元プロ野球選手でコメンテーターとして活動している長嶋一茂さんが、「週刊新潮」の記事でプライバシーや肖像権などを侵害されたとして、発行元の新潮社(東京都新宿区)に330万円の損害賠償を求めた裁判で、東京地裁(中村心裁判長)は12月16日、長嶋さんの請求を棄却した。

週刊新潮(2020年8月27日号)で、組織犯罪処罰法違反(証人等買収)罪で逮捕された元会社役員や収賄容疑で訴追された元国会議員と長嶋さんが一緒に写った写真を掲載し、「一茂氏は、深いお付き合いの彼の逮捕劇をどう受け止めているのか」と問題提起。記事では、長嶋さんの代理人弁護士の回答を掲載していた。

長嶋さん側は裁判で、(1)プライバシーの侵害、(2)肖像権の侵害、(3)名誉毀損を主張。しかし、判決はいずれの主張についても否定し、長嶋さんの全面敗訴といえる内容だったことがわかった。

裁判所は、週刊新潮の報道についてどのような判断をしたのか。判決を読み解いていきたい。

●週刊新潮の報道内容は?

週刊新潮に掲載された記事(「カジノ疑獄」証人買収犯と「長嶋一茂」の深い関係、2020年8月27日号)で、「事情通」の話として、長嶋さんと組織犯罪処罰法違反(証人等買収)罪で逮捕された元会社役員の関係を「ハワイ仲間」であり、「"一茂さんも任意の聴取を受けたらしい”なんて話も流れたんですよ」と記述。

一方、長嶋さんと元国会議員は「さほど親しくはなく」とし、あくまで元会社役員を介した関係としたうえで、「一茂氏は、深いお付き合いの彼の逮捕劇をどう受け止めているのか」と記した。

また、元会社役員および2019年に収賄容疑で訴追された元国会議員が長嶋さんを中心として、笑顔で一緒に写った写真を掲載。この写真について判決は、2020年5月下旬に、3人が元会社役員の自宅内で会食した際に、元会社役員の携帯電話で撮影されたものであることが争いなく認定されている。

●(1)「公益的な目的や手段としての必要性が認められる」

裁判所は結論として、原告側の(1)〜(3)いずれの主張も認めず、請求を棄却した。どのような判断をしたのか、各争点ごとに見てみる。

(1)のプライバシーの侵害については、原告側は「(長嶋さんは)テレビ番組のコメンテーターであるものの、専門外の一般人として率直な意見や感想を述べているにすぎず、そのコメントが世論に大きな影響を及ぼすことはない」などと主張。

裁判所はまず、記事中の記載や掲載写真で公表された事実は長嶋さんのプライバシーに当たり、事実の公表により長嶋さんが「一定程度の不利益を被る」と認定した。

もっとも、記述は交流の具体的状況を詳細するものではなく、写真撮影に同意しており、元会社役員や元国会議員に第三者への公開をおこなわないよう求めたともいえないとし、「公開しないことが当然に強く要請されるような写真」でもないとして、今回の公表で長嶋さんが被る「不利益は大きくない」と判断。

長嶋さんは社会に「一定の影響を与え得るコメンテーター」で、同席の2人の刑事事件などについて社会的関心が高い時期に公表された記事には、「原告のコメントを適切に評価するための判断材料を提供する」という公益的な目的や手段としての必要性が認められるとして、長嶋さんのプライバシー権を違法に侵害するものではないとした。

●(2)肖像権は「社会生活上受忍の限度を超えない」

原告は(2)肖像権の侵害について、「掲載写真は私的に撮影されたもので、まったく公開を予定していないものだから、これを公開することは違法」と主張。

裁判所は、掲載写真は公表されないことに対する期待が大きいものとはいえず、公表することには公益的な目的や手段としての必要性も認められるとして、長嶋さんの人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えず、肖像権を違法に侵害するものではないとした。

●(3)「名誉を毀損するものとはいえない」

「長嶋さんが元会社役員の犯した犯罪に何らかの関係を有している旨の事実を摘示するもので、長嶋さんの社会的評価を低下させている」などと原告が主張した(3)の名誉毀損については、どう判断したのか。

裁判所は、記事中に長嶋さん自身が元会社役員の「逮捕被疑事実に関与した旨の記載はなく」、代理人弁護士の回答として、長嶋さんが任意で捜査されたなどの事実や両名の刑事事件は一切関知していない旨などの記載があることから、「一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると」、長嶋さんが元会社役員の「犯した犯罪に何らかの関係を有しているとの事実を摘示するものではない」と認定。

長嶋さんの「交友関係について言及するものにすぎず、一般の読者の読み方を基準にしても、原告の人格的価値に対する否定的評価を含むものではないから、原告自身の社会的評価が低下するものではない」とした。

さらに、記事の公表には「公共性及び公益目的がある」とし、「記述の内容の真実性についても認められる」として、長嶋さんの名誉を毀損するものとはいえないと結論付けた。

●当事者の見解

週刊新潮編集部は、次のようにコメントした。

「本件記事は、長嶋一茂氏が、カジノ疑惑関連で逮捕・起訴された政治家らとの交友関係を報じたものです。テレビで情報コメンテーターを務め、一定の社会的影響力のある長嶋氏の交友関係を報じることには公共性、公益目的があり、プライバシーや肖像権を侵害したり、名誉を毀損したりするものではあり得ず、当然の判決です」

長嶋さんの代理人にもコメントを求めており、回答があれば追記する。