いじめがきっかけで、被害者は恐怖感などから不登校になったり、転校を余儀なくされたりするケースは珍しいものではない。一方の加害者はと言えば、何事もなかったかのように変わらない日常生活を送っている現実もあるだろう。

こうした現状を受け、「加害者を出席停止にさせるべき」と考える人(児童や生徒、保護者、教員)が5割を超えることがアンケートで明らかになった。調査を行ったのは名古屋大学大学院の内田良准教授のグループで、8月に小中学校の教員と保護者、中学生それぞれ400人、計2000人にネット上で実施した。

NHKなどの報道によれば、加害者を「出席停止」にすべきか?という質問に対して、「とても思う」もしくは「どちらかと言えば思う」という回答が、中学生で53%にのぼり、小学校と中学校の保護者は、ともに60%を超えるという。

果たして、いじめ加害者の出席停止措置は有効なのだろうか。学校のいじめ問題に詳しい野澤哲也弁護士に聞いた。

●制度があっても「利用条件は厳しい」

ーーいじめ防止法や文科省の通知などいじめ加害者の措置として、出席停止が定められているそうですが、法的にはどんな問題があるのでしょうか。もし出席停止が実施されていないとすれば、どのような運用上の問題、課題があるのでしょうか。

学校教育法では、原則として、小中学校の生徒に対しては、退学や停学を課すことはできないことになっています。中学校までは義務教育なので、退学や停学となってしまうと義務教育が果たせなくなってしまうからです。

そのため、同法は、小中学校でも、素行不良などで他の生徒の義務教育を受ける権利を妨げる生徒に対しては、停学の代わりに「出席停止」という制度を利用できると定めています。いじめ防止法でも出席停止の適切な運用を求め、文科省も運用の在り方を公表しています( https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/07020609.htm )。

もっとも、その利用条件は厳しく、(1)他の生徒やその財産、先生を傷つけたり、学校の設備を破壊したり、授業妨害を繰り返すなどして、他の生徒の教育を妨げる場合に、(2)事前に保護者の意見を聞き、(3)命令の理由や期間を記載した文書を交付すること、(4)諸手続きを教育委員会規則に明記すること、が求められています。

いじめが起きた場合に、加害者がこの条件に該当するかを検討しなければなりません。特に問題となるのが、(1)と(2)です。いじめは、当事者が複数いることが多く、何が起きたかを客観的に把握するだけでも多くの時間と労力を要します。ただでさえ日々多忙な先生方がこれを行うのは簡単ではありません。

また、そこに保護者の意見を聞くとなるとさらに大変です。事情が明確で分かりやすければ、出席停止も利用できますが、事情を確認する段階で時間がかかり、出席停止まで至らないケースが見られます。

逆に、出席停止の条件は満たさないのに、事実上、出席停止のように学校に来させない対応をすることは、法令違反である上に期限が長くなりがちで、これも問題です。

●利用しにくく、利用しないまま学校への不満が高まる原因に

ーー出席停止という措置は、いじめ対策として有効なのでしょうか。いじめ問題について学校、教育委員会がとるべき対策はありますか

いじめの申告があれば、学校現場は対応に追われるので、速やかな対応のため、加害児童を出席停止にするのは一つの選択肢です。

ですが、現状では利用しにくく、利用しないまま「学校は何も対応してくれない」と関係者に思わせてしまうか、逆に条件を満たさないのに事実上の出席停止として、加害児童に過度の制裁を課すことになってしまうかのどちらかです。

出席停止の適切な利用のため、利用条件を緩和することが考えられますが、例えば、「他の生徒の教育を妨げる場合」と利用条件を限定している点について、「いじめなどの事情の速やかな把握のため、一時的に必要がある場合」などと範囲を工夫することが考えられます。

「一時的に必要」とすることで、むやみに出席停止期間を長くしないため、加害児童側にも配慮することができます。

そもそも、いじめ加害者に対する措置として、出席停止は一つの選択肢に過ぎません。最も大切なのは、いじめが起きた場合に、いかに早く事情を把握し、いじめをやめさせ、被害児童が安心して教育を受けられる環境を取り戻すかです。

そのために出席停止とまではいかなくても、加害児童を別室登校にするのも一つの手ですし、それはいじめ防止対策基本法にも明記されています。出席停止か通常登校かの1か0かでは対応が硬直すぎます。

また、いじめ相談を受けていると、加害児童側に学校がどのようにアプローチして対応しているか、被害児童側に分かりにくいという状況が多く見られます。

学校が、何を目指して、どんな対応、アプローチを行っているのか、今後の見通しはどうか、学校がそれを被害児童側と適切にコミュニケーションするだけでも、いじめをやめさせ、被害児童が安心して教育を受ける環境を取り戻すことにつながります。

今回、公表された「加害者は出席停止とすべき」という意見も、その趣旨は被害児童と加害児童の不均衡が原因ですので、このように中間の措置で穴埋めすることで、いじめ問題を解決しやすくなるのではないかと考えています。

【取材協力弁護士】
野澤 哲也(のざわ・てつや)弁護士
神奈川県弁護士会所属。労務を中心とした企業法務に従事する傍ら、退学などの学校問題、幼稚園を含めた施設事故など子供にまつわる案件を取り扱っている。
事務所名:野澤・中野法律事務所
事務所URL:http://www.nozawa-law.jp/