日本弁護士連合会の人権擁護大会(岡山市)で10月15日、「精神障害のある人の尊厳の確立を求める決議」が採択された。これに先立って14日に開かれたシンポジウムでは、精神障害のある人の強制入院の問題点について、当事者や精神科医が意見を交わした。精神科病院に入院したことがある人から得られたアンケート調査の結果報告もあった。

●「自尊心が削られていくのを感じた」

統合失調症と診断され、強制ではないものの入院した経験がある鷺原由佳さん(DPI日本会議事務局員)は「精神科病院は、癒しや休息のための場所ではなく、自尊心が削られていくのを感じた」と入院していたころのことを振り返った。

「たとえば、毎日受けるバイタルチェックのときに、看護師に二の腕や手の平を何度も握られたことがありました。『こわい』と感じたので、看護師長にこのことを伝えると『ふうん』と流されてしまったんです。近くで私の話を聞いていた別の看護師は『うわ、妄想でしょ。欲求不満なんじゃないの』と言っていました。尊厳ある人間としての処遇をされていないと感じました」(鷺原さん)

鷺原さんは、周囲に話を聞いてくれる人がおらず、「入院して」と言われ続けたために「仕方なく入院という手段を選んだ」という。

「私は、精神の不調は『苦しみ』や『悲しみ』の表現のひとつだと考えています。『あってはならない』と症状を消すことに躍起になるのではなく、その人の『ありのまま』を肯定し、丁寧に向き合ってほしい」(鷺原さん)

鷺原さんの話を受け、訪問を中心とする治療や支援に取り組んでいる精神科医の伊藤順一郎医師は「(患者が)どれだけ混乱していたとしても、よく話をしてみると、寂しいなどのたくさんの思いが込められていることがわかります。医師は『症状にどの程度の薬物が必要なのか』などを考えることも必要だが、『(患者は)苦悩している人なんだ』という理解も大切」と強調した。

●精神科医「入院しなくとも治療・支援はできる」

シンポジウムの様子

コーディネーターをつとめた⿅野真美弁護士(東京弁護⼠会)は、ある精神科医にこのシンポジウムの案内をしたところ「精神科に入院する人は正常な判断ができない。そのため、周りの人が支援して、患者のかわりに正しい判断をしてあげることこそが大切。強制入院制度がなくなった場合は、困る人がいるのではないか」と言われたという。

鷺原さんは、強制入院を経験した仲間が「『精神科に入院させてもらってよかった』という患者の言葉は、ほかに行き先や居場所がないという意味だ」と話していたことを紹介し、「精神的なクライシス(危機)を迎えた人の行き先が精神科病院しかないということこそが問題だと思います。強制入院制度があるために、制度に依存してしまい、本当に必要な手厚いケア、傾聴、寄り添い、対話がなおざりにされてしまっているのでは」と話した。

また、家族の立場からの苦悩もある。

兄が精神障害を発症したことをきっかけに、ソーシャルワーカーとなった滝沢武久さんは、現行の医療保護入院制度に「家族の同意」が必要とされていることを疑問視する。「入院させた側」の家族と「させられた側」の患者本人との間で対立関係が生まれてしまうことを指摘し、「家族の同意という要件を外せばよいというわけではなく、強制入院という手段を使うこと自体が問題」と訴えた。

伊藤医師は「入院しなくとも治療・支援はできる」とし、「入院になってから治療するのではなく、入院前の段階でよく話を聞き、治療・支援をおこないたい。そのためには、精神医療がもっと身近にあることが必要」と語った。

●「もう人並みの幸せはないと思って下さい」と言われた

シンポでは、精神科病院での入院経験を有する約1000人へのアンケート・インタビュー調査(実施期間:2020年6月20日〜7月31日、12月12〜25日)の結果も報告された。入院経験がある人の約8割が入院中に「悲しい・つらい・悔しい」などの体験をしたことや、約4割が「入院に納得できなかった」ことが明らかになったという。

「悲しい・つらい・悔しい」体験の内容としては、「外出制限」(12%)「保護室」(12%)「薬の副作用」(11%)「入院の長期化」(10%)の順に多かった(複数回答可)。

報告をおこなった柳原由以弁護士(東京弁護⼠会)は「患者は、精神科病院で一般的におこなわれていることに対して、悲しみやつらさを感じている」と指摘した。自由記述欄には「孤独」「収容所のようだった」「一人の人間として扱われなかった」「飼育されているようだった」などの言葉が並んだという。

シンポジウムの様子

以下は、実際に寄せられた具体例の一部だ。

「親が看護師から、もう人並みの幸せはないと思って下さいと言われた」

「幻覚のような夢と現実の間のようなところに意識があり、看護師が話しかけてきたが、うまくこたえられなかったら、『あー、パーになっちゃったかぁ』といった。その声も聞こえていて、とてもショックだった」

「急に役所の人などが来て、とにかく病院に行くぞと言われつれて行かれた。自分の意志がなかった。家に帰りたいと言ったけれど、無理やり入院させられた。これは、現実ではないと思うくらいに、こわくつらかった」

「(医療従事者は)患者に対して、常に高圧的な態度だった。馬鹿にしたような、口の利き方だった。家畜のような扱いだった」

「先生が話も聞いてくれず、すぐ縛られ注射を打たれ、薬を飲まされ、一週間縛られ続け、解いてくれなかった。訳も分からず説明もなく入院させられ、恐怖を受け付け食事もとれず、人生が終わってしまったような感じを受けた」

「何回も入院すると慣れて来てしまい、もうどうでもいいと思う様になる。それでも、そこで諦めなければ、なんとかなる」

(※資料より抜粋。原文ママ)

柳原弁護士は「10〜30年ほど入院し、諦めている人はとても多い。しかし、出てくればなんとかなるという実態はあるため、私たち弁護士がサポートしていくべき」と語った。

なお、シンポジウムは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、入場が制限され、市民にはオンラインで動画配信された。