

リュウさん:自分もそう思った。興味ある授業があったとしても、過去の成績分布を見て就活的に不利だったらとるのを躊躇してしまったし、必修と被って取れなかった授業も多かった。あとは、もう少し英語の授業をとって英語力を鍛えれば良かったと思います。全部英語でやる授業は魅力だったけど、どうしても苦手でなかなか勇気が出せなかったです。

キョウゴさん:端的にもっと早いうちから司法試験対策を始めていればよかったかな…。ロースクールでの2年間は本当に短かったよね。2年目もしっかりと必修と選択科目があって忙しいので、もう少し計画的に対策を始めていれば楽だったと思う。

ーー自分が東大ロー専攻長だったらどのようにローを改善しますか?

ハルカさん:東大ローでは、学者になりたい人もとりあえずローに行けという流れがあると思います。純粋な学問と、実務家登用試験用の勉強はもう少し分けるべきかと。あと、予備校みたいに試験にのみ意識しなくも、今よりはもう少し試験を踏まえた授業内容やカリキュラムであってほしいです。

リュウさん:成績の公平性を考えて欲しいですね。同じ必修でも先生がクラスごとに違って、レポートを重視する先生もいれば試験に重みをおく先生がいて、評価方法がバラバラだと思う。もう少し透明性と公平性があるといいです。

キョウゴさん:成績は相対評価だから、あるクラスにたまたま優秀な生徒が集まってしまうとなかなかいい成績が取れなくなるよね。各生徒の努力を純粋に評価するためにも、必ずしも相対評価じゃなくてもいいんじゃないかな。そうすれば常に成績を意識せずに、もう少しやりたい勉強ができたと思う。

●予備試験との関係性、結局どうすべき?

ーーここからは、東大に限らず、制度全体の話をしましょう。ローと予備試験の両方を経験した身から見て、ロースクール制度と予備試験は今後も共存できますか?

キョウゴさん:ロースクールに2年間お世話になった身として言うのはあれだけど…私はロースクールにて非常に良かったなと思うけど、ロースクールという制度自体は失敗だと思う。ローが司法試験意識していないのも問題だし、ローを卒業しても司法試験に合格する保証は東大ローですらないからね。旧司法試験時代に戻すという意見も理解できるな。

リュウさん:ロースクールは依然として学費が高いし、お金がある人しか入らなくなるよね。ロースクールが掲げる多様な人材を育成するという理念と合致しないと思う。学費がかからない予備試験ルートに流れるのも無理ないと思う。

ハルカさん:けど、元々予備試験という制度は経済的な事情などの理由によりローに通えない人が法曹になれるためにできた制度であって、単にローに通いたくない学生が早く司法試験を受けるため、というのが趣旨ではなかったはず。社会人の合格率も低いわけで、結局優秀な学生にとってのロー回避のための制度でしかなくなっているから、両制度が矛盾している現状になってしまっている。共存するのであれば、予備試験とローの目的がそれぞれ何か、全体像を意識したほうがいいのではないかな。

●ロースクール存続に向けた「3+2年制度」の問題点

ーーこれまでのように、大学4年+ロー2年の計6年ではなく、最近は学部3年+ロー2年で司法試験の受験資格が得られる「法曹コース」が導入されましたが、これについてどう思いますか?

リュウさん:この制度だと、ロースクールによっては、学部4年生や、法学部以外の学部出身者はもちろん、他大学出身者がローに入りにくくなることが明らかなんだよね。東大ローを例にとってみると、2022年の入試では165名の枠のうち、最大50名が「3+2」枠となる。そのうち、最大30名は東大法学部3年生が面接だけで入れる枠で、残りは他大学出身者も対象となります。つまり、「3+2」枠を最大値で考えた場合、4年生は115名しか受からないことになります。さらに、2023年以降の入試では最大110名が「3+2」枠となる。そのうち、最大50名は東大法学部3年生が面接だけで入れる枠となり、その場合最大60名は他大学出身者も対象となる「3+2」枠となって、4年生は残りの55名の枠で競うしかなくなります。

参考資料:「2022年度以降の法科大学院の入学者選抜(法学既修者)の概要について」

(一同絶句)

キョウゴさん:となると学部と法科大学院が交差することはなくて、自分の学部からそのままローに進むという流れになってしまうんだね。東大内部生にとって東大ローに入りやすくなるのはいいことだろうけど…我々のように他大学から入学する人はこんなにも減ってしまうんだ。

リュウさん:それに、この3年生枠はあくまでも法学部の養成コース出身者だけの枠だから、理系など他学部の人は4年生と一緒に競うしかないんだよね。

ハルカさん:それだと本当に多様な人材がロースクールに入ってこないですよね。やっぱり、学部のうちは法律の勉強はもちろんだけど、それ以外の勉強もある程度したほうがいいんじゃないかな。この制度だと法律以外の勉強をする余地がなくなると思う。

キョウゴさん:これでは、学部時代は予備試験を勉強して、受からなかったら自分の大学のロースクールに進学する、という流れが一層定着するかな。

ハルカさん:ロースクールの良さはやはり人的関係の構築だと思うので、他大学の学生と交流が減るのは少々ロースクールの趣旨に反するんじゃないかと心配しています。

リュウさん:優秀な学生が予備試験や東大ローに集中せず、自己の大学に残るようにこの新しい制度を設けた各大学の趣旨は理解できますが、一層ロースクールが入りにくくなり、その結果予備試験しか目指さない学生が増えると思います。ただ、この制度を利用する学生はあまりいないかもしれないので、大きくは変わらないかもしれません。

●東大ロー、おすすめできる?

ーー最後にお聞きしたいのですが、これからの学生に東大ローを勧めますか。それとも予備試験の勉強に専念した方がいいですか?

キョウゴさん:仕事に対してのイメージがあって、早く実務に出たい人は予備試験に専念すべきです。ただ、依然として予備試験の合格率が1桁であることから、やはりローを考える人は多いでしょう。そういう方で、どの法律家になるか悩んでいる人はとりあえず最高峰の東大ローを目指すのがいいと思います。一方で、企業法務に全く興味がない人や、地方で一般民事をやりたいと既に思っている人は、企業法務にフォーカスする雰囲気が合わないかもしれませんので、他のローも視野に入れておくべきですね。

ハルカさん:自分の性格を見極めてローを選ぶべきです。周りが優秀でも、めげず自分も頑張らなきゃと思える人は東大ローがいい環境になります。同期に刺激されて勉強するモチベーションが芽生えるし、東大ローの良いところを自分の身にできると思います。ただ、今回の司法試験結果を踏まえ、学部の勉強ではまずは予備試験に焦点を当てた方がいいかもしれません。

リュウさん:全ての面においてローが最高だったとは思わないし、辛いこともたくさんあった。司法試験対策が不十分な中で全く関係のない分野を勉強したり、常にGPAを意識しないといけないのは大変でしたね。司法試験に合格することだけを考えたら、ローに行くより予備試験に合格した方がいいと思います。ただ、東大ローは目指す価値のある、未来を切り開ける場所だと思います。教授にしろ学生にしろ、今までの人生で出会ったことがなかった人と出会えて、それだけで物凄く刺激になりました。東大に通えるチャンスは一生に一度のものなので、是非そのチャンスを掴んでほしいです。