演劇界などのハラスメント撲滅を目指している団体が11月5日、都内で記者会見を開いて、演出家の男性から名誉毀損で訴えられたことを明らかにした。

この団体は、ハラスメントの相談を受け付けたり、啓発活動をおこなっている「演劇・映画・芸能界のセクハラ・パワハラをなくす会」。

ある演出家の男性が、少女に対するわいせつ行為により、児童福祉法違反で実刑判決を受けたのち、2018年から2019年にかけて、再び演出家や主演などに起用されたことを受け、公開質問状を送付したり、署名活動をおこなったりしていた。

同会代表で、俳優の知乃さんは「演劇界のハラスメントは全員が当事者意識を持って取り組まなければならない問題です。今回の提訴は、私たちの活動を理解してもらえていないのかと思い、残念です」と話している。

●慰謝料のほか、文書の削除や謝罪文の掲載を求められている

訴えられているのは、知乃さんと同会副代表である田中円さん。同会顧問で、2人の代理人をつとめる馬奈木厳太郎弁護士によると、男性は今年9月、知乃さんらを相手取り、同会に掲載されている文書が名誉毀損にあたるとして東京地裁に提訴した。慰謝料500万円のほか、文書の削除や謝罪文の掲載を求めている。

男性は数年前、講師をつとめるワークショップの受講者である少女にわいせつ行為をしたとして、児童福祉法違反の疑いで逮捕され、懲役2年の実刑判決を受けた。

その後、刑期を終えた男性は、事件前に手がけていた舞台の続編で、引き続き原作・脚本・主演などをつとめると発表されて、ネットなどで批判が高まったことなどから、同会は舞台のスポンサーに再検討を求めたり、署名活動をおこなっていた。

男性は同会が公式サイトで掲載している一連の文書の中で、「(男性が)脚本・演出家という立場を利用しキャスティングを餌に行なった大変卑劣なものであったと思います」などとされている点について、虚偽であり、名誉毀損だと指摘しているという。

なお、提訴までに同会に対する文書の削除依頼はなかった。

会見で、馬奈木弁護士は「原告が虚偽とおっしゃっているところが論点になるかと思いますが、公共の利害に関する事実であると考えています。なくす会には違法性がないことを主張していきたいです」と話した。

馬奈木厳太郎弁護士

●「演劇界全体で考える問題」

知乃さん自身が高校生のときに、演出家(原告の男性とは別人)から受けたセクハラ被害を告発する事件があった。このときに演出家が謝罪して、支払った和解金をもとに、同会は2018年、設立された。

知乃さんは「私は、自分と性的な行為をすれば、仕事を紹介してあげると言われました。被害にあった当時はまだ10代で、自分と同じような若い子が同様の被害に遭わないようにと思ったのがきっかけです」と話す。

同会にはこれまでに100件以上のハラスメントの相談があったという。

「私たちに相談してくれた人でも100件ですので、実際の被害はもっと多いと思っています。ハラスメントは私たちが当事者意識をもって取り組むべき問題です。

いまハラスメントをなくしていこうと社会は動き始めているのに、今回名誉毀損で訴えられたことは後ろから引っ張られるようで非常に残念です」

田中さんも「韓国では、演劇界で著名な人がセクハラで訴えられた場合、舞台を去っています。しかし、日本の演劇界では同様のことをしてもまた戻ってこられます。教員がわいせつ事件を起こしたときに、そのままの立場で学校に戻ってくるでしょうか」と指摘する。

また、馬奈木弁護士は「いま、演劇界ではハラスメント防止のルールづくりや、現場での講習会実施など少しずつ変わってきています。これは演劇界全体で考えるべき問題だろうと思っています」と話す。原告に対して反訴を検討していることも明らかにした。

男性は弁護士ドットコムニュースのメール取材に「お問い合わせありがとうございます。ご質問の件に関しては訴訟の中で明らかにしてゆくつもりでおります。ご理解のほどよろしくお願いいたします」と回答した。

第1回口頭弁論は、東京地裁で11月17日に予定されている。